資料を見る男
さて、社長の息子とやらに連れて行かれたお嬢様は一体どこに行ったのか。鉄板なのはそいつの部屋か、地下室などの出入りが少ないところか。
フロアガイドの地下階には資料室としか書かれていなかった。物があるということは何かを隠せるスペースはあるだろう。怪しいところではある。
逆に社長の息子の部屋というのはどこにあるのだろう。社長室というのは見つかったが、社長の息子室というのは見当たらない。当たり前ではあるが。役職に就いていることは間違い無いと思うのだが、やはり社長以外の個室は見当たらなかった。
息子の詳細がわからない以上、怪しいところを調べることを先決すべきだろう。一先ず地下の資料室というのを調べてみることにしたオレは、エレベーターに乗って下へ下へと潜り出す。
チン、と到着を伝えるベルが鳴る。エレベーターの前には本棚が部屋中に敷き詰められていた。資料室という名前の通り、その本棚には本やらファイルやらが詰め込まれている。他にも机の上に山積みになっていたり、紙が床に落ちていたりした。しかし肝心の、人が隠れることが出来そうな場所は見当たらない。
どうやらここには人を隠すスペースはなさそうだ。代わりに見つけた非常階段を使い、もう一つ下の階層まで降りていく。そこも変わらずファイルと本と紙しかなかった。変わったところがあるとしたら、ファイルの背表紙が少し物騒なものに変わっているってところか。
「これなんか、『クローンによる食事事情の改善について』だもんな」
チラリと内容を見てみるが、つまりは牛や豚などの家畜のクローンを作り成長させることで、家畜の生殖階数などの手間を減らす…というようなことだった。あとは小難しい文章の他に、恐らく実際に導入したと思われる時の改善する数値などが書かれていた。
他にも適当な資料を漁ってみるが、クローンだのサイボーグだのアンドロイドだの、映画の世界でしか見ないような単語や設定が並んでいるものしか見られなかった。
時間を無駄にしてしまった。資料は置いておき、お嬢様を探し出すことを優先しよう。
とはいえ、この階にも人が隠れられるようなスペースは見当たらない。ならば地下にはいないのだろうか?そう思い近くにあった椅子に座り一息ついたとき、何やら上からドタバタと足音がすることに気がついた。
「もしかして、気づかれたか?」
変装するために襲った警備員が見つかったのだろうか。だとするとあまり余裕はなさそうだ。腕には自信があるが、複数人に囲まれれば勝てる確率は下がってしまう。
深呼吸を一度したあと、オレは再びお嬢様を探し出すために動き出した。