40.異世界召喚
日本で起きた異常気象は、世界でも話題になった。
当初は連日ニュースで取り上げられ、賢人たちはビルに近づくことすらできなくなった。
この混乱は局所的で、しかも大きな事故が起きなかったこともあってか、政府は、突発的な気象現象が重なった、と説明した。
原理や詳細、記者の疑問点などは、調査中として一切応じなかったのが問題視されたが、進展することは無かった。
加えて一部の映像マニアがこの異常気象の動画をこぞって投稿し、CGで作ったとコメントしたため、世間ではフェイクニュースだとさえつぶやく者も現れた。
マキさんたちが裏で操作したのではないかと賢人は考えている。
ゲーム会社、スノークロックは当事者であることを隠蔽した。
一高の真相を知るものも限られており、社員には一応、急な海外出張に行ってもらっていると話してある。
マキさんからの提案だった。
社長と社長秘書は、一高の話を誰も怪しまないことに、裏で大爆笑していたそうだ。
よって会社としてはマスコミに対して、ただただ驚いているが被害はまったくなかったとコメントを残した。
なお一高さん不在でも、アンガス戦記オンラインは運営されており、この騒動で会社名を知ったユーザーの新規加入も増えているという。
この騒動は意外にも、会社に利益をもたらしていたのだ。
社長の木村瑠李さんは、光音の母親であることを知った。
一高の居場所を探したとき、光音が社長に会おうとしたことがやっと理解出来た。
今までマキさんは社長と何度も意見交換を繰り返し、今後の対応を協議していたそうだ。
そして今、マキさんと一緒にゲーム会社へやってきた。
久しぶりにビルの前に立ち、空を見上げる。
あの慌ただしかった一日が嘘みたいだ。
社長室に入ると瑠李さんの他に、社長秘書の新藤さん、そして光音が出迎えてくれた。
社長の名刺を受け取り改めて自己紹介を受けると、三人は並んで深々と頭を下げた。
賢人はあたふたと手で制するように前のめりでやめて下さいと三人に声を掛けるが、埒があかないのでマキさんに助けを求める。
やっとのことでソファーに落ち着いて座ることができたが、三人の表情は暗い。
まずゲーム世界と異世界とのつながり、失踪事件の事など、マキさんから簡単に説明が入る。
そのうちの一人が賢人の弟であるというくだりで、再び謝罪を受けた。
「弟さんの事、あのバカに代わってお詫びします。申し訳ありませんでした」
「ゴメンナサイ」
「申し訳ございませんでした」
「そんな、これは一高氏が単独で進めていた事だったわけで
弟は生きてる事がわかったし、あの、あと、えーと、そちらの方が大変でしょうから、
だからですね、本当、恐縮するんでやめてもらえますか?」
賢人の話を聞いてもなお、より深々と頭を下げる瑠李さん。
光音と新藤さんもお手本のような姿勢で腰を九十度に折り曲げると、丁寧に頭を下げた。
「今後は当社でも原因究明と、行方不明者の奪還に全面的に協力しますので、本当にあのバカがスイマセン」
瑠李さんが言い終えると再び頭を下げ、連動するように光音と新藤さんも頭を下げた。
結局賢人の願いは受け入れてもらえず、マキさんが制止するまで三人の頭皮を眺める時間になった。
行方不明者については、マキさんの組織が正式に参加するということだ。
これで問題が解決につながればと期待が高まった。
「ところで、新作の開発は今後どうするんですか」
気になっていたことを質問すると、三人は顔を見合わせ、表情を緩ませた。
「それはもう、今まで通り開発しますとも。
元々このゲームは、私と秋穂がバカの世界に魅せられて、作り始めた物なので」
一高は監修のような役割で、いなくても問題ないという。
そう言われるとちょっとかわいそうな気がしてきた。
「そんなにバカを強調しなくても、えーと、光音君の父親でもありますし」
瑠李さんの説明には一高に対する怒りがにじみ出ており、賢人はさすがに日和ってしまった。
「いえ、あいつはもうバカ、いや大バカ野郎です。
思えば、出会った頃から真っ直ぐで、何を考えているか分からない、不思議な人でした。
初めてあのバカがやって来たときは二人して……」
「それは瑠李がいやらしい質問ばっかするから」
そう言って笑い出し、瑠李さんと新藤さんは昔話に花を咲かせた。
その話ぶりから、仲の良かった三人がいたからこそ、このゲームが生まれたんだなと想像をめぐらせた。
「世界観については、もう異世界そのものなので文句なしということで、
今後はユーザーインターフェイスの改良をして、より長くストレスなく遊べるように改良していこうと考えていまして、
光音にも開発に参加してもらうことになりました」
その報告が今日一番の嬉しいニュースとなった。
光音のT研での活躍を知っていたので、間違いなく即戦力になると賢人は思った。
「それで先輩、T研の方は今後、あまり参加できないかもしれません」
「オッケー、そこんとこは先輩もきっと理解してくれるさ。
渋ったら俺も説得に強力するよ」
「ありがとうございます、橘先輩」
賢人はさっそく異世界で経験した出来事を、もっとゲームらしく調整できないか、アイデアを出した。
雪山で寒かったり、火山で熱かったり、高いところから落ちて痛かったりという部分をレベル調整できるように。
それが実装されたら、リアルオープンワールドでも、思う存分楽しめる。
帰る前に、久しぶりに装置を使ってアンガス戦記をプレイした。
異世界の状況を確認するためだ。
魔王城の上空に垂れ込めた暗雲は消えていた。
原生林で凶暴化した魔物たちもいなくなり、オアシスの街やアクセルたちの村も、いままで通りの生活に戻っていた。
しかしナナハルとガルシアの姿を見た人はいなかった。
転移に成功したのか、また転生したのか、一高の行方も分からない。
ただ、最後の言葉通り、異世界とのゲートは閉じられたので成功したとしておこう。
ノエルメシア王国。
国王が命じた召喚魔法は実行していなかった。
正確には魔道士が思うように集まらず、混乱が続いていた。
地球から新たな行方不明者を出さずに済んだことは、賢人にとって朗報だった。
今となっては召喚せずにアンガス戦記というゲーム環境でやってこれる手軽さを知らせてあげよう。
改めて国王に進言した。
「今度は私が勇者になります。私も転生者です」
「にゃに? そなたも転生してきたというのか」
「はい、正確には、故郷から簡単に転生できるツールを持っているので何度も往来しています」
「そんにゃことが、よもやこの国以外に可能なのか。おにゅし一体、どこの国の差し金じゃわん」
王の間にどよめきが起こった。
このツールは異世界にとって危険な代物だ。
一高は異世界に特異なルールを生み出してしまったのだ。
もし他国に知られたら、チートプレイヤーが入り乱れて乱世の時代が始まってしまう。
しかし今はこちらのいいように使わせて貰おうじゃないか。
「私は復活できますし、宮廷魔道士を動員する必要はありません」
「なんとそれは。素晴らしいではないか。のう」
この国の内政事情は知らないが、魔道士を集めるにはかなりの資金が必要ではないか。
国王は警戒心をすぐに解いた。
国王の反応に便乗し、感嘆の声を上げ、喜んでいる者もいたが、側近は表情が強ばっていた。
何か都合の悪いことでもあるんですかねぇ。
賢人は側近に視線を向けると、慌てて目線をそらせた。
その行動がますます怪しい。
一方国王は上機嫌になり、さっきまでの混乱が嘘のようだった。
「そなたが勇者となればこのノエルメシアも安泰である。
もし魔王を打ち負かした暁には我が姫との婚姻を認めよう、メロー姫をここへ」
以前ナナハルから聞いていた話が、今度は自分に回ってきた。
しかもメロー姫とな。
メロン農家の長男としては気になる名前だ。
呼ばれてやって来たのは、ナナハルと同じ年頃に見える可憐なお姫様だった。
ライトグリーンの巻き髪と、大きな瞳、長いまつげが可愛らしさを際立たせている。
ナナハルに婚姻を諦めるよう説得したときに、躊躇していたのもうなずける。
メロー姫はスカートの裾を持ち上げ、軽く会釈した。
その立ち振る舞いに賢人すら心が揺らいでしまった。
ただ賢人は大学生だ。
この年の差は許されないと思う。
「ありがとうございます、しかしながら申し上げます。
ナナハルはまだ、生きています。
どうしても故郷に連れて帰りたいのです。
召喚された人間を帰す方法を、調べて頂けないでしょうか」
メロー姫の表情がぱっと明るくなった。
国王は驚いた表情を見せると、いつかのように唸りだした。
側近が国王に顔を近づけて小声でなにかを告げる。
「前の勇者は魔王となった。
ならばそなたが倒すのが定め。
遙か昔からそう伝承されておるのだぞ」
異世界の道理を、賢人に守る義理はない。
今、このときを生きる者が、新たな伝承をしていけばいいのだと伝えたかった。
「悪魔の力を封印するか、解放すれば魔王は消滅し、結果は同じく平和が訪れます。
そうすればきっとナナハルも正気になるはず。
それを伝承すればいいのです。
新しい勇者の物語を」
「そうです王様、いえお父様。
ナナハル様は決して悪い人じゃありません。
ケンニイ様の言うとおり、正気を取り戻していただければ、それでよいではありませんか。
故郷へ戻れる方法を、お教えして差し上げてくださいまし」
賢人の言葉に促され、堰を切ったようにメロー姫が本音を吐露した。
ずっとナナハルのことを心配していたのだ。
「むむー、どうしたものか。のう」
唸る国王に側近が顔を近づけると、国王は手で側近の発言を制した。
「もしそなたの言ったことが本当ならば、ノエルメシア王国国王として願いを聞こう。
ただし本当に魔王の力を封印することが可能ならばの話しじゃ。
できぬ場合は魔王は必ず討伐せよ、それでよいな」
「はい、必ずや成功させて、連れて戻ります」
国王は頷くと、側近と共に王の間を後にした。
メロー姫はお辞儀をしながら国王を見送ったあと、賢人に向き直り、凜とした声で願いを託した。
その目は少し潤んでいるように見えた。
「ナナハル様をどうか、お救い下さい。お願いいたします」
賢人は大きく頷き、必ず、と言ってその場をあとにした。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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