36.魔王城と火の精霊サラマンダー
海中から魔王が住む島に着岸した賢人たちは、魔王城を前に立ち尽くしていた。
城へ向かう道が裂け、火柱が勢いよく吹き出していたのだ。
調べてみると、魔王城周辺を囲むように炎の壁ができていて、炎を何とかしないとたどり着けないようだ。
仕方なく魔王城を横目に、遠回りしながら山道を登っていくケンとメロン農家のメンバー。
上に登るほど溶岩が吹き出し、熱風がジリジリと肌を焼く。
岩だらけの山肌から、石畳の敷き詰められた広場に出た。
そこで待っていたのは炎を武器に纏わせた魔獣、ケンタウロスが一体。
そういうことかと賢人たちは武器を手に身構えた。
ケンタウロスが雄叫びを上げる。
そして炎を纏った薙刀を振り回しながら猛然と駆け出した。
顔が牛で上半身が人間、下半身が馬。
その脚力は力強く、蹄が地面を蹴る度に地響きを立てる。
メンバーは四方に散った。
ケンタウロスはそのまま正面に立つ、ナナハルめがけて薙刀を振り下ろした。
地面に叩きつける衝撃波と共に、炎が三本に分かれて地面を走った。
石畳には激しく亀裂が入り、地面が大きくえぐられる。
ナナハルはそんな攻撃をひらりと回避すると一定の距離を置いた。
メンバーたちも闇雲に反撃せず、最初は逃げに徹した。
たたみかける合図はナナハルが作り出した。
ナナハルがケンタウロスの攻撃をうまく誘導してくれたおかげだった。
行動パターンを見切ったナナハルは、隙を突いて強力な横薙ぎ攻撃でケンタウロスの前足にダメージを与えた。
ガクンとスピードが落ちたところで、オリジンがケンタウロスの背中にまたがると、痺れ薬の効いたくないで何度も切りつけた。
ケンタウロスは叫び声を上げ大きく後ろ足を何度も跳ね上げ、その場で回り出したがオリジンはたてがみを掴んで離さない。
その間にネコメがゴーレムを召喚し、完全に動きを封じた。
アラキたちが一斉攻撃を仕掛ける。
しびれ状態のケンタウロスはゴーレムに羽交い締めにされ、思うように動けない。
「オラ、オラー、オラー、オラー」
「ハッスル、よいしょー、ハッスル、もひとつ」
「このやろ、このやろ」
なおもタコ殴りするアラキたち。
「行くわよ」
「離れて下さい」
フレグランスとガルシアは攻撃魔法を同時詠唱。
二人の魔法が合体し、威力が増したイカズチがケンタウロスの頭上に降り注いだ。
ケンタウロスは叫び声を上げ地面に倒れ込むと、無数の光の粒となって宙に浮かんだ。
その光が集約され、中から精霊が現れた。
赤いトカゲの姿をした火の精霊、サラマンダーだ。
サラマンダーは火の加護を与えてくれた。
一行は引き返し、再び魔王城を囲む炎の壁の突破を試みる。
サラマンダーの加護で予想通り火柱を鎮火することに成功。
魔王城を前に一旦セーブしてアイテムを整理する。
中央に見える一番高い塔に登る階段には四つの封印が施された大扉で塞がれていた。
辿り着くためには四隅に位置する塔に控える、魔神との戦いが必要らしい。
第一関門、悪魔侯爵ガミジン。
第二関門、悪魔王子ヴァッサゴ。
第三関門、悪魔侯爵アガレス。
第四関門、悪魔王バエル。
最強と謳われる悪魔幹部達をうっかりあっさり攻略した。
これはゲームバランスの調整が必要だな。
賢人たちは明らかにチートプレイヤーになっていた。
四体の魔神が消滅すると、大扉の封印は解けた。
一行はいよいよ魔王の待つ最上階へと足を進めることができた。
部屋に入るとドクロが飾られた大きな玉座が魔王城であることを再認識させる。
しかしそこに魔王の姿は無かった。
拍子抜けした賢人達は、城内にある全ての部屋を徹底的に調べた。
しかし魔王どころか魔獣もいない。隠し部屋もない。
賢人は天を仰ぎ、不満を声に出すしか無かった。
「魔王はどこだよ、コノヤロー」
魔王はてっきり魔王城にいるものだと思い込んでいた。
ラスボスはふてぶてしく口角を上げながら、口上を述べるものだと。
魔王の居所など知る由もない。
せっかくここまで来たのに。
魔王を倒さないとこの世界に平和が訪れないのに。
ナナハルの目的が達成出来ないのに。
「こんな無理ゲーあるか?」
そう呟いたとき、ふと小学生の頃の記憶を思い出した。
クラスの男子が誰もエンディングを見られなかったと噂になったゲーム。
ただナナハルと友達の楓君、それにガルシアさんはクリアしていたはずだ。
この世界観がリンクしているなら、攻略法を知っているのではないか。
「ナナハル、この世界観でやってたゲームの内容、覚えてるか?」
「えーと、なんだっけ?」
「ほら、家で友達と遊んでたテレビゲームだよ。ハマってたろ」
「なんだろうな、思い出せない」
ナナハルはもとより賢人はゲームタイトルを必死に思い出そうとするが、なぜか思い出せないでいた。
「アンガス戦記よ」
「アンガス、センキ、知らないなぁ」
「あれ、そんなタイトルだったっけ」
フレグランスの指摘に、賢人も首をかしげてしまう。
「ガルシアさんは覚えてますよね。この異世界と似たゲームの話」
「よくー、覚えてません。なんだか変な感じがする」
異世界へ召喚され地球に戻るために旅をしてきたガルシアさんも、その目的を失念していた。
賢人は頭の中が混乱していた。
するとナナハルとガルシアさんは思い出したように魔王の玉座へと向かって歩き出した。
「ナナハル? ガルシアさん?」
そして玉座の手触りを確認すると静かにもたれかかった。
「そんな、なにやってるの。やめなよ」
フレグランスはナナハルの行動に不安の色をにじませた。
ナナハルは反応せず、ただ黙って座っている。
ガルシアは玉座のとなりに立ってまるで側近のような態度をとった。
「二人とも、どうしたのでござる」
「ナナハル君、なんの真似だい」
ノイマン、アラキもその行動を質問するが、ナナハルとガルシアはコチラに目だけ向けて、返事をしない。
二人とも感情を出さず、じっとこちらを見つめている。
その態度に賢人は無性に腹が立ってきて、感情的になった。
「おい、ふざけるのはやめろよナナハル、ガルシアさん」
直後、ナナハルがなにか呟いた。
小声で聞き取れなかったが、ガルシアは頷き軽く手を上げ、詠唱を始めた。
「まさか、そんな」
ネコメは驚いた表情をみせると、思いっきり叫んだ。
「危険です!みなさん、急いでここから離れて下さい!」
するとナナハルと賢人の間を遮るように、床に大きな魔方陣が現れた。
邪悪な気配が、部屋いっぱいに垂れ込める。
それは今までに感じたことが無いほどの威圧感と、恐怖に満ちていた。
「な、なにがおきた」
「はやく離れて!急いで!逃げるんです!」
ネコメはいつになく必死に訴えている。
「どういうことでござるか」
「ここは一旦引いた方がよさそうだ」
アラキも雰囲気を察して後退を始めた。
しかし余りの威圧感に、体が思うように動かない。
「なんなんだよコレは」
魔方陣が光り輝き旋風と共に姿を現したのは、魔界の王サタンだった。
ドス黒く捻れた角と青白い顔、全身黒ずくめの格好で服装だけ見れば紳士的な出で立ち。
しかし溢れ出るオーラは邪悪で、魔王の威厳を放っていた。
チートプレイヤーになってさえ恐怖が全身を覆う。
刹那、縦横無尽の攻撃が賢人たちを襲う。
主力二人を欠いた賢人たちは抵抗むなしくサタンの手によって葬られた。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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