少女を担ぐ男
今後の投稿で失敗した場合について、活動報告に記載しました。
気づかれないように金髪の少女を追いかけ始めて数分。オレが感じた事件の匂いというのは間違いだったのか、特に何も起きずに時間だけが経っていた。辺りを気にして歩いても、オレ以外に彼女を追いかけているような人物は見当たらない。これじゃあまるでオレが彼女のストーカーだ。
もしかしてオレの思い過ごしだったのか。気持ちが緩んでしまったせいか、大きなあくびが出てしまった。
あと数分ほど何も起きなければ、追いかけるのはやめてしまおう。そう思って二度目のあくびを行うと、何やら悲鳴のようなものが聞こえた。
声の方向へと顔を向ける。眠気が吹き飛んだおかげで視界も良好だ。向かった視線の先では、例の金髪の少女がドレッド・ヘアの男に腕を掴まれていた。表情が見える。少なくとも、この状況は彼女にとって良くないものだと読み取れた。
「くっ、離してよ!」
「そうは行かないなぁ。これも、俺の仕事なんでね」
仕事、ねぇ。もしかしたらあのお嬢様の執事か何かで、家に連れ帰るのが仕事なのかもしれない。だが連れて行くのが別なところだとしたら。
「来てもらおうか。あのお坊ちゃんの元にな」
「見合いは断ったでしょうが!」
「断るという選択肢はお前にはない!」
なるほど、大体は想像がついた。金持ち特有の政略結婚と、それを断ったことによる恨みやら妬みってところか。
ドレッド・ヘアの男はお嬢様を組み伏せて床に押さえつけると、胸ポケットからハンカチを出し、もう片方の手で薬品を染み込ませて少女に嗅がせた。最初は暴れていた少女も、次第に抵抗する力が弱まって行く。
よし、ここまで来たらもう現行犯でとっ捕まえることができるだろう。相手が否定しても、意識を取り戻した少女に証言して貰えば良い。
「そうは行かないなぁ!」
目の前でお嬢様を担ごうとする犯罪者へと駆けつけ、その安心していた顔に拳を一発叩きつける。
のけぞった男はその場でよろめき、その隙にオレはお嬢様を背負う。
「何だお前──!?」
「正義の味方って奴だろうが!」
金のためとはいえ、犯罪者を捕まえる仕事だ。嘘は言っていない。
犯罪者である男の目的はやはりこの少女を運ぶことのようだ。男は少女の方をチラリと見ると、オレに向かって殴りかかる。
だが、勢いがない。どうやら少女を傷つけないことも目的の一つのようだ。オレが倒れることで少女に傷がつかないようにしているのだろう。
「だがそれじゃあ、オレには勝てな──っ」
そう言いかけた瞬間、後頭部に強い痛みが走った。
殴られた?今、誰に?コイツの仲間がいたのか?だとしたら、全く気がつかなかった。
消えて行く景色の中見えたのは、何故かうろうろとしている何人かの黒服のおっさん達だった。