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十一の太刀   その金髪エルフ、強者にて

「ここのギルド長を任されております、黄姫(ホアンチー)と申します」


 金髪の長耳女の微笑(びしょう)に、武蔵は両眉りょうまゆを強く寄せる。


(異世界ここに(きわ)まれり……だな)


 武蔵は怪訝(けげん)な顔で金髪の長耳女――黄姫(ホアンチー)を食い入るように見つめた。


 見れば見るほど奇怪(きかい)容姿(ようし)をした女だ。


 金色の髪だけならば南蛮人の一人だとまだ割り切れたが、どこで誰と(まじ)わればあのような美貌(びぼう)()()()()を持って生まれるのだろう。


 居合(いあい)の構えを崩さず疑問符(ぎもんふ)を浮かべたとき、そこでようやく武蔵は思い出した。


(待てよ……あやつ、もしや伊織が言っていた()()()か?) 


 伊織の話によると()()()は金色の髪に尖った長い耳をしており、男も女も整った顔立ちで弓術と魔法に()けているらしい。


 それに見かけこそ似ているが、人間とは別な〝妖精〟という種族なのだという。


 確かに黄姫(ホアンチー)と名乗った女は、寒気がするほど目鼻立ちが整っている。


 背丈(せたけ)は伊織と同じ五尺(150センチ)と六尺(180センチ)の(なか)ばほどだろうが、伊織よりもはるかに中心軸(体幹)が強く通っているため、実際の背丈よりも大きく見えた。


 そのように武蔵が黄姫(ホアンチー)値踏(ねぶ)みしていると、黄姫(ホアンチー)は笑みを崩さないまま武蔵から黒狼(ヘイラン)に視線を移す。


「さて、(くわ)しく聞かせてもらいましょう。この(さわ)ぎの発端(ほったん)は何なのですか? 黒狼(ヘイラン)


 黒狼(ヘイラン)は身体を震わせると、明らかに動揺しながら直立不動の姿勢になった。


 それだけではない。


 黒狼(ヘイラン)は両手を顔の前に持ってくるなり、握った右拳を開いた左手で包むような動作をしながら一礼する。


師父(シーフー)(お師匠)、実は……」


 黒狼(ヘイラン)微妙(びみょう)に裏返った声で、事の経緯(いきさつ)黄姫(ホアンチー)に話していく。


 事情を聞いた黄姫(ホアンチー)は一つ(うなず)くと、再び武蔵のほうへと顔を向けた。


「ミヤモト・ムサシさん、でしたね。事情は分かりました。とりあえず、その殺気を静めてはいただけませんか? 赤猫(チーマオ)、あなたもです」


「は、はいッス!」


 赤猫(チーマオ)は一瞬で闘志と構えを解くと、黄姫(ホアンチー)の視線から逃れるためか黒狼(ヘイラン)の真後ろに隠れるように移動する。


 一方、その場の状況を読み取った武蔵も行動を起こした。


 深く下ろしていた腰を元の高さに戻し、全身に(まと)っていた〝天理(てんり)の気〟を体外へと霧散(むさん)させたのだ。


 しかし、それでも居合の構えは崩さない。


 いや、あまりにも危険すぎて居合の構えだけは絶対に崩せられなかった。


 正直、黄姫(ホアンチー)と名乗った金髪エルフの力量は尋常(じんじょう)ではなかった。


 黒狼(ヘイラン)赤猫(チーマオ)の二人も、十代と(おぼ)しき若さのわりには相当の力量を持っている。


 だが、黄姫(ホアンチー)という金髪エルフはまったくの別だ。


 武蔵は背中に流れる冷や汗を感じながら、口内に溜まった大量の(つば)を静かに飲み込んだ。


(初めてかもな……俺が〝化け物〟と思うほどの相手は)


 長く兵法者をやっていると、常人(じょうじん)には及びつかない不思議な力が色々と身についてくる。


 常人には感じ取れない大自然の〝気〟の力を体内に取り込み、その気の力を下丹田で練り上げることで普段以上に肉体の強さを出させるようになるのもその一つである。


 また、気の力を全身に(とど)めつつ一定の範囲に感覚が広がる意識をすると、足元も見えない暗闇の中でも周囲に潜んでいる人間の存在を知覚できたりもするのだ。

 

 そして、そのような気の力の中でも最大限に戦闘に活用できるものがあった。


 気の力の過多(かた)で相手の力量がそれなりに読めるようになることだ。


 もちろん、武蔵もこれまで数多くの兵法者と死合いをしてきた人間である。


 当然ながら様々な死闘を乗り越えた中で、気の力の過多を正確に読み取って相手の力量を図る能力を身につけていた。


 だからこそ、武蔵は黄姫(ホアンチー)を見て化け物と判断した。


 決して黄姫(ホアンチー)の外見を見て化け物と思ったのではない。


 黄姫(ホアンチー)の下丹田で練り上げられている、とてつもない気の力の強さを感じて化け物と思ったのである。


 そんな武蔵の気持ちに気づいたのか、黄姫(ホアンチー)は「安心してください。私は赤猫(チーマオ)と違ってあなたと闘うつもりはありませんよ」と、こちらも優し気な笑顔を崩さなかった。


「どうだかな。そう言われて背中を向けた途端(とたん)に後ろから刺されては(かな)わん」


 黄姫(ホアンチー)は「ご冗談を」と言ってくすりと笑った。


「どのみち、怖くて背中など向けられないでしょう? ()()()()()()()


 この言葉を聞いて武蔵の片眉がピクリと動く。

 

自称(じしょう)……だと? 俺が()()()()だと申すのか」


 あまりにも聞き捨てならないことだった。


 これでも自分は高名無名問わず、様々な剣術や武器術に長けた兵法者と死合い、ことごとく勝ちを収めてきた本物の兵法者である。断じて口だけで兵法者と名乗っているわけではない。


 武蔵は威圧(いあつ)を含んだ眼光を黄姫(ホアンチー)に飛ばしたが、六間(約十メートル)は離れた場所にいる黄姫(ホアンチー)はまったくのどこ吹く風であった。


 そればかりか、武蔵の問いに「はい、その通りです」と普通に答えたのである。


「それなりに相手のレベルは推し量れるものの、自分の力を押し通すことに頭がいきすぎて周りがあまり見えていない。いいのですか? あなたのせいでお連れさんがかなり参っているようですよ」


 武蔵は顔だけを横に向けて自分の連れ――伊織のほうを見た。


「伊織、如何(いか)がした!」

 

 言われるまで気づかなったが、なぜか伊織は頭を押さえながら苦痛に顔を歪ませていたのだ。


 何かしらの持病の発作なのだろうか。しかし、伊織の口から持病持ちだとは聞かされてはいない。


 それに黄姫(ホアンチー)は〝あなたのせいで〟と言った。


 自分の何がどうしたせいで伊織が苦しんだというのだろう。

 

「だ、大丈夫です……これぐらい……あッ!」


 突如、伊織は武蔵から黄姫(ホアンチー)の方向に目線を向けて驚きの声を上げる。


 武蔵は瞬時に顔を黄姫(ホアンチー)がいる正面に向き直す。


 黄姫(ホアンチー)から目を離したのは数秒。


 けれども、()()()()()()()()()()()()()()()


「敵と判断した相手を前に少しでも目を離す……だから自称、兵法者なのですよ」


 武蔵は驚愕(きょうがく)戦慄(せんりつ)を同時に味わった。


 六間(ろっけん)(約十メートル)は離れた場所にいた黄姫(ホアンチー)が、気がつくと互いに()()()()()()()()()()に立っていたのだ。


 しかも黄姫(ホアンチー)は右手で武蔵の大刀の柄頭(つかがしら)を押さえ、握った左拳を武蔵の腹部に軽く押しつけた状態で立っていたのである。


 まったく動けなかった武蔵を前に、黄姫(ホアンチー)は凛とした声で「纏絲(チャンスー)崩拳(ポンチュアン)」と(つぶや)いた。

 

 次の瞬間、武蔵の体内に何かが爆発したような衝撃が走った――。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


中々、面白かった。


何か続きが気になるな。


今度、どうなるんだろう。


などなど、少しでも気になる要素がありましたら


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面白かったら★5つ、つまらなかったら★1つと率直な評価でけっこうです。


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