表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/52

34.森ノ上様と大地の精霊ノーム

 南北を連なるドルッセン山脈を下り、いよいよ魔族の多く住むエリアに足を踏む入れた賢人たち。

 鬱蒼とした原生林が広がり、曲がりくねった獣道は迷路のようだ。

 見通しが悪い上に、出てくる魔物はバーサーカーのように凶暴だった。

 メンバーは円陣を組んで全方位に注意を払いながら、南の方へ山裾を進んだ。

 道中、開けた場所には廃村があった。

 家は朽ちて、生活していた痕跡はほとんど残っていない。

 拾えるアイテムもない。

 移動中、そんな景色を何度か目にした。

 魔物の住処になっている場所さえあった。

 人が住むにはあまりにも過酷だと実感した。


 森を抜けて海と山に挟まれた砂浜が続く海岸線に出た。

 対岸には大きな活火山が見える。

 かなり離れているのに赤黒いマグマから熱気を感じる。

 噴煙を上げながら、見る者を威嚇するように爆発を繰り返している。

 その噴火口に重なって、建物らしき影が見える。

 魔王の住む城、魔王城だ。


 砂浜を更に南下していくと、南国の雰囲気漂う街があった。


 オアシスの街。


 そこは魚人族の住むリゾート施設だった。

 近海で採れた魚を使った料理に心を奪われた。

 ムニエルや焼き魚、煮付けを堪能して旅の疲れを回復させる。

 街の人たちはとてもフレンドリーだった。

 漁師が多く、魔王城まで乗せてくれないかと相談した。

 誰もが驚き、やんわりと断られた。

 ある魚人から、舟を作って貰えばいいのではと提案された。

 沖合にある海底都市に船大工がいるらしい。

 案内をお願いすると、ヘンジットと言う人物を紹介された。

 高台にある宿泊施設の最上階で暮らしているという。


「ようこそ旅人よ、こんな辺鄙な場所へ、よくお越し下さった」


 青い鮫肌で、顎髭を伸ばした、アロハシャツを着た魚人が、ソファーでくつろいでいる。

 貴賓室のような豪華な部屋。

 重厚感がある机や細かい彫刻が施された真っ白い大理石のようなテーブル。

 天井には大きなシャンデリアと内装も豪華。

 護衛と思われる屈強な魚人が入口に二人。

 間違いなく大金持ち。この街の有力者に違いない。

 海底都市で船を調達したいと申し出ると、いがいとアッサリOKしてくれた。

 今、魔王復活の影響で魔族が凶暴化してしまい、原生林に住む魔人から物資が得られず困窮しているという。

 それを解決してくれたらと言う条件が付け加えられた。

 方法は古くから森の守り神が宿ると言い伝えがある大樹へ祈願すること。

 それで解決できると言い切った。


「何事もギブアンドテイクじゃ」


 ヘンジットは陽気に答えた。

 見届け人として秘書兼護衛役のプカルを連れて、森ノ上様に会いに行くことになった。

 森ノ上様とは原生林を守る守護神で、魔族の凶暴化した原因を解消してくれるかもしれないと言った。

 かもしれないという言い回しから、プカルの内心を察した。

 年寄りの戯れ言に振り回されて大変だなと同情した。


「森ノ上様ってどこに住んでるの?」


「言い伝えでは大樹に宿っていると」


 プカルも話でしか知らないそうだ。


「大樹っていうくらいだから相当大きいのかも」


 フレグランスはあるゲームの話をしてくれた。

 幹の中がダンジョンになっているほど大きな木なんて信じられない。


「上に登って確かめられればなぁ」


 アラキは何気なくそんなことを言った。


「それなら私、見てきます」


 ガルシアはその場で杖をついて魔法を唱える。

 目には見えないが螺旋階段を上がるように空中を小走りで駆け上がっていった。

 首が痛くなるほど見上げていると、ガルシアは西の方を指差して叫んだ。


「あっちにもっと背の高い森があります」


 どうやら本当に大きな木があったらしい。

 ガルシアが跳ねると一直線に落下してきた。

 そして小さなつむじ風が受け止めるように舞いフワリと着地する。

 イノシシやシカ、オオカミといった魔物やゴブリンやオーガといった魔獣を倒しながら進んでいくと、新しい村を見つけた。


 凶暴化していない、知能を持った魔人が住む村だ。


 プカルのおかげで怪しまれず村へ入り、首長に会うことができた。


「魔王様の復活が、森の魔物を凶暴化させたと言うのですか」


 魔人の首長は我々の説明を聞いて驚いた表情を見せた。


 魚人が知っているのに魔族が知らなかったのかと賢人達も驚かされたが、真剣な顔で何度も頷き、語り出した。


「森ノ上様は我らの生きるこの森を代々守り続けて下さると聞きましたが、我らの事もお守り下さるとは知りませんでした。出来ることなら我ら

も協力しましょう」


 首長の申し出に、賢人達は感謝を述べる。

 森ノ上様が住む森へは、その大樹の枝で作った勾玉が必要になるという。

 首長は棚に祭られた木彫りの像を手に取り、テーブルの上に置いた。

 それは円錐の帽子をかぶった髭もじゃの老人で、首から白い木で出来た質素な勾玉をぶら下げていた。


「大地の精霊かしら」


 木像の姿を見てマッチャーが問い掛ける。

 首長は姿までは見たことが無いと答えるが、大地の精霊ノームなら森ノ上様の可能性は高いとマッチャーは言う。


「これが精霊ねぇ」


 賢人はこのおじいさんに頼むことになるのかとまじまじと木像を観察する。


「これはこの村の宝ですので、むやみに他人に預けることは出来ません。

ここは一つ、孫を連れて行って下さいませんか?」


 そう言うと、近くの兵士に使いを頼み、誰かを呼びに行かせた。

 しばらくすると元気の良い男の子が部屋に走り込んできた。


「じいちゃん、何だい」


「これ、アクセル。客人の前だぞ。礼儀正しくしなさい」


 早々に叱られて、ふて腐れた態度を取りながらも、ちゃんと挨拶する少年。

 見た目はナナハルと同じくらいに見える。


「この子に、勾玉を持たせますので、どうか一緒に連れて行って下さい」

事情を知らない少年は、足をぶらつかせながら、なんのことかと首長に突っかかる。

 説明するというので、一旦席を外した一行は、近くの食堂で待ち合わせることになった。

 木の実やキノコの串焼きを頬張るナナハル。

 オートミールと混合麦パンを食するガルシアとプカル。

 豚肉の塩漬けを摘まみにビールをあおる賢人。

 ただウロウロしているそのほかのメンバー。


 腹八分目くらいになった頃、兵士を連れて再びアクセル少年が現れた。

 すぐに出発するのかと思いきや、隣に座り鶏の肉が入ったシチューを注文した。

 そして運ばれてきた料理をあっという間に平らげた。


「ナナハルっていいます。宜しくね」


 ナナハルが年下の子に接するように優しく言葉を掛ける。


「おいらはアクセル。兄ちゃん達はどっから来たの?」


 アクセルは皿を舐めながら無邪気に質問してくる。


「南にあるオアシスからかな」


「魚人族の街? 兄ちゃん人族だよね」


 そういうことかと賢人はノリノリで答えた。


「すんごい遠くの星から降ってきたんだ。こう見えて星の王子様なんだよ」


「へぇ、そうなの、ふーん」


 子供受けすると思ったが、アクセルの反応は素っ気ないものだった。

 グフッ。賢人は胸に深い傷を負った。


「じゃあ行こうか」


「うん」


 賢人は傷を負ったまま、ナナハルの号令と共に大樹を目指して更に西へ向かった。 

 原生林を進むにつれ、急に辺りが霧に包まれた。

 魔物の襲撃に注意を払いながら、一行は円陣を組んで先へ進む。

霧のせいで視界が悪い。

 はぐれないように声を掛け合った。

 足元すらおぼつかなくなってきたころ、アクセルが驚きの声を上げる。

 アクセルの首に下げている勾玉から緑色の一閃が放たれている。

 光は行き先を示すように、強弱を繰り返している。

 アクセルの光を頼りに進んでみると、突然目の前に大きな穴のあいた大樹が出現した。

 見上げると勾玉に呼応するように緑に光る紋章が刻まれている。

 穴の中は薄暗く、ジメッとしていた。

 賢人はナナハルを見た。

 頷くナナハル。


 足を踏み入れると、入り組んだ木の根と湿った地面で足場はぬかるんでいた。

 アラキの魔法で周囲を照らしながら、慎重に奥へと進んで行く。

 一本道だが進むにつれて足元の傾斜がきつくなる。

 ついにはノイマンが足を滑らせ、前方を歩くメンバーを巻き込み、滑り出した。

 待ち構えていたようにあいた、穴の中へ飲み込まれた。

 まるで食虫植物みたいだなぁ。

 賢人は他人事のように思いふける。

 それほど長い時間、重力に身を委ねていた。

 結構な高さから落下したが、最後にガルシアの魔法のおかげで怪我もせず、地下の空間にフワリと着地した。

 ドームのような円形で、出口は落ちてきた穴以外、見当たらない。

 アクセルの勾玉は、強く光り続けている。


「な、なんだ、地震」


 突然空間全体が揺れ動いた。

 すると天井の穴から、大きな亀が降ってきた。

 その腹に緑に光る紋章が見えた。

 脱出するには、あの大亀をやるしかないってわけか。

 亀と言っても足は早く、助走を付けて突進してくる攻撃は、直撃を受ければ危険だ。


「キャッ!」


「おおっと」


 二回目の突進でフレグランスとオリジンが回避に失敗。

 プカルとアクセルが援護に入り、ガルシアの透明階段の魔法を応用して大亀を横転させる事に成功。

 バタついている間に紋章が光る腹部を一斉攻撃し、無事倒すことができた。

 すると中から緑の光に包まれた球体が現れ、アクセルの勾玉と呼応する。

 光が弾けると、髪の長い小さな精霊が現れた。

 半透明で円錐の帽子をかぶっていたが、その姿は話で聞いた老人と言うよりは、少女のように見える。


「大地の精霊、ノーミーよ」


 性別で呼び名が変わると、マッチャーが説明してくれた。

 精霊は目を覚ますと、アクセルに向かって手を差し伸べ、語り始めた。


「私を解放してくれてありがとう。お礼に私の力を授けましょう」


「何、何か言ってるの」


 アクセルは首をかしげてこちらを向いた。

 ナナハルも不思議そうな顔をしている。

 賢人が聞こえた通り伝えると、アクセルは精霊に向き直り、願いを言った。


「力はいらない、この森の仲間を助けて欲しい。


この森の住人を、前みたいに笑顔で、楽しかった頃のようにして欲しいんです」


 アクセルの望みに精霊は微笑み、頷くと、天井の穴に向かって飛び去った。

 勾玉から光が消え、しばしの沈黙が流れる。


 じゃあどうやって外に出ようかと話していると、突然光に包まれ、気づけば全員森の中に立っていた。

 霧は晴れており、大樹の入口は無くなっていた。

 魔人の街へ戻り、首長に今回のことを説明すると、アクセルの活躍を大いに喜んでくれた。

 これで解決したのか気になるが、それは精霊の力を信じるとしよう。

 アクセルと別れた一行は再びオアシスの街に向かった。

 プカルはいつになく無口になっていた。

 なにか想うところがあったのだろうか。

 プカルからの報告を受け、ヘンジットはすぐ商人達に伝令を送った。


「旅人よ、本当にありがとう。これで元の生活が出来そうじゃ。

約束通り海底都市へ案内するぞい」


 そしてプカルが引き続き案内役として同行することになった。

 その方が賢人たちにとっても安心出来る。

 プカルは機転が利くし、真面目な性格なのが今回の旅でよく分かったからだ。


 船が並んだ港の桟橋。

 マストを二本備えた帆船に乗り込んで、賢人たちは大海原へ飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ