39.一高の意外な結末
「待ちなさい、ちゃんと社長に報告して!一高さん」
混乱からいち早く回復した社長秘書が、業務を遂行する為、一高を追いかけはじめる。
その声を聞いて、ようやく賢人と光音もここへ来た目的を思い出し、行動を始めた。
「こら一高! 報告! 報告しろー!」
社長秘書は大声で一高を追いかけるが、サーバールームをでると誰もいなかった。
乗ってきたエレベーターが待機していたからすぐに移動できたんだ。
こんなことになるなら、降りたときに上の階に戻しておけばよかった。
社長秘書はホールボタンを乱暴に連打した。
ランプはついたが、すぐには降りてこないのがもどかしい。
社長秘書は鼻を鳴らすと、胸ポケットからスマホを取り出した。
到着を知らせる音が鳴り、エレベーターのドアが開く。
賢人たちは急いで乗り込み、閉まるのボタンを連打して、上の階へ向かう。
エレベーターの中で社長秘書は、彼は今、別のエレベーターを使って屋上に向かっていると教えてくれた。
社員証で行動履歴は全て把握出来るという。
「屋上へは高速エレベーターの方が早いです。
こっちにあります。急ぎましょう」
スマホを操作しながら社長秘書は一高の動きを監視した。
三人はエレベーターホールの角を曲がってビルの外側に面した別のエレベーターに乗り込んだ。
側面がガラス張りになっており、外の景色が一望出来た。
社長秘書がドアの横に設置された主操作盤の上にスマホをかざすと、フロア表示が緊急に切り替わりドアが閉まった。
「こうすると、停止せずに最上階へ行けるんです。
今は緊急なんで、奥の手使っちゃいました」
急場をしのいでくれた社長秘書に感謝した。
それにしてもこの社長秘書。
会員証の履歴を検索出来たりビルのエレベーターシステムハックしたり、どれだけ強い権限をもっているんだ。
液晶インジケーターを見上げる光音にかける言葉が見つからないまま、エレベーターは最上階へ到着した。
エレベーターを降りると、屋上につながる非常口のドアに手をかける一高を発見。
一高がふいに振り返り、賢人たちと目が合った。
一高は目を見開いて顔を引いた。
まさか追いつくとは思っていなかったようだ。
すぐさまドアを引いて、わずかに開いた隙間に体を滑り込ませた。
賢人は無言で追いかける。
外階段を駆け上がり、屋上に到着すると、社長秘書の言ったとおり、ヘリポートがあった。
しかしそこにヘリコプターはなかった。
一高はヘリポートの真ん中で天を仰ぎ、上空にできた渦に向かって手を広げていた。
空は真っ暗で、さっきより大きく、激しく渦巻いていた。
穴がかなり広がっているのがわかる。
「観念してください、一高さん。
あなたの計画も詰めが甘かったようですね」
賢人は一高がヘリコプターで逃げると想像していた。
だから追い詰めたと思った。
しかし一高はたじろぐこと無く、逆に興奮した様子で答えた。
「何を言ってるんです?遂に完成したんですよ、これで向こうに帰れます」
「帰れるって?そっちこそなにを」
光音と社長秘書も追いついてきた。
上空の大きな渦に怯えながらも、父親の様子を心配そうに見守っている。
賢人は一高の言っている意味がわからず困惑した。
「私は向こうの世界、異世界の人間なんです。
向こうで死んで転生し、この地球に生まれたんですよ、木村一高としてね」
一高の出生の秘密、そして真相に驚きを隠せない。
「あなたが向こうから来た人間?そんな馬鹿なことあり得ない」
賢人は信じがたいことを言われ、パニックになる。
「君は異世界、アンガスのことをよく理解していましたね。
だったら異世界と地球が遙か昔から繋がっていたことも、想像できるでしょう」
一高の言葉が賢人に重くのしかかり、沈黙するしかなかった。
七治が異世界へ召喚されたのはわずか七年前の事だ。
異世界召喚などという非科学的なことが、そんな短い期間でできる訳がない。
一高は更に続けた。
「私は宮廷魔道士だった。
国王に仕え、三百年に一度復活するという魔王との戦いに備え、日々転生者を呼ぶための術式を研究していた。
しかしそれが、信じられないほどの魔力量が必要だということを知り、私たちは愕然とした。
それは国全体で一年間に消費する量の二倍以上。
集める方法も、貯めておく設備も未知なる物だった。
あらゆる文献を読みあさり、先人達がおこなっていた方法を探したが見つからない。
諦めて去る者もいた。
しかし私は諦められなかった。
この研究が成功すれば、世界中の人たちが救われるのだから。
そんな思いが通じたのか、ある日一筋の光が見えた。
大陸の西側に住むと言われる魔人たちの力だ。
身体能力が人間の十倍以上あり、魔力も桁違いに持っているという情報を得た我々は賭に出た。
精鋭の部隊を送り込み、魔人たちを捕獲するよう願い出た。
魔人を捕まえることは容易ではない。
西側は凶暴な魔物も徘徊しているからだ。
ノエルメシア王国で優秀な部隊は国を守る使命がある。
国王は民間から腕に自信がある者を募集し、向かわせることにした。
数十人が集まったが、それはもうずさんな有様だ。
金目当てで集まったゴロツキと、ケンカが強いといいはる若者。
職を失った労働者たち。
目立ちたいだけで応募したという中級貴族の御曹司。
だいぶ昔に引退したという老兵もいた。
明らかに力不足を感じたが、国はすぐに特別討伐部隊として任命した。
その名誉や名声に溺れ、勘違いする無礼者もいた。
作戦内容も知らされないまま、国王の名の下に、部隊は動き出した。
その時、私が統括指揮を執ることになった。
戦闘経験はない。
ただ作戦内容の漏洩を防ぐために同行せざるを得なかった。
自信が無かったが自分が言い出したことだと腹をくくった。
しかし西側に住む魔物は想像以上に強かった。
結果的に部隊は全滅。
もう一歩のところで、私は死んでしまったのです」
一高の話を整理すると、賢人は異世界と繋がることが偶然では無く必然だったことを悟った。
七治が失踪して異世界へ召喚されたことも、ゲームの中で異世界へ入り込むことができるのも、すべてはこの男、異世界人の仕業だったのだ。
光音と社長秘書は立ち尽くしていた。
こんな非常識なことを聞かされて、頭が混乱しないわけない。
この計画は誰も知らない、一高の単独行動だったのだろう。
一高は話し終えると、鞄から一本の棒を取り出した。
その柄が伸びて杖になった。
一高は杖を地面に突き立てた。
そして強い風が舞い上がり、杖を中心に地面が光り出した。
それがヘリポート全体に広がり、大きな魔方陣が現れた。
魔王城で体験したおぞましい光景が一瞬頭をよぎる。
賢人は危険を感じ、唖然とする光音と社長秘書の手を強引に引っ張って階段を降りた。
空にあいた穴の中心から、光の輪が生まれて魔方陣が映し出された。
そして地面から光の粒子が舞い上がると、やがて一本の大きな光の柱となって空に伸びた。
「おおっと!」
「キャー、なにーーー」
「父さーーん」
周囲に旋風が巻き起こり、賢人たちは吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。
どのくらい経ったのだろう。
気がつくと、今までの暗い雲は嘘のようにかき消され、太陽の光が煌々と顔を照らした。
賢人はゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。
光音と社長秘書の無事を確認すると、ヘリポートに登り、一高が持っていた鞄を見つけた。
中にはかき集めていた資料が入っていた。
一高の姿はない。
賢人は雲一つ無い青空を見上げた。
本当に異世界へ旅立ったのか。
なんの答えも出ないまま、しばらく空を見上げ続けた。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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