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21.弟の痕跡

 薫子にアンガス戦記オンラインの情報を集めてもらっていたところ、マキさんから会いたいと連絡を受けた。

 今回は薫子も同伴してほしいそうだ。

 日程を調整して、都内の喫茶店に集合することになった。

 一番乗りとなった賢人は、なんとなしに前と同じテーブル席へ座り、アイスコーヒーを注文した。

 少し時間をおいて薫子がやって来た。

 また奇抜なファッションで、店内の客をザワつかせている。

 予定時間から大幅に遅れて、大きなショルダーバッグを抱えたマキさんが、息を弾ませながら入って来た。

 賢人が手を上げて合図を送ると、マキさんは答えるように一度控えめに手を上げるが、なぜかカウンター席に座ってしまった。

 呼びに行こうかとも考えたが、気づいたはずだと思い直した。

 薫子は一度振り返ってカウンター席の方を見ると、アイスティーを持って席を賢人の隣に移動してきた。

 賢人は不満を漏らすが、薫子は周囲を警戒しながら膝をつついて合図を送ってきた。

 訳が分からず、ただ横並びに座って、マキさんを待つことになった。

 何の時間だったのか、マキさんはようやくテーブル席の方へやってきた。

 そして向かいに座ると、無言のままうちポケットからスマホを取り出し操作しはじめた。

 何度か画面をタップしたあと、スマホを二人に見せるようにテーブルの真ん中に置いた。

 そこでやっとマキさんが帽子とサングラスを外して声を出した。

 スマホを覗き込むと、それは地下室のような薄暗い部屋の画像だった。

「何ですかこれ」と賢人が尋ねると、マキさんは画面を何回かスライドさせて、手を止める。

「コレよ」と画像を見せられたとき、背筋が凍った。

 薫子も気づいたようで、口に手を当てたまま絶句していた。

 メロンソーダが運ばれてくると、マキさんは喉を鳴らしながら豪快に飲んだ後、大きく息を吐いた。

 そして再び説明を始める。


「ここは木村一高が勤めるゲーム会社が昔入っていたビルの中。

住所を探し出して潜入したの。

そこは既に廃ビルになっていて、どのフロアももぬけの殻だった。

ただ捜査員の一人が、地下へ続く隠し階段を見つけた。

降りていくと、床がコンクリートで塗り固められた部屋があった。

その片隅に、ホコリを被ったこのトートバッグが置いてあったの」


 それは体操着入れのようなバッグだった。

 埃が払われ現れた名札に『たちばなななはる』と平仮名で書かれているのがハッキリ読めた。

 マキさんは、更に画面をスライドさせた。


「その中にこのノートが入っていたわ」


 マル秘と大きく書かれた学習用ノート。

 七治が作った攻略ノートではないかと直感した。

 マキさんは賢人の顔を見ながら「ご明察」と言って今度は持参したバックを手に取った。

 周囲を気にしながら、大きなボストンバッグのジッパーを開いて、中の物をちょっとだけ覗かせた。

 マル秘と書かれたノート。画像と同じ物だ。


「それとこれ、本当は規則違反なんだけど、賢人君が持ってなさい」


 そう言って、ボストンバッグごと手渡された。

 中を覗くと、ノートの他に、七治の名札がついたトートバッグが入っていた。

 途端に目頭が熱くなり、涙が溢れ出てきた。

 七治の痕跡がついに見つかったのだ。


「指紋は採取してあるから触っても問題ないわよ、家族が触っていてもおかしくないし、但し重要な証拠だから、前みたいに紛失するのは勘弁ね」


 魔方陣が書かれたノートのことを言っているのだろう。

「ハイ」と頷き、薫子にボストンバックごと手渡した。

 薫子の要塞の方が、セキュリティーが高いと思ったからだ。

 薫子はバッグの中をじっと見つめ、頷いた。

 薫子の目も充血していた。


「このノートからは七治君と楓君の指紋が検出された。

二人で遊んでいたことは間違いないわ」


 他に指紋は検出されなかった点から、七治は何らかの方法でビルの地下室までやって来て、そのあと消息を絶ったと推測される。

 このバッグだけが犯人の目にとまらず、あの場所に残されたまま、今に至る。


「この証拠でゲーム会社に家宅捜索とかできないんでしょうか」


「無理ね、表向き同じゲーム会社として存在していないし、あのビルはテナントがいくつも入っていたからね。

地下室は倉庫というか、天井も低いし、パイプがいくつも突き出していたし、隠されたように入口は封印されていた空間だから、テナントの利用者が知っていたかどうかすら特定できないわ」


「じゃあ、そのビルのオーナーに問い詰めるとか」


「それは無理だった。当時のオーナーから世代交代してるみたいで、今のオーナーは登記簿上の管理しかしてないって言ってる。

当時のオーナーは既に亡くなっていて、本人から聞くことはもう、出来ない状態なの」


 希望の光が、点いては消える。

 最後のキーパーソンは、ゲーム会社は知らないと、嘘をついた光音パパ。

 とても好印象だっただけに、あれが全部、演技だったと思うと、とても悲しくなった。

 光音については、マキさんにSNSのやりとりを説明すると、一定の同意を得ることができた。

 まさかヒカリに頼んで探りを入れているとは、神童でも予想出来まい。

 薫子も「あんな可愛い子が嘘つくはずない」と頷く。

 そうなるとやはり光音には協力してもらいたい。

 しかし父親の関与に戸惑い、動揺するだろう。

 光音に対しても嘘をついていることになるのだから。


「ゲーム会社自体が関与してるって事は無いかな」


 薫子の指摘に、それも一理あると思ったが、知らないと言いきったのが引っかかる。

 会社ぐるみなら大きな証拠を隠すこともできるだろうが、そこは既に調べていたようで、マキさんが否定してきた。


「あの会社の社長は光音の母親だった。一高が研究員として入社してから恋愛に発展したらしいわ」


 それを聞いて、薫子の目の色が変わった。

 社員と社長の禁断の色恋話に、大変興味があるようだ。

 話が脱線しそうだったので、本題に戻そうと賢人は反論する。


「夫婦なら尚更ありえるじゃないですか、子供に黙って夫のために尽くす。愛があればこそ、いかなる苦難も乗り越えられるっていう夫婦愛がそうさせるとか」


「それは無い、幻想よ。

男と女は痴情のもつれが一番厄介、一度仲違いしたら計画どころか人生の破滅だわ。

そんな不確定要素をわざわざ引き込む道理は無い。

夫婦愛などと腑抜けた理想論を語る犯人は直ちに闇に葬るべきだわ」


 マキさんは夫婦愛に強烈な拒否反応を示した。

 その人生の中で一体彼女に何があったのだろう。

 警察官を辞めた理由が何故か無性に気になった。

 薫子も好奇心ありありの眼差しをマキさんに向けていた。

 マキさんは顔をしかめて一喝する。


「あなたたち、パートナーはよーく調べてから選ばなきゃダメよ。

もし必要なら私の部下に調べさせることもやぶさかじゃ無いわ」


「ひぇー、マジすか」


「姐さんカッコいい、一生ついて行きます」


 マキさんの声はとても低く、怨念めいた感情が入り交じっているように感じた。

 薫子はそんな男勝りのマキさんに当てられている。

 通信うんぬんの会社だったと想うんだけど、話しの内容は明らかに探偵がやる不倫調査を連想させた。


「あの、本題に戻りませんか?」


「なによ、ケンちゃん、これから面白くなるところなのに」


「おまえなぁ」


「まあ、時が経てば教えてあげる」


「やったー」


「はいはい」


 話が脱線したまま、今後の方針を話し合い、光音が不倫しても許容できるかという

 違う!

 光音と情報を共有するということになった。

■プチっと業務連絡

2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。


▼朗読動画の再生リスト

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p

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