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1.過去の出来事

本当はまだプロローグにあたるのかもしれません。


 ここは都内にあるロボット工業大学。

 賢人(けんと)はこの大学で、週に二、三回活動しているテレイグシスタンス研究会、通称T研(てぃーけん)と呼ばれるサークルに所属している。


 遠隔存在(えんかくそんざい)


 ロボットを利用した研究の一つで、ざっくり説明すると遠く離れた場所でも人型のロボットを操って現場作業を実現させるという研究である。

 現在はロボットの設計とオリジナルドローンの姿勢制御プログラムを試作中だ。その活動中に、賢人は珍しく居眠りをしてしまったのだ。


 教室を出て洗面所に駆け込んだ賢人は、顔に何度も冷水を浴びせた。頭の中で、過去のつらい記憶が呼び起こされる。



 あれは小学生の頃だった。

 賢人には三歳年下の弟がいた。

 名前は、七治(ななはる)という。

 宿題もせず毎日遊び歩いている賢人とは違い、テレビゲームや読書をすることを好み、家の手伝いや勉強ができる、大人しくて賢い自慢の弟だ。


 あの頃、世間では無理ゲーと呼ばれたテレビゲームが話題となった。

 主人公が勇者となって仲間を集め、復活した魔王を倒す。そんな王道RPGだったと思う。

 弟もハマって、家で友達と熱心に遊んでいた姿を覚えている。


 事件が起きたのはその翌年のことだった。

 その日も朝から暑い日差しが照りつけ、セミたちが至る所で合唱していた。

 賢人は放課後、友達とサッカーをして帰ると、時刻は夕方になっていた。

 しかし弟の姿がない。

 一人でどこかに寄り道するとは考えにくい。


 この時代、ケータイやスマホといった通信機器は存在しておらず、本人と直接連絡を取る手段が無い。

 母は心配になって、ご近所の手も借り通学路や広場、学校周辺を探したが見つからず、不安と緊張でその日は皆、眠れなかった。


 翌朝、両親は警察に行方不明者届を出した。


 警察も、日を追うにつれ、捜索範囲を町から県に、さらに全国に広げていったが、手がかりはなし。

 そんな状況がついには一年、また一年と続いていった。


 そして弟が失踪してから三年。

 弟の無事を祈りながら、祖母が桜の花びらと共に天命を全うした。


 毎年この時期になると、両親は落ち込んで、仕事が手に付かない事があった。

 七治を失ったという喪失感は、橘家(たちばなけ)に大きくのしかかり、落ち込む両親を見るのも(つら)かった賢人は、地元から遠く離れた高校を進学先に選んだ。

 その後も両親の反対を押し切り都内で一人暮らしを始める。

 バイトや勉強で忙しいことを理由に、実家にはほぼ帰らなかった。

 その甲斐あって二十歳になった今年、第一志望であるロボット工業大学に現役合格を果たしたのである。



 賢人は、顔を上げて鏡の中の自分をじっと睨み付けた。

 あれから七年、警察からの連絡は無い。

 しかし、諦めたわけじゃない。

 どこかで元気に暮らしていると信じて、自分は自分のできることをやるんだ。

 顔を拭い、両手で頬を叩いて気合いを入れ直す。


 そして、自分の目指す未来へ向けて、T研の部室へ戻っていった。

次回から少しずつ登場人物が増えていきます。


■一口メモ

 橘賢人たちばな けんと:主人公。二十歳。大学一年生。アウトドア派。遠隔存在を使ってIT農業化する方法を模索している。

 七治ななはる:主人公の弟。失踪時は十歳。現在も行方知れず。温和な性格でインドア派。


■プチっと業務連絡

2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。


▼朗読動画の再生リスト

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqiwmhz1-5G0Fm2iWXSjXfi1nXqLHzi_p

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