28.攻略ノートの活用
テスト当日、ゲーム会社のミーティングルーム。
試験と聞くと、どうして緊張するのだろう。
すでに集まってゲーム、つまりアンガス戦記の話で盛り上がっているグループがいた。
名の知られたプレイヤーらしく、初めて会ったようには見えないコミュニティができていた。
賢人は入口近くの椅子を引いた。
部屋の広さは大学の教室と同じくらいか。
三、四十人は余裕で座れる。
壁には学校の黒板のようにホワイトボードが据え付けてあり、教壇があり、それに向かって長机と椅子が、等間隔に二列に分かれて配置されている。
壁や天井、机に椅子、全て白で統一された部屋。
中学生くらいに見える少年、少女もいる。
その中の一人が、賢人に気づいて近づいて来た。
顔に薄笑いを浮かべているのが少し気になった。
「こんにちは、以外と年齢層が低くて困ってました。
僕アラキって言います。トップギルドの団長やってます、よろしく。あなたは」
いきなりトップギルドの名前が出てきて驚いた。
アンガス戦記オンラインの総合力第一位、ギルド対戦では負け無しと、賢人でも知っているほど有名なギルドだ。
「こ、こんにちは。えっと、ケンとメロン農家の、ケンニイです。一応団長やってます」
頭を掻きながらなんとか返事を返すが、アラキは笑いながら率直に答える。
「うーん、ゴメン、知らないなー、最近出来たのかな? 仲間は誰が入ってるの」
仲間と聞かれ、思いつく限り名前を挙げてみる。
「今はマッチャーさんとか……」
「え、マッチャーって餓狼のしっぽ団の?」
アラキはかなり動揺した。餓狼のしっぽ団は知ってるらしい。
「しっぽ団、ああそれです。今は副団長のオリジンさんも」
「マッチャーさんが何、どうしたの?」
「マッチャーさん知ってる人?」
いつの間にか賢人の周りに人だかりが。
どう反応していいか分からず、とりあえず名前を列挙する。
「勇者の、ナナハルとか……」
「勇者!」
アラキは驚いて口をあんぐりと開けたまま、フリーズした。
周囲からも、「勇者様」とか「ナナハル来たー」と歓声が上がる。
次第にアラキは追いやられ、賢人が話題の中心になった。
何に驚いているかまったく想像できない賢人は、以前聞いた薫子の話をしてみた。
「そういえばゲーマーのシトルって人も今、別の名で参加してもらって……」
「シトル卿!」
「あの、伝説の」
「マジ、半端ねー」
みんな知ってる有名人だったなんてと感心していたところに、光音パパが登場。
集まっていた若者達は談笑しながら席へ戻っていった。
残されたアラキはテーブルに片肘をつき、顔に手を当てぐったりしている。
光音パパが指摘すると、最初とは別人のように肩を落として戻っていった。
一時はどうなることかと不安だったが、みんなのおかげで緊張はとけた。
きっかけをくれたアラキにそっと一礼して、筆記用具を取り出した。
そしてメガネケースから、黒縁のメガネを取り出す。
「あれ橘さん、メガネなんてしてました」
「ちょっと最近老眼で、小さい文字が読みづらくて」
「その若さでですか、それはそれは、ははは」
「そうなんですよ、ははは」
深くは追求されず、テストは始まった。
理由を説明せねばなるまい。
このメガネは普通のメガネでは無い。
ARグラスという画期的なウェアラブル端末で、光音が作り出したインテリグッズだ。
ブリッジにカメラ、ヨロイにマイク、リムにアンテナ、テンプルにバッテリー、モダンに骨伝導スピーカーが内蔵されている。
従来のメガネとさほど変わらぬ外観に対して、レンズにはモニターが埋め込まれており、外部に繋がっている。
まず賢人が問題用紙を開いて、書かれた問題文をじっと見つめ考え込む振りをする。
メガネを通して薫子と七治に伝わり、モニターに回答が浮き上がる。
真相を探すためだ。
賢人は心の中で鬼になった。
第一問、はじまりの街の名物料理は。
『豚の串焼き』
第二問、商人の街、デニールの組合長の名前は。
『ラングストン』
第三問、ルナー鉱山に住み着いた、魔神は。
『アンドロマリウス』
第四問、要塞の街ブレイブフロートで発生した問題とは。
『騎士団と自警団のケンカ』
第五問、レベルが十上がるごとに取得できる特殊スキルは。三つ以上。
『戦士の力、裸眼の力、盗賊の力』
これまで自力で攻略している人なら知っている問題のはずなのだが。
賢人は無我の境地に入っている。
薫子からの連絡をひたすら待つ。
アンガス戦記オンラインから二十問。アンガス戦記から二十問。アンガスの日常から十問と、問題は全部で五十問。
おのずと最後の難易度が高い。
ここで役に立ったのが、七治が小学校時代に作った攻略ノートだ。
きっちり書かれたこのノートは、アンガス戦記に関する問題を全て網羅していた。
アンガスの日常は現在絶版になっていたが、ガルシアは伝説の元ゲーマーだからなのか、過去に調べたことがあるという。
光音も読んだことがあり、その情報網で解答用紙はどんどん埋まっていった。
あからさますぎるか。
終了間際、答えを書き直していると、光音パパが時計を確認し、手を挙げた。
「そこまで。回収しますので書くのをやめて下さい」
張り詰めた空気が解かれ、伸びをしたりぼやきを口に出す者もいた。
賢人の解答用紙を回収するとき、光音パパは満足げに頷いた。
「かなり解答が埋まりましたね。ここまでアンガスの世界を理解して頂けているとは。橘さんに参加してもらってよかった」
「いやー、本当に自分でも驚いています、ハハハ」
引きつり笑いを浮かべ額に汗が滲む。
光音パパは最後に振り返って宣言した。
「お疲れ様でした。これから採点して、結果を発表いたしますので、しばしお待ちください」
光音パパが退出すると、この問題はどうだったとか、なぜか賢人の周りに集まって答え合わせがはじまった。
賢人はメガネをそっとメガネケースにしまうと、乾いた笑い声と、適当にうなずくしかなかった。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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