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縁談の為に異世界召喚されたけど、相手が美人過ぎる電波で絶対に無理  作者: 杜来 リノ


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10・旦那様(仮)の職場見学


えぇと、洋服はこれで良いかな。

吐いた時の事を考えてゆったりしたワンピースにしたけれど、胸元のリボンがちょっと気になるなぁ。

拷問されてる人、嫌な気分になったりしないかしら。


「カノン、じゃあ行こうか。……そのワンピース凄く可愛いね。めくっちゃだめ?」

「ありがとうございます。ワンピースは捲らないで下さい」


そう?と美しく、そして残念そうに小首を傾げる旦那様(仮)から微妙に距離を取りながら、私達は並んで玄関を出た。



あぁ、やだ。

すっごい不安。って言うか不安しかない。

私の感覚だと旦那様の職場に行くのであれば、他の社員の皆様に手土産を……とか思っちゃうのだけど、こっちではそういった慣習は無いらしく私は今手ぶらで歩いている。

いや、本当に不安なのは手土産云々ではなく彼の業務内容なんですけどね?


隣をチラ、と見上げるとこっちを見ていたデューティさんと目が合った。

ニコリと微笑みかけられ、釣られて私も笑みを浮かべる。


「嬉しいな、カノンと一緒に仕事に行けて。今日はすっごく頑張れそうだよ」

「そ、そうですか……」


――何か、今日の人にはちょっと悪い事しちゃったかも。

彼、何だか無駄にやる気になってる。

昨日に引き続き作って持たせたお弁当の袋を、嬉しそうに振りながら歩いてるし。


「私、周りに何て挨拶すれば良いですか?」

「普通に俺の奥さんだって言って?この前も言ったでしょ、周囲が混乱するし危ないから」

「わかりました」


私としては、あまり大々的に言っちゃうと1ヶ月後に正式に結婚しなかった場合の彼の立場を慮ったんだけど、デューティさん本人はそこはどうでも良いらしい。


「それとね、カノン」

「はい?」

「俺達は一応夫婦なんだよ?いつまで敬語で話すつもり?いい加減普通に喋ってくれないかな」

「あ……」


まぁ、そうだよね。実はそれは薄々分かってた。

だけど敬語を使う事によって、私の中ではある意味壁が築かれているのに。

気安く喋る事により、心の中のその堤防が決壊するかもしれないのが少し怖い。


だけど職場に行くのにそんな事言ってられないか。


「わ……わかった。気をつける、ね?」

「うん。フフ、嬉しいな。カノンは本当に可愛いね」

「ど、どうも……」


何となく気恥ずかしい気持ちになったまま、私は旦那様(仮)と並んで職場へと向かった。



「ここだよ」


歩く事40分。

徒歩だと言う事を考えると近い様な遠い様な微妙な距離だけど、歩く道すがら成美さんのお店とはまた違う感じの可愛い雑貨屋さんやケーキ屋さん、パン屋さんなどがあり全然退屈しなかった。


そして到着した職場。


大きな黒鉄門に蔓薔薇つるばらが絡みついていて、その奥にはお洒落な洋館が立っている。

何て言うか、鬱蒼としたお化け屋敷風の洋館ではなく、レストランウェディングに使われそうな明るい感じの建物。


「え……ここ?」

「そうだよ?」


えっと……これから誰かを拷問するんだよね?

こんなお洒落な建物内で?

てっきり刑務所的な所に行くのかと思ってたのに。制服も軍服風で看守風だし。


「あの、こんな所で、どうやって……」


「ルルス主任!」


門を開けて中に入った途端、突如として後ろから声がかかった。

高めで可愛らしい感じの女の人の声。

デューティさんを主任と呼ぶと言う事はデューティさんの部下と言う事で、それすなわち拷問官。


妙に嬉しそうなその声の主は、私達の前に回り込んで来た。


「おはようございます主任!そして初めまして奥様!ラズナ・ミアリーと申します!主任にはいつもお世話になっております!」

「おはよう、ミアリー」

「主任ってば、嬉しそうですねー!分かりますよ、散々惚気話を聞かされただけの事ありますね!とっても素敵な奥様です!」

「でしょ?」


……繰り返すけど、この二人は拷問官なんだよね?

デューティさんの格好も相当だけど、このミアリーさんの格好と来たらもう言葉を失う。


――軍服風の看守服っぽい制服の上衣は、作りこそ同じだけど丈が異常に短い。

胸元の下位までしかなくて、中身はシャツにネクタイだけど、かなり前を開けていてそこから零れ落ちそうに大きな胸が二つ、谷間をくっきりと見せつけてながら半分顔を覗かせている。


プリーツ風のスカートは恐ろしく短く、太腿にはガーターベルト。

そしてやはりピンヒールブーツ。

金色の巻き髪は腰の辺りまで伸びていて、透き通った海のような青い目。

格好はアレだけど、まるでお人形の様に美しい。


「……奥様?」

「え!?あ、お、おはようございます……カノン・ルルスです……こちらこそ、しゅ、主人がいつもお世話になっております……」


”主人が”とかって挨拶、正直彼氏いない歴22年の私が言って良いセリフでは無いよね。


それにしても、この二人が並ぶと煌びやか過ぎて目が眩む。

デューティさん、こんな美人が側に居るのに何でくじ引き申請出したりしたんだろう。

何らかの理由で異世界人の恩恵が必要な状況にあるとか?


――胸が、ズキズキと痛む。

分かってる。これは嫉妬だ。それもかなり理不尽な。

美しい容姿を持つ二人に対する妬み。

そしてそんな美しい二人の一方からは「可愛い」と言われもう一方からは「素敵」と言われ、私はその言葉に酷く傷付けられている。


きっと、飛び抜けた美しさを持つが故の傲慢な余裕。

自らより明らかに劣る者に対する、賞賛の体を取った言葉のほどこし。


……何て嫌な考え。

でも、そうとでも思わなければこの状況に耐えられそうもない。


「カノン?どうしたの?」


心配そうなデューティさんの声に、私はハッと我に返った。

いけない、こんな事思ってる場合じゃなかった。


「ご、ごめんなさい、ちょっと緊張してボーッとしちゃいました」

「フフ、そんなに構えなくても良いよ?でもあんまり無防備な顔しないでね、心配になっちゃうから」


デューティさんは甘く微笑みながら、ミアリーさんから見えない位置で自分の唇をトントンと人差し指で叩いている。

あ、敬語が出ちゃってましたね、すいませんでした。


「ほ、ほら、早く行かないと二人共遅刻しちゃうんじゃない?」

「わ!そうですね、急ぎましょう主任!」


――私達は並んで歩きながら、目の前の美しい洋館の中へと入って行った。



……この状況は何。

私は一体、何を見てるの?いや、何を見させられてるの?


洋館に入った瞬間、あちこちから聞こえて来る鞭の音に私はたじろいだ。

来た。出だしからいきなり。

だけど、真の恐怖は大広間に入ってからだった。


観音開きの大きな扉を開けて中に一歩足を踏み入れた私の目に入って来たものは。


「お願いします!お願い!お願いです!何でも喋りますから、もっと……!」


「ありがとうございます!お仕置きありがとうございます!」


「そこです……!そこを力の限り蹴り倒して頂ければ、もう一つの文書のありかを思い出すやもしれません!さぁ早く!さぁ!さぁさぁ!」


デューティさんやミアリーさんの様な容姿が抜群に優れ、軍服の様な服を着た男女が色んな場所で鞭を振るっていたりピンヒールブーツで人を踏みつけたりしている。


「あ、あの、これ……」

「奥様奥様!ほら、あっちのスペースでこれから始めますから!今日は収賄容疑の大臣の拷問を行いますが、私は本日は奥様への解説を仰せつかりましたのでよろしくお願いします!えっと、主任とペアを組んでるのは主任の同期で私の直属の先輩になりますネイランド・ギルスです!」


ミアリーさんにぐいぐいと引っ張られセンタースペースに連れて行かれた私の前で、デューティさんは制帽の様なものを被っていた。

鞭をひゅん、と振り回す、凄味すら感じさせるその凄絶な色気に私は暫し目を奪われてしまった。


その真向かいに立つ、体格の良い緑髪の男の人がギルスさんか。

……上着の下に着ている黒い網シャツに思わず目が釘付けになってしまう。

体格も良く背も高く、細身のデューティさんとは対照的な格好良さに溢れている。


以前妄想した、BLコミックに出て来そうな「攻めキャラ」そのものの容姿。


――すごい。

私にBLコミックを押し付けてきた彼女に見せてあげたい。

女王様系美人と騎士系イケメンの夢のコラボレーション。

あの子、こんなの見たら幸せ過ぎて死んじゃうんじゃないかな。


「見てて下さい奥様!これから主任の言葉責めが始まります!」

「こ、言葉責め……」


女王と騎士の二人に見下ろされ、真っ赤な顔で震えている太った中年のおじさん。

収賄容疑の大臣さん、かぁ。

ブルブル震えている姿が、とても可哀想で――


「期待してる!?あの人すっごい楽しみにしてる!」


潤んだ瞳で二人を見上げる、縄で縛られたおじさん。


はふはふと荒い息を吐いているその姿は、何処からどう見てもご主人様からのご褒美を待つ犬にしか見えなかった。



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