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35.海底都市ミューズ

 船は風を受け、順調に進んでいたが、オアシスがまだ遠目に見える大海原で突然帆をたたみ出した。

 プカルは船から振り落とされないよう、柱かなにかにしがみつくように注意を促した。

 一体何事かと疑問に思いながらも、その場で船体の縁を掴み、身構える。

 青空が広がり、風も穏やか。

 見渡す限りの大海原。

 一体何を待っているんだろう。

 そんな事を考えていると、波音に混じって何かが聞こえた。

 聞き慣れない、甲高い音が細かく連続で鳴っているような


「皆さんそのまま、振り落とされないように注意して、……来ます!」


 その声をかき消すように、海から巨大ミミズが飛び出した。

 海面が波打ち、大きく船体が揺れる。

 想像以上の出来事に頭が真っ白になった。

 水しぶきが滝のように降り注ぎ、虹が架かると感動すらしていた。

 現実には脅威が目の前で天高くそそり立っているというのに。

 誰も動けず、プカルにいたっては下を向いている。


 

 どうする?



 実際、考える暇は無く一瞬だった。

 脅威は長い筒上の体を大きく伸ばすと、先端が不自然に開口し、船を真上から飲み込んでしまった。

 真っ暗になり、船体が激しく左右に揺れる。

 体勢を崩しながら、振り落とされないよう必死にしがみついた。

 船は何度も大きく揺れながら、次第に加速し始める。

 高速道路で下り坂のトンネルに入ったような感覚。

 長い長いトンネルの出口を抜けた。

 そこはまるで水族館のような景色が広がる海の中だった。


「皆さん大丈夫ですか? テテテ」


 プカルは頭を押さえながら、メンバーの様子を確認していた。

 そして見えてきたのは海底都市ミューズ。


 巨大な珊瑚の上に造られた宮殿だった。

 随分手荒な歓迎だったな。

 プカルは申し訳ないと何度も頭を下げた。


 至る所から水が溢れ、宮殿全体がシャボン玉のような膜で覆われていた。

 中は酸素があるので地上と同じように行動出来るのは助かった。

 プカルの案内で天守閣へ向かう賢人とナナハル。

 メンバーは別行動を取っている。


 宝石がちりばめられた玉座に、ティアラをのせた魚人族の女性が足を組み、片肘をついて座っていた。

 その目つきは厳しく、なんとも不満げな表情をしていた。

 プカルは女性の前へ歩み寄ると、片膝をついて頭を下げる。

 賢人とナナハルも、プカルに習って片膝をつき頭を下げた。


「お久しぶりでございます。デーネ王女、この度は我らが願いを聞き入れて下さり感謝申し上げます」


 しばしの沈黙の後、デーネ王女と呼ばれた女性はフンと鼻を鳴らし、高圧的な態度で返事を返す。


「久しいのプカルよ。地上での生活は楽しいか。楽しそうじゃな。

きっと楽しいに決まっておる。

ええい黙れ!」


 突然の一人芝居ですこぶる機嫌が悪いことを表に出すデーネ王女。

 何故こんなに怒っているんだ。

 下げた頭をより深く下げる。


「そなた達が勇者というのは真か?」


 恐らくコチラに話しかけてきたのだろうが、機嫌が悪い王女をこれ以上刺激したくなかったので黙っていると、代わりにプカルが答えてくれた。


「こちらの、ナナハル殿が勇者にございます」


 沈黙すると、ヒールの足音が近づいて来た。

 緊張が高ぶる。

 ナナハルを値踏みしているのか、ヒールの足音は正面から後ろへ回り込み、そしてまた正面へとゆっくり移動していく。


「その方たち、顔を上げよ」


 ハッと声を張り上げ、顔をゆっくり上げると、仁王立ちで腕を組んだデーネ王女が、これでもかと言わんばかりのしたり顔でニヤリと笑った。


「勇者は魔王をも打ち倒せるほどの剣の達人との伝承があるが、そなたは強いのか?」


「それは分かりません」


 ナナハルは、王女の目を見て即答した。


「なんじゃと?」


 魔王と対峙したことはないが、その答えは火に油を注ぐことになるのではと、胃が痛くなる思いだった。

 しかし王女は意外にもそんなナナハルを気に入ってくれたようだ。


「ハッハッハ、正直者めが。

余を目の前にしても臆しないその立ち振る舞い。

気に入ったぞ。

だが正直者は馬鹿を見る。

聞けば魔王討伐を目指すと言うが、勝てるかどうかも分からん者に手を貸して、わざわざ魔王の怒りを買うことは無い」


 そう言って玉座に戻り足を組むと、不敵な笑みを浮かべる。


「もしそなたが真の勇者なら、我が一族で最も強い手練れなぞ、一刀両断できるであろう。

勝負して、その実力を余に見せてみよ」


「王女様、それはいくらなんでも……」


「黙れプカル。

おぬしの言い訳は一切聞かぬ。

皆の者、余興じゃ! すぐに支度せよ。

おい誰か、ガルボを呼んで参れ」


 側近が静止する声も聞かず、声高らかに模擬戦の準備を申しつけた。


「ゴメンナサイ。

はは、オホン。

王女は頑固者なんで、一戦だけ付き合ってもらえますか」


 プカルは困り顔で頭を下げてきた。


「いいえ、大丈夫ですよ。

僕達も協力してもらうために、精一杯アピールしますから」


 陽気に答えるナナハルに対して、賢人は魚人族のエースの登場に不安の色を隠せない。


「あの、ガルボって人を呼んでましたが、どんな方なんです?」


「ガルボ中将はまだ若いですが、その素質は大将にも引けを取らないと噂される槍使いの名手です。

動きが速すぎて槍が何十本にも見えるとか」


「マジすか」


 賢人は想像しただけで鳥肌が立ち、震え上がった。

 しかしナナハルは話を聞いてもなお笑顔のまま、喜んでいるようにさえ見えた。

 メンバーと合流していきさつを説明すると、円陣を作って力強く雄叫びを上げた。

 誰も勇者が負けるとは考えていないようだ。

 組み立て途中の船や部材が広場の端に寄せられ、直径三十メートルほどの円を描いた特設リングが造られた。


 ナナハルは模擬戦用の木の剣と盾を選び、対戦者は木の槍を選んだ。

 ガルボと思われる青年は素早く槍を回したり突き出したりして感触を確かめている。

 背が高く引き締まった肉体で、腕を出した戦士の服を装備していた。

 顔は小さく中性的な顔立ちで、異性に人気がありそうな風貌をしていた。

 特設リングを囲むように兵士や市民が集まり、会場は盛り上がっていった。

 賢人たちもその一角に陣取りナナハルの様子を伺う。


「これより勇者ナナハル殿とガルボ中将による模擬戦を行います。

時間は無制限、一本勝負。

勝敗のご沙汰はデーネ王女が取り仕切られます」


 側近が宣言すると、神輿に乗せられたデーネ王女が扇子で口元を隠しながら登場した。

 集まった魚人達は神輿の通り道を避けるように左右に分かれる。

 賢人達は押されて一時的に満員電車のような苦しい状態になった。

 リング前で神輿が下ろされると、デーネ王女は右手を挙げて、声高らかに宣言する。


「二人の英雄の勇ましい戦いぶりを期待する。

始め!」


 ナナハルとガルボはリングの中心で向かい合い、一礼を交わすと、飛び退いて武器を構えた。

 ナナハルは盾を構えて防御の姿勢で相手の様子を探る。

 一方ガルボは目を細めると、槍を八の字を描くように左右に回転させながら間合いを詰めると、長い手足を生かして槍を突き出した。

 ナナハルも盾で槍の攻撃をはじきながら剣を振るが、ガルボは槍を回転させながら間合いを絶妙に調整し避けながら、槍で何度も攻撃してくる。

 剣は槍と比べると間合いが短い。

 その分素早く連続攻撃を与えられるが、懐まで入らないと攻撃が当たらない。

 ガルボは槍を回転させながら、間合いをとっては近づいて攻撃を繰り返す。

 魚人たちは盛り上がり、ガルボを応援する黄色い声援にも一層熱が入る。

 賢人たちも負けじと応援するが、攻撃する回数はガルボの方が多く、ナナハルは防戦一方になりつつあった。

 そしていつの間に差が付いたのか、ナナハルの動きが鈍くなっていることに気づいた。

 振り下ろされたガルボの槍を盾で受け止めたとき、ナナハルの体勢が若干後ろに流れる。


「隙有り!」


 ガルボの動きにナナハルは盾を捨てて槍を掴む。

 ガルボは槍を大きく引いて大技を繰り出そうとしていた。

 もうキャンセルできない。

 ナナハルは槍と共にガルボの懐へ侵入。


 一閃。それはナナハルの剣がガルボの脇腹を直撃。


 続けて反転しながら上体を起こし反動をつけてジャンプすると、斜め上からガルボの首めがけて強打。

 ガルボはうめき声を上げると、前のめりに突っ伏した。

 ナナハルは肩で息をしながら倒れたガルボを見下ろしている。

 側近がガルボに近寄り様子を伺うと、デーネ王女に向き直り首を横に振る。

 どうやら気絶してしまったようだ。

 デーネ王女はため息をついて終了を宣言する。


「そこまで、……勝者ナナハル!」


「おおお」


「ガルボ様ー」


 感嘆、落胆、黄色い悲鳴が入り交じる中、ナナハルは勝利を治めた。

 賢人たちはナナハルに駆け寄り健闘をたたえた。

 照れるナナハルを見つめながら賢人はほっと胸をなで下ろした。

 休憩を挟んで再びデーネ王女に呼び出された。


 ガルボは既に意識を取り戻しており、側近から叱責されていた。

 頭を垂れるガルボ。

 デーネ王女は何も言わず、扇子をただつまらなそうに揺らしていた。

 ナナハルが到着すると、デーネ王女は扇子をたたみ、手を叩いた。


「なかなかの腕前であった。

久しぶりに楽しめたわい。

さて次はどんなまつりごとをやろうかのう」


 不敵な笑みを浮かべる王女に、プカルは一歩前に出て、予想だにしない言葉を浴びせた。


「お母様! いい加減にして下さい!」


 目の前にいる王女に向かって本気で怒っている。

 賢人は衝撃を受けた。

 一方ナナハルは、いつもと変わらない。


「客人の前では王女で通さぬか、プカル。

……お、おい、そんなに目くじら立てるでない、可愛いお顔が台無しじゃぞ」


「誰のせいですか、一体誰の!」


「わかった、もうわかった。

余は退屈だったのじゃ、王は地上で常夏気分を謳歌しておるというのに。

ここにずっと座っているのはもう飽きたのじゃ」


「王女様! 王家を継ぐ身でありながらなんと嘆かわしい。

これでは先代も心配なさりますぞ。

もっと自覚を持ってくだされ」


 賢人とナナハルは変な場面に立ち会うことになり、結果魚人族の内部事情を知ってしまった。

 ガルボは顔を手で覆いがっくりと肩を落とした。


「だって、余だって地上に行きたいのじゃ、ちょっとの間と言いつつ、もう四十年もあのクソ親父は戻って来ん。

おいプカル、行ってヘンジットを連れ戻してこい。

次は余が地上でのんびりする番じゃ」


「おお、王女様。なんと嘆かわしい……」


 側近は女王の悪態に涙を流す。

 そんな側近の背中を優しく撫でながら介抱するガルボ。

 ヘンジットが王だったとは。

 なんだかこの会話、もう話に付いていけない。

 プカルは大きくため息をついて、諭すように話を進める。


「今、内輪の話はどうでもよいのです。

それより彼ら勇者一行に魔王城に向かう船を造って下さいませんか、お母様」


 話が大きく脱線してしまい、海底都市にやって来た目的を忘れていた。

 プカルは改めて王女に進言した。


「それはよかろう、しかし船では魔王城から攻撃を受けかねん。

ここは新たな船を開発して参ろうぞ」


「新たな船ですと」


 涙を流し、うなだれていた側近は息を吹き返した。


「そうなんじゃ、実は密かに考えていたのじゃ。その名も海中船」


「海中船?」


「海の中を進む船じゃ」


 それは現代で言うところの潜水艦だった。

 王女は職人達に指示をして、自分の考えた船の造船に取りかかった。

 賢人たちには必要な木材と鉱石集めを頼まれたので、地上へ戻り、再び原生林へ向かった。

 魔人の村ではオアシスとの交流が再開されたこともあり、行き交う魔人の数も増えていた。

 首長の話では魔物の数も減って、村同士の交流がスムーズになり、移住者や商売人が集まってきているという。

 この森には大きく分けて三つの集落があり、それぞれ独自の産業を発達させていた。

 一つは鉱夫で鉱石を採掘し、加工、販売をしているグループ。

 一つは猟師で魔物や獣を狩って加工、販売しているグループ。

 一つは林業で木や草花を伐採、採取して商売にしているグループだ。

 アクセルが住む村では林業を生業として、伐採、加工して販売している。

 早速、造船に必要な木材を大量に買い付けた。

 支払いは硬貨とオアシスの近海で採れる魚や塩で調整してもらう。

 魔族のエリアでは硬貨があまり普及しておらず、物資を物々交換する方が主流らしい。

 ほかにも果物や干物が重宝されるようで、硬貨より高値で売買されていることを教えてもらった。

 更に北にある鉱山近くにある魔人の村、こちらも森ノ上様の加護により魔人の生活は元に戻りつつあった。

 鉱山から取れる天然石を加工して、宝飾品が多く売られていた。

 こうやって出会ってみると、生活水準は低いものの、争うこと無く商売をして暮らしている事が、魔族も当たり前なんだと考えを改めさせられた。

 比重の重い鉱石を大量購入し、王女から頼まれた買い物ミッションは無事クリア、賢人たちは海底都市へ戻った。


 魚人族に伝わる特殊技法でコーティングされた海の中を進む船は無事に完成したのだった。

 原生林を何往復もすることで経験値もお金も稼ぐことができた。

 海中船ができた頃にはメンバーのレベルは九十を越え、マスタークラスにまで成長した、という特典付きである。

■プチっと業務連絡

2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。


▼朗読動画の再生リスト

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p

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