姉との確執 1
お姉様の戴冠式はウェストミンスター寺院で行われました。お姉様は歴代国王のまとった毛皮を身にまとい、ビロードの豪華なドレスを着て現れました。カトリックの司祭によって執り行われた戴冠式は大変荘厳で豪華なものでした。その後に各国大使や国内貴族が参加する大宴会も300種類以上の料理が供される豪華なものでした。お姉様をお祝いするため、私も地味な普段着ではなく、とっておきのドレスで参加しました。
「エリザベス様、お久しぶりでございます!」
「エリザベス様、ご立派になられましたね!」
「エリザベス様、お父様に似てこられて凛々しくなられましたね!」
久しぶりに参加する宴会では、様々な方々に話しかけられました。私も気分がよくなってきていたのでしょうか、皆さまとずいぶん陽気に会話を楽しんでいました。
「……楽しんでいるようね、エリザベス」
そんな時、お祝いの席を回っていたお姉様が、低い声で私に声をかけてくださいました。しかし、いつもと違う口調に私は少し違和感を覚えました。
「お姉様、おめでとうございます。大変立派な戴冠式で、感動いたしました。この宴会でもお姉様の戴冠をこんなにも沢山の方々がお祝いして祝福してくださっているのを実感して、私までうれしくなりました」
私はお姉様の態度に違和感を覚えつつ、おめでたい日にふさわしく、素直にお姉様を祝福しました。
「……そう、ありがとう。皆は私の戴冠だけでなくお前の王位継承権復活もお祝いしているようだったわね」
お姉様は今まで私が聞いたこともないような冷たい口調で言いました。私がそれに驚いていると、お姉様は続けて私にこう言いました。
「でもお前に王位は渡さないわ……。お前に王位継承権は与えません。私は必ず子供を産んでその子に王位を継がせます」
お姉様がなぜこんなことを言い出したのか、私には全くわかりませんでした。この時お姉様は37になっていました。しかし全く子供が望めないような年齢ではありません。
「お姉様、お姉様のお子様がお姉様を継がれるのは当然のことです……。私に王位を継ぐ野心などありません。私は領地で学問をしながら静かに暮らせればよいと思っております」
お姉様の態度に戸惑いつつも、私は自分に王位への野心などないことをお姉様に伝えました。
「そう。よい心がけね。今の言葉を決して忘れずにいなさい。領地に帰ってせいぜい大人しくしているのね」
お姉様は私にこう言って私の許を離れていきました。今まで見たこともないような冷たい態度のお姉様に私は困惑していました。お姉様に一体何があったのでしょうか……?
私はお姉様が憎んでも憎み切れないくらいの恨みがあるアン・ブーリンの娘ですから、憎まれるのも疎まれるのも当然です。ですが、今までのお姉様は私に優しく慈悲深い方でした。……それなのに……なぜ今……?アン・ブーリンによって奪われた尊厳を真に取り戻した今になってなぜ私への憎しみを見せるようになったのでしょう……?