33.竜の神殿と風の精霊シルフ
山頂に造られた神殿。
辺りは大岩と赤茶けた土が広がり、殺伐としていた。
時折強い風が吹き、乾燥した砂が顔に当たる。
大きな石柱が二本、神殿の入口を見張るようにそそり立っている。
三角屋根の正面には紋章が、二体の竜と共に彫り込まれていた。
大きく開いた入口からは冷えた空気が漂ってくる。
賢人は入口付近にキャンプを張った。
簡易的なセーブポイントだ。
薪にくべた火は勢いよく燃えさかり、肌にじんわり温かみが伝わる。
ナナハル、ガルシアは火を囲んで座り、携帯したチーズやライ麦パンを一口かじった。
「ナナハルとガルシアさんはここに来たことあるのかい?」
「いや、僕達も初めて来るけど、どうして?」
「勇者がここにいるって噂があってね、まあ気にしないで」
目撃情報はちがったようだ、もしかして他にも勇者がいるのかもしれないが。
アラキはその話を聞いていたのか、神殿の中へ単独で入っていった。
ノイマンとマッチャー、オリジンもその後を追うように中へ。
フレグランスは神殿の入口で中の様子を伺い、ネコメは神殿の外側をウロウロしている。
しばらくすると、神殿に入っていったメンバーの声が聞こえてきた。
「結構複雑ねー」
マッチャーの声だ。
「こういう場所は宝箱があるはずだ。一個ぐらい持ち帰りたいぜ」
アラキはお宝目当てだった。
テストに合格するだけあって、手慣れたもんだ。
「トラップがあるかもしれません。宝箱を見つけても、不用意に触らない方がいいと思います」
オリジンは慎重派だ。
マッチャーに鍛えられているのかもしれない。
「オリジン殿は慎重でござるな。いやしかし、我らのレベルなら、さほど問題にならないのではと存ずる」
ノイマンはレベルアップしたせいか、かなり強気だ。
「そうそ、こういう場所のアイテムって、重要よ。絶対持って帰りましょ」
「いやいや、その場合はケンニイさんに相談してからだな」
「んもう、うるさいわね。そんなに私の言うことが聞けないなら、晩御飯抜きよ」
「スイマセン、ゴメンナサイ」
「なんと、二人はご夫婦でしたか、こんな場所でノロケないでくださいよ、アハハ」
変なタイミングで、オリジンがマッチャーの旦那だという事を知った。
アラキは二人を茶化すように一笑する。
それにしても、旦那はいつも仕事で夜が遅いとか言ってた気がするが、嘘だったのか、もしくは……
君枝さんをゲームオタクにしたのが薫子なので、責任を感じる。
「この部屋、怪しくないですか。こんな神殿で鉄の扉があるって。ほら、しかも鍵がかかってます」
「誰か、シーフの力使えない?これなら開けられると思うんだけど」
「任せるでござる」
「ちょっと今、ケンニイさんに確認取りますから、待って下さい」
「宝箱があったらでいいでしょ。ホラ早くノイマン、やってちょうだい」
シーフの力。盗賊の力とも言う。
レベル七十で取得できる特殊スキルで、錠前解除成功率やアイテムドロップ率が使えば使うほど高くなる。
「解錠できたでござる」
「どれ、ああ、地下に向かう階段でしたね、奥は暗くてわからないなぁ、あかりは魔法でっと」
「当たりね、この奥に隠された財宝があるはず、グフフ」
「一回戻ろう、ケンニイさんたちも呼んでこよう」
「今までの道のりを往復するなんて面倒よ。私たちだけで持って帰りましょ」
「いいねそれ、賛成」
「御意」
マッチャーの暴走を止めることは出来ないようだ。
話をまとめると、地下に宝箱がありそうだから4人で取ってこようとしている。
このまま外で待っていようか。
賢人はネコメとフレグランスを呼び寄せ相談した。
「それは心配だね、よし僕達も神殿の中へ入ろう」
ナナハルは立ち上がり、神殿を見据える。
「どこへ向かえばその地下への階段があるのかわかるかい」
ガルシアの疑問に賢人は頷き、オリジンに話しかける。
「ちょっと、聞いてみます」
「あのー、オリジンさん、聞こえます?」
「あ、ケンニイさんスイマセン。止めたんですが皆元気が有り余ってて、地下への階段を見つけたんですが……」
オリジンの声が不意に途切れる。
「会話は聞いてました。その階段ってどこです?こっちも今から向かいますので、合流しましょう」
「問題ないわよ。そこで待ってて、すんごいお宝持って帰るから、グフフ」
マッチャーの笑い声に不安しか残らなかった。
「そうでござる。ここは我らに任せて安心召されよ」
「ナナハル君、これは僕からの愛のプレゼントさ。是非受け取ってくれ。そして我らト……」
「あの、一応俺らも向かいますんで、場所を教えてください」
ノイマンはやる気満々、アラキはナナハルに向かって口説き始めたので、被せるように質問を繰り返す。
「すごく広い場所にでたわね。えーと、ほら見てあの光ってるの、宝箱じゃないかしら?」
「どこどこ、おー、あれかー」
「間違いなく、あれはお宝でござる」
「ちょっと、待ちなって」
「もしもし、場所は何処ですか、オリジンさん聞こえてます?」
三人の荒くれ者はオリジンの心配をよそに、宝箱へ向かっていった模様。
さてと、どうしたものか。
「あの、私、探せるかもしれません」
ネコメは恐縮しながら、解決策を提案してきた。
お願いすると、神殿には入らず、神殿の東側面を歩き始めた。
後を追っていくが、先程のように神殿の周囲をウロウロするネコメ。
途中、地面に手を当てて手触りを確かめているようだが、また移動しを繰り返す。
何かを感じ取ったのか、その場で立ち上がり、詠唱をはじめる。
すると地面に、円形状に光る魔方陣が浮き上がり、中心から巨大モグラが現れた。
モンスターを召喚したのだ。
「モグモン、ここを掘って」
ネコメは先ほど調べた地面を指差し、指示を出す。
巨大モグラはすぐに反応し、行動を開始。
体勢を低くし、引っ掻き爪を地面に当てると
腕を器用に回転させながら地面を掘削しはじめた。
そして大量の土砂を残し、あっという間に穴の中へ消えていった。
穴からは土煙がモクモクと立ち上がってくる。
「地下に広い空間があるみたいなので、岩盤の弱い場所を探してました」
神殿の迷路を通らずに、外から攻略する発想は斬新だった。
ゲームとしてはバグだろうが。
一応報告しておこう。
掘り終えたのか、土煙は収まった。
召喚獣は魔力の大きさによって時間が経つと消えるそうだ。
神殿の中にいる四人の悲鳴と怒声が聞こえた。
賢人は、巨大モグラの開けた穴に飛び込んだ。
そして反省した。
穴は想像以上に急角度で、勢いが止まらずお尻を擦りながら滑り続けることになった。
そのあいだずっとフレグランスの悲鳴が穴の中に木霊していた。
賢人はふとメロン畑を思い出した。
しかし実際は薄暗い穴の中だ。
お尻は痺れるし、上から多重追突されて首が重いし、賢人はつい現実逃避してしまった。
目の前に壁があった。
神殿と同じ石材でできている。
ガルシアは魔法でなんとかなると言って呪文を唱えた。
壁に手を当てると、壁に直径二メートルほどの魔方陣が浮かび上がった。
魔方陣は回転しながら削岩機のように壁を浸食し始めた。
音も無く、壁が丸く、くりぬかれた。
中に入るととても広い空間に出た。
中心部に巨大なハーピーが羽ばたきながらメンバーを囲んでる姿を捉えた。
その数は三体。
そのうちの一匹だけ羽が黒く、腹に神殿の入口で見た紋章が光っている。
明らかにボスだと思った。
ひっきりなしに鋭い鉤爪で上空からの滑空攻撃、竜巻による広範囲攻撃され、翻弄されているアラキたち。
そこで賢人とガルシアは遠隔攻撃で、フレグランスとネコメは魔法でハーピーたちの動きを鈍らせる。
数多く討伐クエストをこなしていたおかげで、連携のとれた動きだった。
ネコメも魔法使えるんだと感心した。
それを合図にアラキとノイマンは得意の力業でまず白い羽のハーピー二体に突撃した。
マッチャーとオリジンも怒濤の連続攻撃。
そして勇者ナナハルは紋章付きハーピーに攻撃を仕掛ける。
ハーピーは悲鳴を上げながら倒れた。
そして光の粒子となって舞い散ると、風の精霊シルフが現れ、加護を受け取ることになった。
ここは試練の部屋だったようだ。
「皆、無事で良かった」
ナナハルが心配しながら皆の無事を喜んだ。
「ゴメンねぇ、レベルが上がって調子乗ってたわ」
マッチャーは素直に謝る。
「同じく反省するでござる」
「いやぁ、ナナハル君にかっこ悪いとこ見せちゃったな」
ノイマン、アラキも反省の色を見せた。
「それで、どんな宝があったの?」
宝箱に興味があるフレグランスは、期待感をにじませた。
「うふふ、コレよ」
マッチャーは巾着袋の中から、分厚い本を取り出した。
かなり歴史を感じさせる古びた本で、装丁には錆びた錠前がついており開けられない。
「これは恐らく魔道書よ。今は存在しない特殊な魔法で封印されていて、中はまだ確認できていないけれど、きっと重要なアイテムだわ」
「存在しない魔法って」
「特殊スキルでも解錠できないから古代魔法ね。つまり重要って事よ」
意気揚々と説明されても、信憑性に欠けている。
本当に特別ななにかと考えていいのか。
その時まで待つしか無いか。
そしてみんなで神殿を捜索したが、お宝と呼べるアイテムは、この分厚い本だけだった。




