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五十八の太刀  底知れぬ伝説の強さ

 武蔵は八相(はっそう)の構えを崩さず、トーガがどう動くのか食い入るように見つめた。


 名乗りを上げた以上、全身全霊(ぜんしんぜんれい)をもって闘うのが兵法者である。


 だが、自分からは迂闊(うかつ)に動くべきではないと武蔵は思った。


 あまりにも相手の戦力が未知数(みちすう)すぎるのだ。


 加えてトーガが手にしている、二振りの刀も異様な存在感を放っていた。


 左手に持っていた刀は〈無銘(むめい)金重(かねしげ)〉とほぼ同じ長さの大刀だったが、右手に持っていた刀があまりにも目を引く長さの刀だったのだ。


 まるで佐々木小次郎の愛刀――〈備前(びぜん)長船(おさふね)長光(ながみつ)〉を彷彿(ほうふつ)させる三尺(約90センチ)はあろう長刀(ながだち)である。


 そしてトーガの長刀(ながだち)は天理の〈練気化(れんきか)〉による刀だった。


 自分も天理の〈練気化(れんきか)〉で刀を顕現(けんげん)させたことがあるので分かる。


 重さも実感も本物の刀と変わらない。


 しかしそれは右手で顕現(けんげん)させることの出来た、天理の〈練気化(れんきか)〉による刀だった場合だ。


 武蔵はトーガが持つ右手の長刀(ながだち)から左手の大刀へと視線を移す。


(なぜ、あやつは右手だけではなく左手で刀を出せる?)


 トーガの左手には間違いなく、()()()()()()()が握られている。


 それゆえに武蔵は小首を(かし)げた。


 左手の掌上(しょうじょう)顕現(けんげん)できるのは、水の塊や火の玉などの魔法だけのはずだ。


 武蔵は脳内にルリやアリーゼの姿を思い浮かべた。


 水の塊や火の玉などを左手の掌上(しょうじょう)顕現(けんげん)させた魔法使いたちの姿をである。


 もしかすると、ルリやアリーゼたちも魔法だけではなく武器も顕現(けんげん)させることが出来るのだろうか。


 それか天理と魔法を生み出した、トーガ自身が特別なだけかもしれない。


 まあいい、と武蔵はすぐに頭を切り替えた。


 異能の力のことなど、どれだけ考えても無駄だと(さと)ったのだ。


 それよりも武蔵は、目の前で起こっている現実だけに考えを集中させた。


 (すなわ)ち――。


(あのような二刀でまともに闘えるのか?)


 そうである。


 本来、二刀の場合は大刀と小刀で扱うものであった。


 軽くて扱いやすい小刀で相手の攻撃を受け流し、相手が体勢を崩したところを大刀で斬る。


 二刀は一刀よりも使いこなすのは難しいものの、使いこなせれば一対一でも一対多でも優れた威力(いりょく)発揮(はっき)する剣法なのだ。


 けれども、それは大刀と小刀の二刀流ならばの話である。


 正直なところ、武蔵にはトーガの二刀流は実戦で通用しない見せかけだけの二刀流に見えた。


 左手で大刀を使うのはまだ分かる。


 右手が負傷(ふしょう)した場合などに、仕方なく左手で大刀を使うこともあるからだ。


 だが、片手で三尺(約90センチ)はある長刀(ながだち)を使うなど無理があった。


 両手でさえ扱うのが困難な長刀(ながだち)を、まともに振るうことなどあの天才剣士と(うた)われた佐々木小次郎でさえ不可能だろう。


「確かにお前が舟島(ふなじま)仕果(しは)たしたときの佐々木小次郎ならば無理だっただろう……しかし、()()()()()()()()は違うぞ」


 などと意味深(いみしん)な言葉を言った直後、トーガに明らかな動きがあった。


 トーガは両手にそれぞれ持った長刀(ながだち)と大刀を下段に構え、散歩するような落ち着いた足取りで歩み寄ってきたのだ。


 武蔵は大刀の(つか)を握っている両手に力を込めた。


 トーガの歩みには重心の揺れがまったくない。


 しかも長刀(ながだち)と大刀を手にしていながら、正中線が乱れるということもなかった。


(何が〝(もの)()〟ではない、だ)


 武蔵は奥歯を(きし)ませながら心中で悪態(あくたい)をついた。


 その一糸乱(いっしみだ)れぬ姿勢と歩みからは十分に感じ取れる。


 トーガは長刀(ながだち)と大刀を片手で満足に扱えるほどの魔物だということを。


 それゆえに武蔵は決断した。


(後手に回れば確実にやられる。ならば――)


 次の瞬間、武蔵は八相(はっそう)の構えのまま地面を蹴って猛進(もうしん)した。


「オオオオオオオオオオオオオ――――ッ!」


 高らかな咆哮(ほうこう)とともに、一匹の獰猛(どうもう)剣虎(けんこ)と化した武蔵。


 そんな武蔵とトーガの間合いは(またた)く間に(ちぢ)まっていく。


 やがて互いの距離が二間(にけん)(3.6メートル)まで近づいたとき、武蔵は疾風(しっぷう)の動きを落とさずにトーガの右手側に回り込んでいく。


 たとえトーガが長刀(ながだち)と大刀の二刀を上手く使えたとしても、片手で三尺(約90センチ)はあろう長刀(ながだち)を扱う以上は大刀よりも振りは遅いはず。


 などと思ったからこそ、武蔵は長刀(ながだち)を持っていた右手側に回り込んだ。


 そのまま武蔵はトーガの右斜め後方から間合いを詰め、渾身(こんしん)の気合とともに袈裟(けさ)に斬り掛かる。


 おそらくトーガは振り向きざまに長刀(ながだち)()ぎ払ってくるはずだ。


 武蔵は間合いを詰めながら思った。


 今のトーガの体勢から一番早く反撃できる方法はそれしかない。


 そして、このとき武蔵は自分の勝ちを確信した。


 片手の長刀(ながだち)と両手の大刀ならば、両手の大刀のほうが必ず斬り勝てるだろうと。


 そう判断した武蔵だったが、すぐにそれは()()()()()()の考えだったと思い知らされることになる。


 トーガは武蔵の必殺の袈裟斬(けさぎ)りに対してあることをした。


 体捌(たいさば)きを使って()けたのでもない。


 長刀(ながだち)か大刀のどちらかの刀を使って受けたのでもない。


 トーガは両刀を下段に構えたまま、一歩も動かずに武蔵の袈裟斬(けさぎ)りをそのまま生身の肉体で受けたのだ。


 では、トーガの肉体は骨ごと切り裂かれてしまったのか。


 (いな)である。


 トーガの肉体は武蔵の斬撃を真っ向から(はじ)き返したのだ。


 そして武蔵の身体は(はじ)かれた刀の勢いによって後方へ吹き飛ばされる。


(何だと!)


 転倒こそしなかったものの、大きく体勢を崩された武蔵は驚愕(きょうがく)した。


 とても人間の身体を斬ったときの感触ではなかったからだ。


 たとえるなら弾力のある金属の塊である。


「〈硬気功(こうきこう)〉――〝金剛(こんごう)〟」


 トーガは顔だけを振り向かせながら言った。


「肉体を一時的に(はがね)と同じ強度にまで高められる〈硬気功(こうきこう)〉だが、その技の性質上において欠点も存在している」


 続いてトーガはゆっくりと身体も振り向かせた。


「それは技に集中するあまり動きが激しく制限されてしまうことと、死角から狙われた場合は〈硬気功(こうきこう)〉自体を上手く使えない場合があること、そして自分の意識を集中させた肉体の一部しか硬体化できないということに他ならない」


 だが、とトーガは(わらべ)(子供)に説明するように言葉を続けていく。


「それはあくまでも普通の使い手が〈硬気功(こうきこう)〉を使った場合に限る。それこそ修練を積み重ねた熟達者になると、どんな角度から狙われようと全身を等しく硬体化させることが出来る。それが〈硬気功(こうきこう)〉からの派生技(はせいわざ)の〝金剛(こんごう)〟だ」


 と、トーガが真の〈硬気功(こうきこう)〉について語った直後である。


 突如、トーガの肉体が二人に分裂(ぶんれつ)したのだ。


 このとき、武蔵は両手に(しび)れを感じながら思った。


 忍びの者が使う〝分身の術〟か、と――。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


中々、面白かった。


何か続きが気になるな。


今度、どうなるんだろう。


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