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悪役令嬢のお気に入り 王子……邪魔っ  作者: 緋色の雨
第四章

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エピソード 2ー6

 後日。

 アイリスは、ジゼルとエリオット王子をレムリア側の屋敷に招待した。

 名目はジゼルだけに精霊の加護を得る方法を教えるため。だが、わざわざレムリア側の屋敷に招いた本当の理由は、ジゼル達に危険が迫っていることの警告をするためである。


 ――という訳で、お屋敷の応接間。

 二人の到着を待つアイリスは動きやすいという理由だけで魔術師の服を纏い、部屋でぼんやりと窓の外を眺めていた。そこにノックがあり、姿を現したのは――アルヴィン王子だった。

 彼はピシッとした礼服を身に纏っているが、なんとなく殺伐とした雰囲気を纏っている。


「わたくしは無実です」

「まだなにも言っていない」

「これからなにか言うという意味じゃないですか、ぶっとばしますよっ!」

「ふっ、おまえの口からそのような虚勢を聞く日が来ようとはな」


 あっさりと見破られたアイリスは視線を彷徨わせた。


「ええっと……その、よくよく考えれば、とくに言い訳をする必要はありませんよね?」

「心当たりはない、と? 俺がなにを言いたいかは分かっているはずだ」


 彼の用件は間違いなく、精霊の加護の習得についての話である。

 アルヴィン王子が加護を習得しようとしたときは、アイリスはやれ危険だのなんだのと理由を付けて反対して、最終的には実力行使にまで及んで阻止したのだ。


 なのに、ジゼルには『機会をあげるからチャレンジしてみれば?』的なノリで勧めた。俺への警告はなんだったのかと、アルヴィン王子が怒るのも当然である。


「あれは……違います。アルヴィン王子に精霊の加護の習得を避けさせようとしたのは、えっと……ほら、アルヴィン王子のことを心配した結果です」


(まぁ、敵になるかも知れないから、アルヴィン王子が力を持つのが怖かった。というのが最大の理由ですけどね。心配したのも嘘じゃありません)


「言い訳にキレがないな。他に言い分はあるか?」

「えっと、その……乙女心は複雑なんです」

「誰が乙女だ、ぶっとばすぞ」

「人のセリフを取らないでください!」


 反論しつつ、アイリスは必死に言い訳を考える。

 けれど、アイリスの予想に反して、アルヴィン王子はアイリスの顎に指を添えて上を向かせると、「まぁ今回は追求しないでおいてやる」と笑った。


「……いいのですか?」

「人は誰だって過ちを犯すからな。過ぎたことは仕方ない、そうだろう?」

「お、王子もたまにはいいことを言いますね!」


 助かりましたと安堵の息を吐く。ただより高いものがないように、無償の許しよりも高いものはないのだが、わりとテンパっていたアイリスはその許しに飛びついた。


 そうして、アルヴィン王子が退出。

 それを見送るとほどなくしてジゼルとエリオットがやってきた。


 ジゼルはプラチナブロンドをいつものツインテールにして、ドレスはエリオット王子の瞳の色と同じ、深く青いドレスを纏っている。

 対してエリオット王子は白を基調とした礼服だが、そのワンポイントに、ジゼルの瞳と同じブルーサファイアの宝石をあしらっていた。


(この二人、急に仲良くなりましたね。なにか心境の変化があったのか、それとも乙女ゲームとやらのシナリオに強制力があるのか……前者ならいいのですが)


 そんな疑問はおくびにも出さず、アイリスは二人を出迎えた。

 席について、単刀直入に本題を切り出す。


「あなた達、狙われているわよ」――と。


 二人はピクリと身を震わせ、互いの顔を見合わせる。

 ほどなく、ジゼルがアイリスに向かって口を開いた。


「お姉様はなにかご存じなのですか?」

「第一王子を擁立していた勢力が悪あがきをしているようね?」


 二人を狙っているのは旧第一王子の派閥だとほのめかす。それを聞いたジゼルは堅く目を瞑って、それから一呼吸。再びアイリスに視線を向けた。


「……お姉様はレムリアにいてもなお、リゼルを見通す目をお持ちなのですね」

「その反応、ジゼルも知っていたの?」

「エリオット殿下の部下はもちろん、アイスフィールド公爵家の諜報員も優秀ですから」

「そっか、把握しているのね。もしかして、この町の視察に来たのは……」


 敵をあぶり出すためなのかしら? という問い掛けに、二人はこくりと頷く。危険を承知で敵を排除しようとしている。

 どうやら、二人はアイリスが思っている以上に成長しているようだ。


「必要なら、わたくしがあなた達の敵を排除することも考えていたのだけど……」

「ありがとうございます、お姉様。ですが、お気持ちだけいただいておきます」

「そう。……エリオット殿下もそれでよろしいのですか?」


 万が一にも、王族になにかあれば大変だ。そうでなくとも、ジゼルになにかあれば許さない。そんな圧力を込めた視線を向けてみるが、エリオット王子は迷わなかった。


「これは、僕とジゼルが乗り越えなくてはいけない試練ですから。それに……アイリスさんには及びませんが、ジゼルは僕が必ず守って見せます」


 ジゼルと向き合い、静かに頷きあう二人の姿は愛おしい。


(本当に、わたくしが思っているよりもずっと、二人は立派に成長しているのですね。というか、乙女ゲームの二人よりも立派に見えるのは気のせいでしょうか?)


 乙女ゲームでの二人は、敵対するアイリスに対抗することで成長した。だけど、現実の二人もまた、アイリスの背中を追い掛けることで成長している。

 その事実に気付かないアイリスは首を傾げた。

 だが、なにはともあれ、二人が頼もしいのはアイリスにとって喜ばしいことである。


「二人の気持ちは分かりました。不安は尽きませんが、成長を見守るのもまた先達の役目でしょう。あなた達の今後を見守るといたしましょう。ですが、わたくしがあなた方の味方であることは忘れないでください。本当に困ったら頼ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「お姉様、ありがとう」


 二人が感謝の言葉を口にする。

 これ以上は親切の押しつけになる。そう判断したアイリスは話を打ち切ることにした。その代わりと言ってはなんだが、精霊の加護を得る機会について話すことにする。

 アイリスはベルを鳴らしてメイドを呼び、「あの二人を呼ぶように」と指示を出した。


「お姉様、二人というのは?」

「わたくしの友人です。本当は隠れ里に手紙を送るつもりだったのですが、ちょうどこの町に来ていたようなので、いまから話を付ける予定です」


 と言われても、ジゼル達にはなんのことか分からない。アイリスもそれ以上説明するつもりはなく、すぐに分かりますよと二人が来るのを待つ。

 ほどなく、開け放たれた扉から二人が入ってきた。


「よう、アイリス。久しぶりだな」

「レムリアの王都に行くつもりだったが、探す手間が省けたというものだ」


 親しげに手を挙げたのは、ぴっちりとしたシャツに上着を纏い、下は動きやすそうなズボンを穿いている青年。見事な腹筋を惜しげもなく晒した武闘家スタイルの彼はアッシュである。


 続けてどことなくぶっきらぼうなのはハイエルフのクラウディア。

 実年齢はともかく、見た目は少女にしか見えない彼女は、チューブトップのワンピースに上着を重ね、更にファーのストールを纏っている。


「お久しぶりですね、アッシュ、それにディアちゃん」


 アッシュがおうと答え、クラウディアはディアちゃん呼びに鼻を鳴らした。けれど、文句を言ってこない辺り、ちゃん付けで良いといってくれたのはいまも有効なのだろう。


「二人に紹介しますね。リゼルの第二王子のエリオット殿下と、私の妹でアイスフィールド公爵家の娘であるジゼルです」

「へぇ~、アイリスの妹か」

「言われてみれば生意気そうな顔立ちが少し似ているな」


 二人は好奇心旺盛な視線をジゼル達に向けた。そして、視線を向けられたジゼルとエリオットは表情は強張っていた。アイリスが友人を優先して紹介したからだ。


 社交界のマナーでは、まずは身分が高い方に対し、そうでない方を紹介する。ジゼルは妹なので後回しにするとしても、普通に考えればエリオット王子に二人を紹介することになる。


 にもかかわらず、そうならなかった。

 考えられる理由は多くない。

 アイリスが基本的なマナーを知らないなどと言うことはあり得ないため、アイリスがエリオット王子を見下しているか、あるいは――


「エリオット王子、ジゼル。彼はアッシュ。拳精霊の加護を持つ武闘家です。続けて、隣にいる女の子はハイエルフのクラウディア。同じく加護持ちの薬師です」


 ――二人の方がエリオット王子よりも優先されるべき身分だからか。


 二人の正体を知り、ジゼルとエリオットが再び息を呑む。二人は、この町が開発されるに至った事情を知っている。すなわち、隠れ里にどのような人間が住んでいるかも。


「ア、アイリスお姉様、お二人はもしや……?」

「ええ。かつての大戦で魔族を退けた英雄の末裔です。あるいは、英雄と肩を並べて戦う戦友と言っても差し支えないかも知れませんね」


 一部の英雄はご存命である。

 先の襲撃では、そんな英雄と肩を並べて戦っていた。というか、クラウディアに至っては指揮官として、英雄にも容赦なく指示を飛ばしていた。

 それを聞いたエリオット王子とジゼルがピシリと固まった。


「お、お会いできて光栄です」


 エリオットが席を立って頭を下げ、ジゼルも同じように立ち上がってカーテシーをする。


「はは、そんなに堅苦しい挨拶は必要ねぇぞ」

「そうだな。どこぞの小娘は馴れ馴れしすぎるが、そうでなければ普通でかまわぬ」


 アッシュは朗らかに答え、クラウディアはちらりとアイリスに皮肉を飛ばす。


(ディアちゃんは相変わらずだなぁ……)


 小さく笑ったアイリスは「自己紹介も終わったところで」と華麗にスルーした。


「さっそく二人にお願いがあるんだけど」

「お、アイリスが俺達にお願い? どんな内容だ?」

「実は妹のジゼルにも精霊の加護を得る機会を与えて欲しいの」

「――お姉様!?」


 まさか、加護を得る機会というのが、英雄の末裔にお願いするような内容とは思いもしなかったのだろう。ジゼルがそのブルーサファイアの瞳を見開いて止めに入る。

 アイリスは手のひらを突きつけてジゼルの行動を遮る。


「ジゼルの才能は本物よ。わたくしがさきに得ていなければ、貴女がフィストリアの加護を得ていたことでしょう。だから、貴女にも加護を得るチャンスをあげたいの」

「お姉様、ですが、英雄の末裔にそのようなお願いを……」

「交渉するのはわたくしなので心配する必要はありません」


 そして、これはアイリスが為さなくてはならないことだ。

 乙女ゲームでは、アイリスが自分の死を以て、フィストリアの加護を継承させている。だがその手が使えない以上、他の精霊から加護を得るのが最善手であると、アイリスは判断する。


(見守ると言った手前、あまり肩入れは出来ませんが……これは見守ると宣言するまえに提案したことですから、まぁ……問題はないでしょう)


「という訳で、お願いできますか?」

「アイリス並みの才能、か。……まあ試練を受けるくらいはいいんじゃないか? だが、そうなると、隠れ里に案内する人間が必要になるな」


 隠れ里への場所や入り方など、秘密にしていることが多くある。以前、アルヴィン王子が軍を率いて援軍に駆けつけたときのような例外もあるが、秘密を知る者は少ない方がいい。

 つまり、ジゼルの使用人は同行させられない。


 そうなると、アッシュは同行者として不適切。

 アッシュの意図を察し、アイリスは視線をクラウディアへと向ける。


「そうですね。ジゼルは女の子ですから、クラウディアが案内役を引き受けてくれると、とてもとても頼もしいのですが……」

「却下だ。私は王都を見て回りたいんだ」

「引き受けてくれたら、後で王都を案内いたしますから、ね?」


 お願い――と、アイリスは上目遣いをクラウディアに向けた。


「……むぐ」

「ディアちゃん」

「……むぐぐ。……はぁ、分かった。引き受けてやろう。その代わり、この一件が片付いたら、レムリア王都を案内してもらうからな?」

「ありがとう、ディアちゃん!」


 こうして、クラウディアがジゼルを隠れ里に案内することが決まった。

 

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