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ファンタジー短編集

よろしい、ならば追放で!?~勇者様、最近の流行らしいですよ?~

作者: 陸昼すず

いつものメンバーで行う今日は反省会の日


仲良く丸いテーブルを囲う様に座った俺達が食事をしながら、昨日あった大きな戦闘の話をしている時だった


「よろしい、ならば追放だな!」

「しないから!追放なんてしないからな!!」


バンッ!と大きな音をたてて叩かれた机、その上に乗っていた皿やコップが跳ねる

机を叩いた張本人はもう片方の拳を握りしめて、嬉しそうに立ち上がって言い放つ


「なぜだ勇者様よ? 敵に単独で突っ込んで行って大怪我する奴は「回復薬の無駄遣いしやがって、命令も聞けない馬鹿はいらん!」と追放するのがお約束だろう??」


燃えるような赤色のオールバックに嬉々として輝くオレンジ色の目、羨ましい程の無駄の無い肉体美を誇るパーティーメンバーの1人、戦士のレオン・ライハート


その彼がとても不思議そうに俺をを見て聞いてきた


「言わないよ! そのお約束をどこから聞いてきたか知らないけど、レオン程頼りになる戦士を今回くらいのミスでいきなり追放とか言わないよ!!」

「うむぅ。そうか、追放しないのか……」

「そうですわよ。レオンが先頭に夢中になって敵陣に突っ込んで行くなんて、いつもの事ではないですの」


立ち上がったままのレオンをなだめて元のように座ってもらえば、目の前から呆れたような物言いが聞こえてきた


「むしろ敵陣に向かってレオンごと大魔術で燃やしてしまいそうになったワタシこそ「味方を巻き込むような非道な奴は、勇者パーティーに相応しくない!」と追放してくださるのが正しいのではなくて??」


煌めく銀色の髪の先をくるりと指先でもてあそび紫色の目を細めて艶やかに微笑んだ、絶世の美貌を持つパーティーメンバーの女性、魔術師イルテア・アリアロッド


「さぁ、勇者様!ぜひ「分かったな?ならば追放する!」とおっしゃってーー」

「言わないから! 魔法以外でも薬草の種類とか魔物の知識とか、他にも色々と滅茶苦茶お世話になってるイルテアには絶対に言わないからな!!」

「まぁ、それはとても残念ですわ……」

「そうですよ。それにイルテアはちゃんと狙って、レオンだけには魔法が当たらないように調整してたではないですか」


何だか嬉しそうに自分の失敗を語り始めたイルテアに、言葉を被せ気味で黙らせて無理矢理ではあるが納得してもらう

そこに追撃とばかりに救いの手を差し伸べてくれたのは、彼女の隣に座っていた男


「それにレオンを止められず、イルテアが魔術を使わざる得なかった原因のオレこそ「ヘイト管理すらまともに出来ない盾役は、ただの置物と一緒で邪魔なんだよ!」と追放されるのが筋ってものではありせんか?」


サラサラの金髪に透き通るほどの青い目はまるで王子様の様で、けれども鎧に付いた傷は歴戦の猛者を沸騰とさせるパーティーメンバー、聖騎士アルフ・ヴィーセン


「勇者様、ぜひオレに「使えない奴は、追放してやる!」と言ってーー」

「言いません! 商談とか戦闘サポートとか細々とした事を任せられて、まだ弱かった俺をここまで鍛えてくれた恩人のアルフに追放なんて言いません!!」

「はぁ、そこまで言われてしまっては……」

「勇者様の言う通りです。レオンさんもイルテアさんもアルフさんも、このパーティーにとって大事な方達ばかりなんですから」


こっちもちょっと楽しそうに自らのせいだと言い出したアルフに、今までの感謝も含めて説き伏せれば、困った笑顔で受け止められた

そこへすかさず援護射撃を送ってくれたのは、俺の隣に先程まで静かに座っていた少女


「今回だってアルフさんに守られてばかりで皆さんのように力の無い私こそ「弱っちい守られてばかりの、回復しか出来ない無能はいらない!」って追放されるべきなんですよ!!」


薄い茶色の髪を振り乱し大きな猫目の金色の瞳を潤ませて、可愛らしい顔を歪めた、まだあどけない表情のパーティーメンバーの少女、聖女アリアス・ベルベッサ


先程までの大人しさはどこへやら、彼女は俺を涙目で睨み付けながら震える声で宣言し立ち上がった


「覚悟はしておりますから「早く目の前から消えろ、追放だ!」と告げてーー」

「言うはずないって! アリアスの回復魔術には助けられてばかりだし、魔物避けとか呪具の解除とか俺達の為にって一生懸命頑張ってるのに言うはずないって!!」

「あぁ、なんと慈悲深い勇者様でしょう……」


力無く椅子へと座り直したアリアスは、うつ向いてしまい肩を小刻みに震わせていた


でも俺には見えている

彼女は泣いて肩を震わせているのではなく、笑いを噛み殺すために肩を震わせている事を


「全員どうしたんだよ? 今日は確かに反省会だけど、追放とか急に物騒な事を言い初めてさ??」


やっと落ち着いたパーティーメンバーのさっきから不審な様子に、首を傾げて質問する


「なに。流行っておると聞いたから、試してみたくなったのだ」

「……はい? え? 何が??」

「パーティーからの追放がですよ。何でも勇者パーティー内で特に使えないと思われてる人を追放して、追放された人は突然今まで無かった力が開花して強くなると」

「まぁ、あくまでも噂程度ですわ。でも、それで本当に楽に強くなれるなら、一度くらい試してみたいじゃないの」

「全く別の能力を手に入れたって話も聞きました。私もどうせなら回復だけじゃなくて、イルテアさんみたいに派手な攻撃魔術打ってみたいですもん」


あまりにも予想外過ぎるメンバーの回答に、俺は頭を抱えて唸るように呟いた


「いや、だからって、追放とかさ……」

「今なら魔王討伐の為に何百と勇者パーティーがいますからね。追放されてもすぐにどこか別のパーティーに拾ってもらえるでしょう」


励ますようなアルフの返答に、違う、そうゆう事じゃなくてと考えがぐるぐると回りまとまらない


「あっ! 良い事を思いつきました!!」

「あら? どうしたのアリアス??」

「追放された人が強くなれるなら、パーティーで一番強くなって貰いたい人を追放すれば良いのではないですか?」

「ほほう、一理あるな。他の勇者パーティーに負けぬようにするなら、それが手っ取り早い方法か」

「確かに、周りを出し抜く手としてはありかと」


考えがまとまらず自己嫌悪にまで入りかけていた俺に、他のメンバー達の不穏な会話が耳に入る


え? ちょっと待って??

君達、本気でそう思ってるの??


バッ!と身の危険を感じ取り顔を上げれば、こちらを見つめる8つの目と視線が合った


「「「「よろしい、なら勇者様を追放で!」」」」

「おかしいだろっ!!何でそうなるんだよっ!!」


反省会なんてそっちのけでメンバー達からの追放騒動を説き伏せて、その日は何とか事なきを得た


波乱の反省会から後日

気になったので例の追放の噂を確かめれば、実は元々強かったメンバーを周りのアホな勇者パーティー達が追放したのがきっかけ

自由になったそのメンバーは強さに合った勇者パーティーに拾われて、実力を発揮出来るようになったという話


何百も勇者パーティーがあれば、そんな馬鹿が集まったパーティーも存在するわけで、何というか自業自得としか言いようが無かった


「だからさ? もう追放は早く諦めよう??」

「分かってます。もう追放の話はしませんから」

「大丈夫です、勇者様。今の流行りは敵側への寝返りですから!」

「魔族の使う魔術って前から興味あったのよねぇ」

「弱肉強食というシンプルな世界も、実に魅力的だと思わないか?」


ダンッ!と机に叩きつけた拳が鈍い音をたてる


「全員! いい加減にしてくれよっ!!」


思わず叫んでしまった俺は、きっと悪くないはずだ

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