走り抜ける男
鉛玉の雨を掻い潜りながら囲いの上を駆け抜ける。ちょこまかと動くたった一人の男すら倒せないせいか、警備員たちの中から怒号が聞こえた。
「相手はたった一人なんだぞ、何故撃ち落とせない!」
理由がわからない内は一生オレを倒せないだろうな。
走りながら上着の内ポケットに手を入れ、中から二つのアイテムを取り出す。
「ほらよ!」
そのうちの一つを地面目掛けて叩きつけると、辺り一面が光に包まれた。
「っくぅ、目が!?」
銃声は止み、代わりに慌てふためく声が聞こえた。どうやら閃光玉が効いたようだ。追撃されないよう、もう一つの道具の蓋を開けて先頭の薬品に擦り付け、後ろに投げつけた。発煙筒だ。筒はもくもくと煙を出し、オレの姿を隠していく。
「どこに行った、うぁっ!」
煙の中で男が声を上げた。何が起きてるのかは恐らく誰にも見えてはいないだろう。だが煙の中は動揺と喧騒に包まれている。誰が何を喋ろうが、周りには聞こえていないだろう。
やがて煙が上がる頃、誰もが銀髪の賞金稼ぎの姿を見失っていた。
「くっ、逃げられたか?」
「…はい。微かですが、先ほどの男が囲いから降りたように見えました。もしかしたら、一度引いたのかもしれません」
警備員の一人がそう話すと、指揮を取っていた男がため息を吐いた。
「情けない話だ。皆、先程は取り乱してすまなかった。一先ず外側の警戒を強めろ!」
警備員達は返事をして、それぞれの持ち場へと戻っていく。その中で一人、企業のビルに向かって走り出す警備員の服を着た男がいた。
何を隠そう、オレだ。
先ほどの煙幕の中で警備員の一人を襲い、身包みを剥いだオレはその服に着替えておいたのだ。髪はウィッグを被り、ついでにパクっておいた眼鏡をかけて変装を済ませている。
身包みを剥いだ男は適当な位置に隠しておいたが、見つかるのは時間の問題だろう。ならばその間にとっととお嬢様を回収してトンズラするとしよう。
本社であるビルの中は、わかってはいたがとても広く豪勢な装飾品を施されていた。職員や警備員、恐らく他社の人間と思われる奴がせわしなく歩いていた。話の内容をチラリと聞くと、社長の息子であるキリザの仕事が上手く行っていないらしい。それにしても社長の息子って、どんな役職に就くものなんだろうな。
とにかく今は情報を集めるのが先決だ。一旦無駄に階数が多いフロアガイドを見て、お嬢様がいそうな階層に目星を着けることにしよう。