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縁談の為に異世界召喚されたけど、相手が美人過ぎる電波で絶対に無理  作者: 杜来 リノ


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26・勇者の森


寝るのに良さそうな場所を探そうと、森の中をあてもなく歩いた。時々、漏電した時みたいなパチッパチッという様な音が聞こえるけれど、それ以外は予想通り魔獣的な生物も一切出て来ない。


歩き続けている内に、開けた場所に出た。丈の短い芝生の様な草がびっしりと生えていて、座り込んで見ると虫も居ないし触ると良く乾いている。奥の方にある岩場からはチロチロと湧き水も滲みだしていて、ちょっと寒いけどここでなら眠れるかもしれない。

私は草の上にゴロリと横になって見た。うん、寝心地も悪くないかも。


…………。


「駄目!寝られない!お腹空いた!」


ガバッと起き上がり、お腹を撫でながら辺りを見渡す。夕飯食べる前に家出しちゃったからなぁ……。

でも調理器具も調味料も無い今の状況では、食べられるものは限られている。

辺りは大分薄暗くなって来ている。早く食べるものを見つけて来ないと、灯りすら私は持っていないのだ。


仕方なく立ち上がり、辺りを見回す。目に入る範囲内には、果実のなっていそうな木は見当たらない。

もうじき真っ暗になるのだ。ここから離れて探しに行って、万が一戻って来れないと困る。

少し考え、この開けた場所が見える範囲で繁みに踏み込み、辺りをグルグル回りながら食べ物を探した。


「……はぁ、そう簡単には見つからないか」


果実どころか、食べられそうな草すらも見つからない。あるのはひたすら、笹やシダ類に似た植物ばかり。その他も葉っぱが硬そうな草ばかりでとても食べる気にならなかった。


「仕方ない。水でも飲んで我慢しよう」


生水だろうが何だろうが構わない。子供の頃は山で遊びながら、喉が渇いた時には適当にそこら辺の川に顔を突っ込んで水をがぶ飲みをしていたのだ。勿論、お腹を壊した事など一回も無い。


湧き水滲みだす大岩に顔を近付ける。手で掬って飲むと上着の袖が濡れそうで、直接啜ろうと思ったのだ。


「……ん?何コレ」


大岩の根元、と言うか滴り落ちる水の流れる先に、光る何かが密集している。しゃがみ込み、よく見るとそれは小さなキノコだった。一つ一つが「ちょっと大きめなエノキ」位の大きさのキノコ達。

ボゥッと光るそれらは白くつるっとした質感で、見た目だけなら食べられそうに見える。

発光する事によって熱を発しているのか、指先でツンツンと突っつくと少し温かい。


「でもさすがに、キノコを生で食べた事は無いからなぁ……しかも光ってるしあったかいし……」


フライパンもバターも塩コショウも無いし、これは諦めた方が無難かな。取り敢えず水でも飲もう、と大岩に唇をくっ付ける。ちゅるちゅると水を啜ると、予想外に冷たくて美味しい。うんこれならイケる。

と言うかこれがご飯代わりなので、とにかくお腹が膨れるまで飲んだ。


「はぁ、まぁここまで飲めばお腹いっぱいにはなるよね。水だけど」


横着をしたせいで口の周りはびしょびしょになっている。私はハンカチを取り出そうと、上着のポケットに手を突っ込んだ。


「あれ?」

指先に、ワシャ、という感触が触れる。掴み出して見ると、それは薄紙に包まれたチョコレートだった。


「あ、これ……」


神殿から初めてデューの家に行った時に、紅茶と共に出してくれていたチョコレート。あの時、デューに後々薬を盛られる事を警戒して非常食用に取って置いたのだ。

その後はそんな危機は訪れなかったし、私も彼を信用し始めていたのでこの隠し持っておいたチョコレートの事などすっかりと忘れていた。


包み紙を取り、チョコレートを口に放り込む。溶け出す内に、チョコの甘さが身体中に浸み渡って行く。その甘さを感じて行く内に、気付くと私の両目から涙がポロポロと零れ落ちていた。


――彼の家に行った時、お皿の上に綺麗に盛り付けられていたクッキーとチョコレート。彼は普段ほとんどお菓子を食べないから、アレはきっと私の為に用意してくれた物。彼は、どんな顔でそれを買いに行ったのだろう。どんな顔でお皿に盛り付けてたんだろう。


きっと嬉しそうに買いに行って、ふわふわとした笑顔で一つ一つ丁寧にお皿に乗せていたんじゃないかと思う。私が、喜ぶと思って。私を、喜ばせたくて。


「……泣いちゃ駄目」

私はゴシゴシと涙を拭った。だって私には、泣く資格なんか、無いんだから。



「寒い…‥」


辺りはもう真っ暗になってしまった。岩場から少し離れ、出来るだけ芝生風の草が密集している場所を選んで寝っ転がる。四季の存在は知らないけど、日中の体感温度からして今は春先位なんじゃないだろうか。夜は野宿するには厳しい寒さな気がする。


「あ、そうだ」


あのほんのりと温かい、光るキノコを周りに敷き詰めたらどうだろう。光自体は淡くて弱いものだし周りに置いても明るすぎて寝られないなんて事は無いと思うし。そうすれば少しは寒さが凌げるかも。

思い立ったと同時に、私は四つん這いになり岩場の方へ向かった。足元すら見えない暗闇を立って歩くのが怖いからだけど、何だか間抜けだなぁ……と少し思った。


キノコの元に到着してみると、それだけで何となく温かい気がする。けれど、水場の近くで寝るのは嫌なのでやっぱりキノコをもぎ取る事にした。片手に収まる位の量を鷲掴み、えいっともぎ取った。


バチッ!


「きゃあっ!」


キノコをもぎ取った瞬間、電流の様なものが全身に流れた。思わずキノコを取り落とし、反射的に身体中を撫でる。びっくりしたけど、どこも痛くは無い。ちょっと手が痺れている位だ。


「動くな!」

「え!?何!?」


突然背後から怒鳴られ、私は飛び上がった。振り向いた私の両目を、明るいランプの灯りが射抜く。眩しくて良く見えないけれど、何人かの人が居る様だった。いつの間に?って言うかどこから出て来たの?


「貴様は誰だ。ここがファーブラ家の森と知って入って来たのか?おまけに月光茸げっこうだけを密猟するとは許し難い。ドルー、剣を持って来い。ここで殺しておこう」

「え!?ちょ、ちょっと待って……!」


キノコ一株もぎ取った位で何!?有無を言わさず死刑にして来るの!?


「待って下さい兄さん。彼女、結界魔法を何度か掠ってた割にはダメージは喰らっていません。月光茸の罠魔法には反応しましたが生きている。これは、義姉ねえさんと同じなのでは……?」


「アイと同じだと?」


アイ?この人今、「アイ」って言った?あ、じゃあもしかして……!


「あの!すいません勝手に入っちゃって!私、アララギ カノンと言います、日本人です。愛さんとは一度お会いした事がありまして……!」


「ほら、やっぱり。この女性は異界の乙女ですよ。初めましてカノンさん。僕達はこの森の所有者、ファーブラ家の者です。こっちが兄のアクロで私は弟のドルーです」


「は、初めまして……」


人懐こそうな笑顔を浮かべるドルーさんとは異なり、アクロさんは今だ厳しい目つきで私を睨んでいる。

ドルーさんが愛さんを「ねえさん」と呼ぶと言う事は、このアクロさんの方が愛さんの旦那さんなのか。


(愛さんがふんわりして可愛らしいのに、旦那がめっちゃ怖い……)


「しかし何故、こんな夜更けに一人で森に居る?確かアイの話では、新しく来た乙女はあの”黒蛇姫くろへびひめ”の妻ではなかったか?」


「あーはい、そうなんですけど、その……」


どうしよう。何て言おう。大体、当人同士の話し合いが上手くいってないからこんな事になってるのに、赤の他人にそれをどう説明しろと。


「兄さん、ここで話してても仕方ありませんから一先ず我が家にお越し頂きましょう。まだ義姉さんも起きてらっしゃるでしょうし、義姉さんにお任せしては……?」


アクロさんは「今夜は珍しく子供達が早く寝たのに……」とブツブツ言っていたけど、最終的には私を連れて行く事を了承してくれた。


私が森に入った時に聞いていたパチパチ音は、結界魔法に引っ掛かっていたかららしい。

この世界においては、魔力が無いのは異世界人と動物のみ。だからファーブラ兄弟は最初鹿か何かだと思っていたと言う。魔力がある者があの結界魔法に引っ掛かると、黒焦げになってしまうのだそうだ。


ただ、潜り抜ける方法は無い事も無いらしく、キノコにはもっと直接的な「罠魔法」がかけられていた。

これは触れると「とんでもない事になる」らしい。二人ははっきりとは教えてくれなかったけど、私も敢えて聞かなかった。


因みに私がもぎ取ってしまったキノコ「月光茸」は、この森にしか自生していない希少なキノコだった。一株ずつ水晶に閉じ込めランプとして使うらしいのだけど、闇を好む性質らしく辺りが暗ければ暗いほど明るく発光していく。おまけに温かいので、難所に向かう事の多い高ランクのハンター達に大人気らしい。


「貴女がもぎ取った分はランプに加工して後でお渡ししますよ」


ニコニコと言うドルーさんに、私は小さくなってお詫びを言った。



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