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02・美人過ぎる旦那様候補


そして私は大きな扉の前に立った。

今まで居た控室よりも、扉そのものに彫刻が施されていて何て言うか豪華なお部屋。


扉の横に立っている男の人が「どうぞお入りください」と促して来る。

私は緊張しながらも恐る恐る扉をノックし、「失礼しまーす……」と扉を開けた。


部屋に入って直ぐ、目に入ったのは衝立。恐らく、この向こうに私の結婚相手がいる。

かなり躊躇するけど勇気を出し、衝立の向こうのお相手に対面すべく歩を進めた。


先ず目に入ったのは、さっきの部屋にもあった長椅子。

そしてその長椅子に、こちらに背を向けて座っている黒い服を着た男性。


「あ、あのー……」

「はい」


私の声に反応し、ゆっくりと立ち上がりこちらを向いた男性の姿を見て、私は呆然としてしまった。


――細身の長身。

サラサラとした黒髪に、切れ長の、血の滴る様な真っ赤な瞳。

しかしながら長い睫毛に覆われており、そこまで異質さを感じさせない。

高い鼻に、濡れた様に艶めく紅色の薄い唇。


身に纏っている黒い軍服の様な上衣に同色の下衣。

膝上の長靴は何故か踵の所が高く設えてあり、まるでヒールブーツの様に見えて抜群に色っぽい。


この見た目は、まるで。


(まんま、アレじゃん!BLコミックとかに出て来る女王様系受けじゃん!)


「すいません、仕事が長引いてお待たせしてしまいました。やっとお会いできて良かったです。異世界の乙女」

「は、はぁ……お気になさらず……」


いや乙女って!アナタの方がよっぽど乙女に見えるけどね!?

……え、もしかしてコレが私の旦那さん候補なの!?


「あぁ、申し遅れました。俺はデューティ・ルルスと言います。異世界の乙女、貴女のお名前は?」

「え!?あ、えっと、その、あららぎ 香音かのんです……」

「確か、我々と異なり名字が先に来るんでしたよね。では、カノンさんですか。フフ、可愛らしいですね」


……こんな絶世の美女、と言うか美人に「可愛い」って言われても1ミリも嬉しくない。

駄目だ私。こんな美人と一緒に歩くのとか無理。って言うか絶対に歩きたくない。

私、この召喚婚活で初の「お断り異世界女」になると思う。


「カノンさん。いいえ、カノン。もっとこっちに来てくれませんか?俺に、その愛らしい頬にキスさせて下さい」

「えぇ!?ご、ごめんなさい!」

「……それは、嫌と言う事ですか?」


悲し気に目を伏せる美人。バサッと睫毛が被さり、もう色気駄々洩れ状態です。

でもこんな美人にキスなんてさせたら穢しそうで怖い。

それに、私この人と結婚する気なんてもう全然無いし。


「い、いえ、あの、先ずご職業をお伺いしてもよろしいですか?」


何か見た目は軍人みたいだけど。

あれかなぁ、くれに軍港があったからかなぁ。確かに海軍の軍服に似てる気がするし。


「……すみません焦ってしまって。まさかこんなに愛らしい花嫁とは思ってもみなかったので、つい」

「あはは……」


――最早乾いた笑いしか出ない。

大丈夫かなこの人。目が腐ってるんじゃないかな。可哀想、せっかく美人なのに。

ごめんねルルスさん。職業聞いたのも、別にアナタに興味あるからじゃないんだ。

ただ、私の出身地にどう関係あるのか知りたいだけだから。


「俺は、諜報部所属の拷問官です」


ごっ……!

「拷問官!?」


「はい。フフ、驚かれましたか?確かに俺達は高給ですから、黙ってても女の子が寄って来ると思われがちです。でも実際は忙し過ぎて出会いが無いんですよ」


(そんな「えぇっ!?お給料の良い拷問官サマがくじ引き婚活をなさる必要があるの!?」なんて事思っとらんわ!”拷問官”なんて言おうものなら、弥生さんに何言われるか……!)


絶対に言われる。

『ほら、やっぱり仁義なきアレだったじゃなーい』とか。


「カノン?どうかした?」

「ひゃっ!?あ、いえ……」


な、何かこの人また言葉使いが変わった。


それに内面的にも物理的にも距離をグイグイ縮めて来るから怖い。

彼が細くて綺麗な指を伸ばし、顎を掴まれ持ち上げられた時点で私は限界を迎えた。

もうヤだ。この人が美人過ぎて辛い。結婚なんかしたら絶対に苦労すると思う。


きっとアレだわ、体格良い系の同僚とかが「女なんか選びやがって……!俺の気も知らずに……!」とか何とか言って仕事中に襲いかかって来たりしてドロ沼三角関係になって「ごめん……キミには本当に申し訳ないと思ってる。けどやっぱり俺は同僚の事が……!」ってソイツに腰を抱かれたまま別れを告げて来たりとかするんだわ……!


――大学時代の腐った友人に半ば強引に見せられたBL同人。

ソレ事態にハマる事は終ぞ無かったものの、その強烈な場面の数々は未だに脳裏に焼き付いている。


「あ、あの!」

「ん?なぁに?」

「私、結婚はちょっと……」


お断りの台詞を言いかけた所で、ふと疑問が過り言葉を止める。

えぇと、召喚縁談これは国が執り行っている、言わば事業なのよね?

だとしたら、お断りは仲介業者くにを通さないといけないのかな?


「す、すいませんちょっと失礼します!」


私は顎を掴まれていた手を振りほどき、部屋を飛び出してさっきまで居た隣の部屋に飛び込んだ。

弥生さんはそこにまだ居て、新たに登場した若い女の人3人と楽しそうにお喋りをしていた。


「弥生さん!」

「あら?香音さん、もうお話合い終わったの?どうだった?式の日取りとか段取りはどうなったの?」

「それなんですけど……!私、この結婚お断りします!ですので、国の保護を申請したいです!」


……弥生さん含め、その場に居た全員の動きが止まる。

恐らく現地人であろう3人の女性は、まるで信じられないものを見る目で私を見ていた。


「お、落ち着いて香音さん。お相手の方はどんな方だったの?」

「えぇと、お名前はデューティ・ルルスさん。……ご、拷問官をなさってるって仰ってました」


――室内に、重苦しい程の沈黙が満ちて行く。

そして一拍の後、室内に女性陣の黄色い悲鳴が響き渡った。


「嘘!嘘嘘ー!あの”黒蛇姫くろへびひめ”が召喚縁談の申請出してたのー!?」

「きゃーっ!黒蛇姫が拷問した相手って、皆幸せそうな顔でベラベラ情報喋っちゃうのよねー?史上最年少での筆頭拷問官も目前だって!」

「あーん!私もゴーモンされたーい!」


く、黒蛇姫!?

すっごい似合ってるけど、またそんなBL作品臭漂う通り名……。


「……ねぇカノンさん。貴女、ルルスさんの何が嫌だったの?」


きゃあきゃあ騒ぐ女子たちを尻目に、弥生さんが真剣な顔で問い掛けて来た。

弥生さんは手に羽根ペンと紙を持っている。

私の話す事を、メモに取るつもりの様だった。

召喚縁談をお断りする、初めてのケース。弥生さんの顔は若干強張っていた。

ごめんなさい弥生さん。恐らくこれ、メモ取る程の理由じゃないです。


「顔が無理です」

「顔?」

「はい。もう既に姫とか言われちゃってる時点でアレですけど、ものすっごい美人じゃないですか、あの人。あんな美人と一緒に歩くのも暮らすのも何するのもムリです。精神的に色々追い詰められそうです」

「うーん……その気持ちも分からなくないけど、あの方本当はとっても強いし頼もしいのよ?見た目で決めるのは尚早じゃないかしら……?」

「嫌です」


弥生さんは暫く私を見つめていたけど、やがてハァ、と小さく溜息を吐いた。

そして背後を振り向き女性陣に何か合図をすると、再び私の方に向き直った。


「……良いわ。分かった。じゃあルルスさんには神殿こちらからお伝えしておきます。では香音さん。後で書類を持って来るからここで待ってて。保護申請書を書いて貰ったら、住居と仕事の希望も伺いますから」

「はい……お願いします」


――弥生さんと、私を非難と驚愕の入り混じった様な眼差しで見つめていた女子達が退出していった後、私は漸く一息つく事が出来た。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読んで、もうデューティ・ルルスのヴィジュアルがバンコランで固定されてしまった!!大丈夫だろうか……
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