金にがめつい男
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───。
体が重い。ぼんやりとした意識のまま、柔らかいベッドの上で目を覚ました。
「目を覚ましたかな」
声が聞こえた。聴き慣れないトーンだ。音がした方に目を向けると、そこには人の良さそうなおっさんがオレを見ていた。
「名前は言えるか?」
「ん。…あぁ」
段々と前の記憶が蘇っていく。確かオレは金髪のお嬢様を追いかけて、そいつを拐おうとした男と交戦して、背後から襲われて。
そうだ、最後に黒服の人間たちに襲われたんだ。奴の仲間だと思われる人間など、まるで気がつかなかった。まだまだ実力不足だということか。
「あんたは?」
「わたしはフォンセ・ソレイユ。この町の市長をやっている」
「…はぁ」
市長か。正直何をやっているのかわからない仕事だが。
「それで、その市長さんが何の用で?」
「まずは君に謝罪をしたくてね」
そう言うと、市長さんはその賢そうな頭を下げる。
しかし、何のことだろう。この人とは初対面だ。謝られることなんて何もないはずだ。
「すまなかった」
「どうして謝るんだ?」
「君を背後から殴り、気絶させたのはわたしの部下だ」
市長さんがそう言うと、扉が開きそこから黒服の男達が数人やってきた。その中には傷ついた人間もいた。確かに、気絶する前に見たのもこんな奴らだったような気がする。
やってきた黒服達も、オレの顔を見ると同時に頭を下げる。今日はよく謝られる日だな。
「謝罪の理由は理解した。それじゃあ次の質問だ。何故オレは殴られた?」
「彼らが君のことを、わたしの娘を襲った人間だと勘違いしたんだ」
なるほど、大体理解した。彼らというのはこの黒服たちのことだろう。それでオレを殴った黒服達はアタフタとしていたわけだ。
そしてあの金髪のお嬢様。言われてみればこの市長さんに顔が似ている、気がする。
「ん、ちょっと待て。どうしてオレがその、あんたの娘を襲った人間じゃないってわかったんだ」
確かにあの状態、オレがお嬢様を担いで人と交戦している状態だったら、オレの方が敵だとみなされるのも仕方がないことだと思える。
「それが。…君を攻撃している間に、もう一人の男にわたしの娘が拐われてしまってね」
ふぅん、なるほど。ドレッド・ヘアの男がどさくさに紛れてお嬢様を連れて逃げてしまったということか。結局、すべてがマイナスの方向にいってしまったというわけだ。
「つまりお宅の部下達が勘違いをしたせいで、無関係な人間を傷つけた上、自分の娘は行方不明になってしまったと」
「いや、娘の行方は概ね検討がついている」
「前のお見合い相手って奴か?」
それを言うと、市長さんは少し驚いた顔をした。そこまではオレが知っていない情報だと思っていたのだろう。
「あんた達の言う娘を襲った犯人というのと少し話をしてね。あんたの娘が襲われた理由は大体わかっているつもりだ」
「そうか、なら話が早い。君に頼みがある」
すると、黒服はどこからかアタッシュケースを取り出してオレが横になっていたベッドの横にあるテーブルへと置いた。中を開くと、そこには札束が敷き詰められていた。
「娘を助けてくれ。我々よりも娘の元へとたどり着いていた君ならば、それができるだろう?」
「オレを信用できるのか?」
「気絶している間に持ち物を調べさせてもらった。君は賞金稼ぎだね?」
「…ほぅ」
確かに賞金稼ぎというのは金に執着のある人間が多い。稼ぎが安定しない以上、一回に獲得できる金額が多いほど依頼に対してのモチベーションが上がるってもんだ。
そしてそれは、オレも例外じゃあない。
「これは前金か?」
「いや、悪いが前金はこの中の一割だ。娘を無事に連れて帰ってくれれば、このケースの中の金額を全て渡そう」
「乗った。あんたの娘は金にがめついこのオレが救ってやるよ」
黒服に渡された仲間の一割を受け取り、オレと市長さんは同時にニヤリと笑い合った。