37.もう一人の勇者
魔王城の入口に作ったセーブポイントに戻された賢人たちは、呆然と立ち尽くしていた。
この場にナナハルとガルシアさんの姿はなかった。
そして変わり果てた魔王城の姿。
上空には暗雲が垂れ込め、大きな渦を巻いていたのだ。
きっと王の間にはサタンがいる。
ナナハルとガルシアさんも。
魔神たちも復活している可能性がある。
「出直して作戦を考えよう」
「……そう、よね」
アラキの提案にマッチャーはぎこちなく返事を返し、ほかのメンバーは黙ってうなずいた。
一応に表情は硬い。
これまでの活躍ぶりを考えると、二人の戦闘力は凄まじい。
あの二人を敵に回して勝算があるだろうかと。
それに賢人達が勝てばクリアという話しでもない。
ナナハルたちを異世界から連れ戻すことが本来の目的なのだ。
重苦しい空気が喉を詰まらせた。
そしてしばらく沈黙が続いた。
こんな落ち込んだ気持ちで、いいアイデアが出るわけない。
賢人は考えを巡らせながら、ひとつの答えを出した。
「今日はここまでにして、考えるのは明日にしよう」
賢人の意見に誰も異議を唱えなかった。
メンバーは光の粒子となって空に消えてゆく。
「気をしっかりね」
フレグランスは笑ってそう言った。
賢人はよし、と気持ちを切り替え、マップを使ってオアシスの街へ移動した。
街はパニックに陥っていた。
原生林の魔獣が再び凶暴化しているという。
しかも数が増殖しているそうだ。
原生林から離れているここでも危険だと警鐘を鳴らす。
賢人は雑踏をかきわけ、再びヘンジットの元を訪れた。
そして魔王城での出来事を全て話した。
話を聞いたヘンジットは頷くと、オアシスの住人を、海底都市へと避難させるよう命じた。
そして騒動を起こした賢人に向かって頭を下げ、感謝すらしてくれた。
意図はわからなかったが、賢人は握手を交わし、席を立った。
プカル指揮の元、住人たちは港方向へ向かっている。
悲鳴や怒号が入り交じり、一変した町並みに責任を感じて胸が痛んだ。
賢人はオアシスの街を離れ、エルフの里へ移動した。
エルフの里では相変わらず商人や冒険者たちが活気あふれる賑わいを見せていた。
誰に聞いても、魔獣が凶暴化しているという情報は知らなかった。
ドルッセン山脈を境にして東側には魔王城の影響が及んでいないという事か。
しかし負のエネルギーに接触すれば、魔物は凶暴化する可能性が高い。
賢人はギルドに情報を流し、注意喚起してもらった。
今度はナナハルを召喚した国、ノエルメシア王国に移動した。
勇者の名を出して、急用だと訴えかける。
「勇者のことで大至急ご報告があります」
賢人は王宮の間に通され、王に謁見することを許された。
恰幅のよい真っ白な口ひげを蓄えた、まるでサンタクロースのような王だった。
海底都市でプカルがやっていたように片膝を突き、緊張感を持って声を張り上げる。
勇者ナナハルについて、そしてその影響を受けた魔物に警戒するよう促した。
「それは誠か。なんということだ」
話を聞いた王は顔を曇らせ、唸りだした。
側近が顔を近づけ、何か呟くと、王は何度か頷きながら、時折賢人に視線を向けながら話し合っている。
そして控える近衛兵に向かって指示を出した。
「ドルッセン山脈へ竜騎士を向かわせ、情報が本当なのか確認してくるのじゃ」
衛兵たちが慌ただしく動き始める。
「そなたは今まで、勇者殿と同行していたと言ったな。
どうしてそんなことになったのじゃ。
勇者が魔王に成り果てるなど聞いたことがない」
「わかりません、突然なにかに憑依されたように態度がおかしくなって。
対勇者用の術式が城のどこかに施してあったのかもしれません。
あくまで想像の範疇ですが」
王は口ひげを手でもてあそびながら目を閉じた。
すると側近がまた何かを呟く。
王は立ち上がり、左手を振り上げると再び号令を掛けた。
「すぐに宮廷魔道士を集めよ、もう一度勇者を召喚する準備じゃ!」
その言葉に賢人は驚き、王に対して大声で待ったをかけた。
「待って下さい! そんな、勇者を呼ぶって。じゃあナナハルはどうなるんです?」
王は怒りをあらわにした。
「無礼者、わしに口答えするなぞもってのほかじゃ。
しかし今は三百年に一度という大厄災。
勇者の顔を立てて許してやる。
先人達がどおやってこの苦難を乗り換えたのか。
詳しいことは誰も知らんのじゃ。
だから勇者が悪に墜ちたとなれば、代わりを呼ぶしかあるまい。
魔王は勇者でしか倒せない唯一無二の存在という伝承のみが希望なのじゃからな」
王は理解していなかった。
召喚された人間や、その家族のことを。
突然家族を奪われた悲しみや絶望を。
悔しさと同時に怒りがこみ上げ、胸の奥がチクチクと疼いた。
「話しは終わりじゃ。もう下がってよいぞ」
王の態度は益々賢人を落胆させた。
時間超過を知らせる警告音とウィンドウが目の前に表示される。
場内でセーブを済ませ、ログオフした賢人は心身共に疲れ切っていた。
ログインしていた時間が長かったことも一因かもしれない。
スタッフも心配している。
ここでドクターストップがかかり、テスターを外されたら目も当てられない。
「大丈夫、大丈夫ですから」と笑顔で弁解したが、口元は小さく痙攣していた。
ビルを出ると、外は異様に暗かった。
腕時計を確認すると、まだ昼をまわったくらいで、暗くなるには早すぎる時間帯だった。
視線を感じてビルを見上げると、上空に暗雲が垂れ込め、大きく渦を巻いていた。
その中心はブラックホールのような漆黒の闇。
大穴が開いていた。
穴は生き物のように姿形を変える。
賢人はスマホを取り出し薫子に電話を掛けると、ノーコールで返事が聞こえた。
「ケンちゃん、ちょうど今、ハル君の攻略ノートのことで電話しようと……」
「ちょっとゴメン、こっちすごく変な天気なんだ。そっちは平気か」
薫子は応答せず、ガラス戸を開ける音がスピーカーから聞こえてきた。
部屋から窓を開けて外を確認しているようだ。
「あ、もしもし?
こっちは平気だけど……、都心の空めっちゃ暗いよ。何かあったの」
賢人は、光音パパのビルの上空にその雲ができていること。
それが魔王城で見た雲とそっくりな事を説明した。
「何かそれ、やばくない? マキ姐には連絡した?」
「いや、まだだけど……」
「じゃあ、私から連絡しとく。ケンちゃんは光音君に連絡してくれる?」
「わかった。それでそっちはなんの用」
薫子の話を聞いた賢人は猛省することになった。
攻略ノートにはしっかり注意書きとして、記されていたのだ。
魔王城に漂う魔力によって、天使の精霊の加護を持たない勇者は悪魔に支配され魔王となってしまう事。
天使の精霊は天界に住み、地上の様子を傍観している事。
封印を解くには四大精霊の力が必要な事。
七治は七年前、攻略法をノートに残してくれていたのだ。
攻略ノートをちゃんと活用しなかった代償が、大きく賢人の心に突き刺さった。
四大精霊となるとシルフ、ノーミー、サラマンダーの他にも精霊がいると言うことだ。
薫子は水の精霊ではないかと言った。
水の事ならヘンジットに聞けば詳しいだろうと、次の目的地は海底都市に決まった。
精霊が揃っても、天界へ行って天使の精霊の加護を受け取らなければ、この戦いは終わらない。
七治が魔王になった今、状況は最悪だ。
倒さなくてもいい方法も見つけなければ。
次の勇者が召喚されるまで時間が無いが、もし天使の精霊の力で七治たちを正気に戻せるとしたら。
賢人は小さな希望を託して、光音に連絡を取った。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p




