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クロス・フェイト  作者: うみち
第二章 英雄譚Ⅰ ––ケイト・バベッジ––
9/21

「クソッ! 全然効いてねえのかよ!」


 ケイトは銃を下ろしながら呆れながらそう言うと、洞窟の入り口に向かってゆっくりと後ずさる。


「■■■■■■■■■■■―――!」


 咆哮が轟いた瞬間、物凄いスピードで青白い炎弾が三発、ケイトに迫って来る。


「おいまじかよ!」


 ケイトは銃のボタンを押し、靴のソールから蒸気が勢いよく吹き出され、後方に倒れこむようにして炎弾を躱す。躱した炎弾が地面に着弾した瞬間、地面が一瞬で凍りつき、鋭い氷の氷柱が勢い良く出現した。


「冗談じゃねえぞ、まだ死ぬわけにはいかねえんだよ!」


 再び炎弾が迫っているのに気付き、ケイトが立ち上がろうとした瞬間、炎が発する冷気によって凍り付いた水溜りに足を滑らせてしまう。


「うおわあああ!」


 ケイトが死を覚悟した瞬間、全速力で走って来たサムが服の襟を咥え、ケイトを思いっきり洞窟の入り口に引きずり、炎弾から助け出した。


「助かった、サム! 一時撤退だ、走れ!」


 サムとケイトは全速力で入り口まで走りだす。ケイトを逃すまいと炎弾が飛び交うが、間一髪で躱し切り、洞窟から脱出しようとした瞬間だった。


「ケイ……ト……」


 聞き覚えのある声が聞こえ、ケイトは思わず振り向く。そこには、今までいなかったはずの祖父、チャールズ・バベッジがいた。上下黒のスーツはシワだらけになっており、右半身だけ凍りついていた。黒だった髪は全て真っ白になっており、瞳の色は金色に変色していた。


「じいちゃん! 探してたんだぞ! 話は後で聞くから、今は逃げよう!」


 ケイトはチャールズの腕を掴んで洞窟から出ようとするが、チャールズはその手を振り払う。

「じいちゃん?」


「なぜ逃げる必要があるんだ、ケイト?」


「何でって、あんな化け物がいるんだぞ⁉︎ 逃げるに決まってるだろ!」


 ケイトは青白い炎を指差しながら答えた。


「化け物? お前はあれを化け物だというのか?」


 チャールズはケイトの言葉を聞き、不思議そうに尋ねた。


「当たり前だろ! いいから早く逃げよう!」


「まだ駄目だ。あと少しで、あれとの同期が終了する。そうすれば、クトゥグア復活の準備ができるんだ」


「はあ? 何言ってんだよじいちゃん! 意味分かんねえよ!」


「理解する必要はない」


 チャールズは落ち着いた口調で言うと、不気味な笑みを零す。


「さっきからいってるクトゥグアって一体何なんだよ? あいつがそのクトゥグアなんじゃねえのか?」


「あれはクトゥグアが死の間際に産みおとした者だ。死したクトゥグアの復活を悲願としている。神だ」


「神? じいちゃん、あんた昔から無神論者だったろ! 神なんてこの世に存在しないって散々言ってたじゃねえか!」


 チャールズは静かに首を横に振る。


「それは愚かだった頃の私だ、今の私は違う。お前には私の成しえる偉業を見届けてもらいたいんだ。大人しく家に帰りなさい」


「何馬鹿なこと言ってんだ! あいつに操られてんのか⁉︎」


「いいや、これは私の意思だ」


「いい加減にしろよ! あいつのせいでおかしくなってるんだろ? 俺が目を覚まさせてやる!」


 ケイトはレッグポーチから小型の蒸気爆弾を取り出し、ボタンを押して炎に向かって投げる。


「ケイト! 止めろ!」


 チャールズは叫びながら炎に駆け寄って行く。


「じいちゃん! 行くな!」


 ケイトが叫んだ瞬間、爆弾が爆発し、ケイトは爆風で洞窟の外まで吹き飛ばされ、その直後に洞窟が崩れてしまう。


「うっ……じいちゃん!」


 ケイトは起き上がり洞窟に向かって涙を流しながら叫ぶ。


「くそっ……何でだよ……じいちゃん……」


 経理そうな声で呟くケイトの側に、サムは寄り添い顔を舐める。


「サム……怪我はないか? ––––なんだ? 急に寒くなってきた」


 ケイトは体を震わせて辺りを見回す。突然吐く息が白くなり、洞窟内で見た霧が発生した。


 数秒後、大きく地面が揺れ始め、崩れた洞窟から青白い炎を纏ったチャールズが飛び出して空中に浮かび上がった。


「じいちゃん⁉︎」


「サム、お前に理解してもらえないのは本当に残念だよ。お前は昔から私の言うことは素直に聞いてくれていたんだがな」


 チャールズは少しだけ悲しそうな顔をしてそう言うと、街の方を見る。


「まあ、今はそれもどうでもいいことだ。私はこれからしなければいけないことが沢山ある。お前はただ見ていればいい」


「待てよ! 何をする気だ!」


「クトゥグア復活の為の贄を捧げる。ではな、ケイト。私が成す最後の偉業を見ているが良い」


 チャールズはそう言い残して、街の方に高速で飛んで行った。


「じいちゃん!」


 ケイトは追おうとするが、すでにチャールズは見えなくなっていた。


 呆然としているケイトに、サムは喝を入れるかのように吠える。


「ああ、今のじいちゃんは何するかわからねえ。街が、カナメさんが危ない。行くぞ、サム!」


 ケイトとサムは車に乗り込み、街に向かって全速力で向かった。

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