30.VRの迫力
二月の長期休暇に入り、サークル活動がない日は基本、ゲーム会社にいた。
コントロールセンターには、フロアの約半分をしめるほど大きな、ドーム型の装置があった。
そこから無数に伸びる配線が、無造作に床を這い回り、不気味な雰囲気を漂わせている。
装置のやたら分厚い扉を開くと、中は意外とシンプル。
中央に、飛行機のファーストクラスで見るような高級感のある座席が、天井から真下を照らすスポットライトに照らされている。
座席に体を預けると、頭を包み込むようにヘッドセットが降りてきて、装置の中は暗闇になる。
お腹に響く低音が数秒続くと、急に視界が広がり、街の喧噪が聞こえてくる。
土の匂いがして、ツタの生えた石造りの壁や天井が見える。
床には見覚えがある魔方陣。
中世のヨーロッパを思わせるその場所は、アンガス戦記オンラインの舞台そのものである。
操作は肘当ての先端についた水晶のような球体に手を乗せているだけ。
自然に歩き、物を取り、椅子に座り、その場で飛び跳ねる。
手足に触れる感触もリアルに感じられる。
目に見える景色に不自然なところは無く、走っても映像が乱れたり遅延を感じることは無い。
これは賢人たちがT研で作ろうとしているロボット技術の理想的な形だった。
目の前を往来する人達はこの世界で生きている。
表情も豊かで日本語でもシームレスに会話できる。
店では店主との会話もバリエーションが豊富で、コマンド方式ではない。
アイテムも本物と錯覚してしまうほどリアルに陳列され、手に取ることも出来る。
ここまで自由に動けて五感を刺激されれば、再現するのに様々な制限があることにも納得できる。
これが本格始動したらゲーム業界どころか社会現象になるに違いない。
光音パパは天才だ。
あくまでゲームと実感するのは、ARグラスのようにウィンドウが目の前に浮かんで見えること。
アイテムやコインなど、所持品は全て巾着袋に収納され、邪魔にならないこと。
袋の大きさは変わらないのに、アイテムボックスから任意で出し入れが可能になっている。
特殊スキルにより、視点を合わせるとアイテム名称や特性、効能などが自動で表示されるのも面白い。
地球でもこんな生活が出来たら便利だろうなと思う。
ナナハルは失踪当時のまま、小学生の姿だった。
ガルシアは足が長く眉毛が太い、メガネがおしゃれなイケメン男子だった。
会話も普通にできたし、弟と再会できた喜びを、やっと実感出来た。
討伐クエストはその迫力に度肝を抜かれた。
視点が変わったことも大きいと思うが、目の前の敵は息遣いまで聞こえてくるようでとても怖かった。
魔法を繰り出すたびに風圧というか、その影響を全身に浴びて、ゲーム世界がいかに異常かということを思い知った。
ここが異世界だとしても、なんで繋がっているのかとても理解出来なかった。
ゲーム世界では倒されてもセーブしたところまで時が戻るが、ナナハルたちが倒れたら復活することはできるのだろうか。
魔法で復活するとか、方法がなきゃ困るな。
ほかにもナナハルたちと違いがあることが判ってきた。
まずギルドの役割だ。
転生ギルドをナナハルたちは冒険者ギルドと呼び、掲示板に張り出された依頼書を選ぶ。
その内容は異なり、異世界のプレイヤーと会えることは非常にレアなケースになるのだ。
時限付きで転生されてくる人は多いらしい。
クエストを受注すると現れて、達成すると消えていく。
仲間が光に包まれて現れたり、光の粒子のように消えていった様を最初に目にしたときは驚いたが、もう慣れた。
街の人も驚かない。
ちなみにNPCだと思っていた町の人や商人は全員異世界人だった。
どうりで反応がリアルなわけだ。
それからゲーム初回に訪れる、はじまりの街は、ナナハルの世界には存在していない。
これは異世界人に慣れるための、チュートリアルとして造られた幻の街ということだろう。
それとファストトラベルがナナハルたち異世界人はできない。
同行するときは、地道に歩いて移動するしかないということだ。
こうして帰還する方法を探しながらクエストをこなす賢人たちは、更にレベルが上がり強くなっていった。
勇者の使命である魔王との決戦の日も、少しずつ近づいてきていた。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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