銀髪のバウンティ・ハンター
賞金稼ぎという職業がある。
バウンティ・ハンターとも呼ばれるその職業は、全国各地にいる犯罪者を捕まえる仕事だ。
警察と違って個人の実力、特に腕っ節に左右される以上この仕事で生計を立てているものはあまりいないが、簡単な試験とそれを受けるための受験料、ちょっとした手続きで免許を発行できることから、老若男女問わずこの仕事の免許を取っている。
つまりは緩い条件で就けるこの仕事だが、一箇所に留まらなくても稼ぎができることから、オレの人生にマッチしていた。
「待てよ、オラァ!」
路地の裏、人通りが少ない陰の道をオレは銀色の髪を揺らしながら走っていた。走る理由はただ一つ。目の前の男に追いつくためだ。
事前に聞いていた情報の通り、奴は持久力に自信があるようで息切れ一つ起こしていない。身体能力も高く、設置されているごみ箱などを軽々と飛び越えて奥へと進む。
だが、それはオレも同じだ。長く続く追いかけっこの中で、確実に距離を縮めていく。左、左、右と入り組んだ路地を駆け抜け、最終的に塀がある行き止まりまで男を追い詰めた。
道がなくなった男はオレの方を振り返り、一つ舌打ちをすると覚悟を決めた目でオレに殴り掛かる。
──勝てる。
男が放つ拳を避け、その殴りかかる勢いを利用しオレの方から一発、腹に拳を入れる。
クリーンヒットだ。男は逆流した胃酸を吐き出すと、その場でうずくまり何度か咳をする。
様子が落ち着く前に、懐から手錠を取り出したオレは男の手首にそれをはめた。
「くそっ」
ついてねぇ。男は諦めたようにそう言うと、手錠をはめた両手をだらんと下げてオレを見る。
「あんた、何者だよ」
「あ?オレか?」
その男の質問にオレは笑って答えた。
「賞金稼ぎだよ。記憶喪失の、な」
────
「では、こちらの書類の太枠の部分をご記入ください」
「うっす」
警察署の隣にあるバウンティ・ハンター・ギルド、通称・バンギルに先ほどの男を引き渡す。その後は受付の女性に渡された、依頼達成の報告と報酬金を貰うための専用書類への記述を行ない最後に免許証の提出を行う。例えるなら古書店の買取のようなこの流れを行うと、受付嬢はすっと手を出した。
「では、あちらで報酬金が支払われます。お疲れさまでした」
「お疲れっした!」
差し出された手の方にあるカウンターに向かい報酬金の入った封筒を受け取る。そして一旦バンギルを出て中身を確認するとその中身は。
「ぐぇ」
封筒に包まれた紙幣を見ると、中には一日分の食事代くらいしか入っていなかった。
金額の内訳には『ひったくり、初犯、現行捕獲』などの報酬金額に対する項目の他に、『街の環境破壊』『建造物の修繕費』 『税金』など減額の欄にてたくさんの金額が引かれていた。
確かに犯人を追いかける時に、相手がゴミ箱を蹴飛ばして進路の妨害をしてきたり、オレが威嚇射撃を行なって速度を落とすように策を立てたが。
「ついてねぇ...」
後者はともかく、前者はオレのせいじゃない。やるせない気持ちを肺に込めて大きく吐き、目の前にある公園のベンチに座る。
すると、金髪の少女が目の前を駆けた。美しいブロンド・ヘアに綺麗な服。良いところのお嬢様と思われる彼女を、気づけば目で追ってしまった。
…いや、視線が向いたのはそれだけが理由じゃあない。走るには向かないロングスカート、それに焦りや恐怖が感じられる表情。
感じる。これは金になる事件の匂いだ。
誘拐や人攫いの現行犯なら、とっ捕まえれば半月は安定した生活ができる。でかい家のご令嬢となれば、家の方からも謝礼金が貰えるかもしれない。
取らぬ狸の皮算用だとはわかっているが思わず口角が上がってしまう。視界にいる金髪の少女を逃さないよう、ベンチを飛び出して追いかけ始めた。