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姉との確執 3

 「ジェーン・グレイ様が処刑されました」


 執事の言ったその言葉は、私にとって信じられない言葉でした。

 あんなにはっきりジェーンは処刑しないとおっしゃっていたのに。お姉様にとってもジェーンは妹のような存在だったはずなのに。トマス・ワイアットの反乱にジェーン・グレイの父親が参加していたといっても、ジェーンがそれに加わっていたとか賛成していたとかそんなことがないことくらいお姉様にもわかっているはずです。それに加えて私の知っているお姉様は優しく情の深い方で……血なまぐさいことや争いごとを好まない方でした。そんなお姉様がどうして……?

 そんなことを考えているとますます腹痛がひどくなり、熱も出て、起き上がれないほど体調が悪い日が続いていました。

 そんな中、お姉様からの使者が私の館にやってきました。


 「エリザベス様にロンドンへの召喚状をお届けに参りました。直ちに我々とロンドンに向かってください。今すぐご用意を」


 使者の言葉は異論をはさむことを許さない、厳しいものでした。おそらくこの召喚を拒めば私が反乱軍に関与した疑惑が深まってしまいます。私は体調は悪いままでしたが、仕方なくロンドンに向かう用意をしました。


 「ロンドンに行けばお姉様に面会できるのですよね?」


 お姉様へ直接申し開きするのが一番の解決だと思い、私は使者に訪ねました。


 「女王陛下はお忙しく、エリザベス様と面会する予定はございません」


 使者の言葉は冷たいものでした。


 それから私はロンドン塔のホワイトホールに収監されました。何度も何度もお姉様との面会をお願いしたものの、叶えられないまま2週間がたとうとしていました。


 「エリザベス様、トマス・ワイアットがあなたとの共謀を自白しました。これからあなたはベル・タワーに移送されることになりましたのでご用意をなさってください」


 やってきた役人は私にそう言いいました。


 「なぜですか?私は何もしておりません。トマス・ワイアットとは面会したこともありません!お姉様に合わせて下さい!直接お話すれば分かって下さるはずです……!」


 私は必死に訴えかけましたが、役人は冷たく返答しました。


 「女王陛下はお忙しく、面会の時間は取れません」


 そういうと役人は部屋を出ていきました。


 土砂降りの雨が降る中、私はロンドン塔のベル・タワーへ移送されました。私は小舟に乗せられ、『反逆者の門』を通ってベル・タワーの中に入っていきました。ベル・タワーの中は異様な臭気が漂っていました。ジェーン・グレイをはじめとするトマス・ワイアットの反乱に加担した疑いを受けた人間が中で処刑されてまだ一月ほどしかたっていませんでした。ジェーンだけでなく、私の母アン・ブーリンも、従妹のキャサリン・ハワードもここで処刑されたのでした。この臭気の正体について考えると……まとわりつくようなこの臭気が処刑されて死んでいった者たちの怨念のように感じて恐ろしくてしょうがありませんでした。

 ロンドン塔には私のほかにまだトマス・ワイアットの反乱に加わった疑いのある者のほか、ジェーン・グレイの女王擁立にかかわったものに連座して捕えられたダドリー家の兄弟たちが拘束されていました。

 ダドリー家の兄弟はジェーン・グレイと結婚したギルフォード様のほか、4人いらっしゃいました。彼らは皆、私の弟エドワードの学友として選ばれた高い教養のある人たちでした。その中でも私と同じ年のロバート様とはエドワードを介して親しくさせていただいていました。私と彼らは違う建物で拘禁されていましたが、運動の為に時々敷地内を散歩されていただいているときにロバート様と会うことがありました。


 「君もとうとうここに来てしまったんだね……でもあきらめずに頑張るんだよ?」


 すれ違いざまにこっそりロバート様は私にささやきました。ダドリー家の兄弟たちはもう1年近くここに拘禁されていました。ご自分の方がつらいでしょうに、私を励ましてくれる彼の優しさや強さに私は感動していました。


 ベル・タワーでの拘禁生活は不自由なものではないものの、得体のしれない異様な臭気や、壁に刻まれている無実を訴える言葉や、無念を訴える言葉が、まるでここで処刑されたものの怨念がこもっているようで……。私は恐ろしくて心が凍りそうでした。私は相変わらず腹痛に苦しめられて臥せっていることが多かったのですが、眠っている間中悪夢を見ました。ここで処刑されたお母様アン・ブーリンや従妹のキャサリン・ハワードやジェーン・グレイが何度も私の夢の中に出てきました。切られてしまった首を持って私に助けてほしいと訴えるのです。私の心は底知れない絶望に覆われてしまいそうでした。


 結局私が拘禁されてから2週間後、トマス・ワイアットは私との共謀があったことを処刑される直前に否定しました。そのことから私と反乱軍との関係を証明できなくなり、私は監視付きながらロンドン塔から解放されることになりました。


 「私の疑いは晴れたのですね?それでしたらお姉様とぜひお話ししたいです。面会の機会を戴けませんか?」


 私はもう半年はお会いしていないお姉様となんとしてもお話ししたいと思い、役人に願い出ました。


 「……エリザベス様、あなたの嫌疑は晴れたわけではありません。証拠が集まらなかっただけです。女王陛下との面会許可できません」


 役人の答えは相変わらず冷淡なものでした。





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