19.疑念
季節は巡り、街路樹は葉っぱが舞い落ちて、曇りや小雨の降る、冴えない天気が続いていた。
T研では、人の体に取り付ける、入力装置の試作を繰り返していた。動きやすくするために、小型化、軽量化を目指している。
研究成果とは裏腹に、ケントの気持ちは空と同化したような、靄がかかっていた。
マキさんの仮説通り、魔方陣が描かれたナナハルの国語のノートは紛失していた。
そのことでミオンに対してわだかまりを持ってしまい、会話や態度に妙なまが生まれる。結果、ミオンとの距離が広がってしまった。
個人的なことに協力をお願いしておきながらこの有様。
マキさんからの助言すら実行出来ない自尊心の弱さ。
ケントは自分に対して憤りを感じていた。
ノートが盗まれていたことで、その事情を知る木村親子が、弟の失踪と関係していることが証明された。
弟が失踪したとき、ミオンの年齢は十歳くらいか。
そんなことを考えていると、ヒカリの声を耳にした。
「ねえ先生、聞いてます? どう思いますかこの反応」
スマホを水戸黄門のマストアイテム、印籠のように振りかざし、観念しろとばかりに詰め寄ってくる。
勉強するときより真剣すぎて怖いくらいだ。
今日は源家の家庭教師に来ていた。
向けられたスマホには、ミオンとやり取りしているトーク画面が映っていた。
ミオンに協力を依頼した際、ヒカリにも連絡先を教えたのだが、早速色々交流をしているようだった。
「えーと、ゴメン。何だっけ」
「だからこの返事、オッケーって事ですよね。そうですよね」
画面の最後のやり取りを指差して、ヒカリは必死にアピールをしてくる。
読んでみると、『大学受験で合格したら、お祝いにお食事しませんか』それに対してミオンは『頑張って下さい、良い結果を願っています』と返信している。
はっきりオッケーとは取れない無難な回答だとは思ったが、ヒカリは期待しているようだ。
曖昧にして精神的なダメージを受けるより、敢えて前向きな答えを返したほうがよさそうだ。
そう思い、誇張するように答えを導いた。
「コレは間違いなく食事に行きたいだろうな。
ミオンも相当期待しているようだ。
これは勉強を益々励まないといけないな」
ヒカリは大きく万歳すると、幸せを噛みしめるように何度も頷いた。
これで大学に合格してくれれば、家庭教師として面目が立つというものだ。許してくれ、ミオン、ケントは目をつぶり、心の中で祈りを捧げた。
すると、はたといい考えが浮かび、ヒカリにお願いしてみた。ヒカリは疑うこと無く、トーク画面に次の文字を打ち込んだ。
『最近、橘先生と仲が悪いの? 心配してるみたいだけど』
暫く待つと、返信が来た。
『僕はいつも通りにしてるつもりなんだけど、橘先輩、急によそよそしくなっちゃって、原因が分からなくて困ってる。
何か言ってたの? 理由があれば知りたいです』
ヒカリは困惑するようにケントの顔を見たが、更にミオンから返信が来た。
『お父さんも時々別人のように怖い顔をしているときがあるの、みんなどうしちゃったのかな』
ケントはそのやりとりを見た途端、嘘みたいに靄が取れ、気持ちが晴れ晴れとした。
ヒカリに無難な返信を返してと伝えると、流れるような指使いで素早くメッセージを入力し送信ボタンを押した。
『それとなく探り入れてみる、きっと心配ないよ。
私、受験頑張るから、食事楽しみにしててね』
続けて、大きなリボンをつけ厚化粧したネズミが、チューと投げキッスしているスタンプを送信した。
ミオンは『お願い』という文字に、時代劇の板前のような三等身キャラクタが、両手を合わせて、必死に拝んでいるスタンプを返してきた。
ヒカリにお礼を言うと、「顔が明るくなったね」と言われた。
今日はずっと眉間にしわを寄せていたらしい。
お互いに笑いあうと、下の階から君枝さんの叫び声が聞こえてきた。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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