12.アンガス戦記
前回から引き続き、賢人の実家からお送りします
「ご、ごめん。あいや、その、た、大変失礼いたしました」
賢人は薫子から慌てて離れると、全身に鉄壁の防御(土下座)を発動させた。
しかし予想に反して、すぐに衝撃がこない。
あまりに反応が無いので、片目をうっすらと開けて様子を伺うと、薫子は静かに身なりを整えていた。
袖の皺を伸ばしたり、髪の毛をとかしたり。それを交互に繰り返していた。
怒っているとも泣いているとも違う、無表情な顔つきで。
そのことが逆に今までで一番恐ろしい事が起きる前触れのようで、賢人の芯を凍らせた。
薫子はおもむろにノートパソコンに視線を移すと、操作しながら低い声でひとこと。
「いいよ別に。貸し一つだかんね」
賢人は何度も平謝りしたが、大きな貸しを作ったことは否めない。
それとも修羅場にならず収まったことを安堵するべきか。
気を取り直してアンガス戦記の事を、より詳しく薫子に調べて貰った。
どうやらこのゲームはインディーゲームらしい。
薫子によると、少人数・低予算で開発されたゲームソフトのことで、当時でこの人気ぶりは珍しいと言う。
手がけたゲームはこのソフトのみで、会社は既に廃業していた。
それともう一つ、このゲームは、アンガスの日常という小説が原作になっていた。
ハイファンタジーの世界に暮らす、普通の少年の人生を物語にしたものらしい。
長編小説となっているが、既に絶版になっており、内容までは書かれていない。
タイトル名で検索したら、その本を読んだ人の感想ブログがでてきた。
世界観が作り込まれていて没入感があるが、あまりにリアルすぎて怖いくらいだと書かれている。
本の著者は、木村一高。
名前で検索すると、木村性の有名人や動画はヒットしたが、明らかに別人だと感じた。
出版社に問い合わせても、個人情報は教えられないとのことで、本名なのかペンネームなのかさえ教えてもらえなかった。
ここで警察官のマキさんだったら、国家権力をかざして調査できたかもしれないが、いない人は頼れない。
まずはこのゲームに関する情報を、どうにかして集めるしかない。
薫子のゲーマー仲間にも、それとなく聞いてみるという話で落ち着き、今日のところは一旦お開きになった。
部屋に残った賢人はじっとノートを見ていたことで、一つ思い出したことがあった。
あの頃よく家で弟と一緒にこのゲームを遊んでいた男の子。
面識はないが、あの子は何か知らないだろうか。
ゲームにヒントが隠されているなら、一緒にゲーム攻略をしたときに何かが。
そういえば二人は、攻略ノートを作っていた。
改めて弟の机の引き出しや本棚、押し入れの中を探したが、攻略ノートは見つからなかった。
代わりに懐かしいゲーム機と、アンガス戦記のロムが見つかった。
そこへ両親が仕事を終えて帰ってきた。
時計を見ると、既に十八時を回っている。
「あら、賢人。今日は晩ご飯食べていくの?」
今から寮に帰って自炊するのは面倒なので、晩ご飯を食べていくことにした。
食事中、薫子が帰りに何か母に話したようで、父からもホクホクした顔で色恋話かと茶化された。
「なんでもない」と誤魔化したが、父も母もうれしそうに笑っていた。
そんな顔を見て賢人は、どんな結果になっても、弟のことはちゃんと両親に報告しようと決心した。
■プチっと業務連絡
2022年11月、VOICEVOX(音声合成ソフト)を使って音声化はじめました。ストーリーは変わりませんが、文脈をいじってます。整理できたら随時更新していきます。@siropan33_youで公開中。
▼朗読動画の再生リスト
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