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「クソッ! 全然効いてねえのかよ!」
ケイトは銃を下ろしながら呆れながらそう言うと、洞窟の入り口に向かってゆっくりと後ずさる。
「■■■■■■■■■■■―――!」
咆哮が轟いた瞬間、物凄いスピードで青白い炎弾が三発、ケイトに迫って来る。
「おいまじかよ!」
ケイトは銃のボタンを押し、靴のソールから蒸気が勢いよく吹き出され、後方に倒れこむようにして炎弾を躱す。躱した炎弾が地面に着弾した瞬間、地面が一瞬で凍りつき、鋭い氷の氷柱が勢い良く出現した。
「冗談じゃねえぞ、まだ死ぬわけにはいかねえんだよ!」
再び炎弾が迫っているのに気付き、ケイトが立ち上がろうとした瞬間、炎が発する冷気によって凍り付いた水溜りに足を滑らせてしまう。
「うおわあああ!」
ケイトが死を覚悟した瞬間、全速力で走って来たサムが服の襟を咥え、ケイトを思いっきり洞窟の入り口に引きずり、炎弾から助け出した。
「助かった、サム! 一時撤退だ、走れ!」
サムとケイトは全速力で入り口まで走りだす。ケイトを逃すまいと炎弾が飛び交うが、間一髪で躱し切り、洞窟から脱出しようとした瞬間だった。
「ケイ……ト……」
聞き覚えのある声が聞こえ、ケイトは思わず振り向く。そこには、今までいなかったはずの祖父、チャールズ・バベッジがいた。上下黒のスーツはシワだらけになっており、右半身だけ凍りついていた。黒だった髪は全て真っ白になっており、瞳の色は金色に変色していた。
「じいちゃん! 探してたんだぞ! 話は後で聞くから、今は逃げよう!」
ケイトはチャールズの腕を掴んで洞窟から出ようとするが、チャールズはその手を振り払う。
「じいちゃん?」
「なぜ逃げる必要があるんだ、ケイト?」
「何でって、あんな化け物がいるんだぞ⁉︎ 逃げるに決まってるだろ!」
ケイトは青白い炎を指差しながら答えた。
「化け物? お前はあれを化け物だというのか?」
チャールズはケイトの言葉を聞き、不思議そうに尋ねた。
「当たり前だろ! いいから早く逃げよう!」
「まだ駄目だ。あと少しで、あれとの同期が終了する。そうすれば、クトゥグア復活の準備ができるんだ」
「はあ? 何言ってんだよじいちゃん! 意味分かんねえよ!」
「理解する必要はない」
チャールズは落ち着いた口調で言うと、不気味な笑みを零す。
「さっきからいってるクトゥグアって一体何なんだよ? あいつがそのクトゥグアなんじゃねえのか?」
「あれはクトゥグアが死の間際に産みおとした者だ。死したクトゥグアの復活を悲願としている。神だ」
「神? じいちゃん、あんた昔から無神論者だったろ! 神なんてこの世に存在しないって散々言ってたじゃねえか!」
チャールズは静かに首を横に振る。
「それは愚かだった頃の私だ、今の私は違う。お前には私の成しえる偉業を見届けてもらいたいんだ。大人しく家に帰りなさい」
「何馬鹿なこと言ってんだ! あいつに操られてんのか⁉︎」
「いいや、これは私の意思だ」
「いい加減にしろよ! あいつのせいでおかしくなってるんだろ? 俺が目を覚まさせてやる!」
ケイトはレッグポーチから小型の蒸気爆弾を取り出し、ボタンを押して炎に向かって投げる。
「ケイト! 止めろ!」
チャールズは叫びながら炎に駆け寄って行く。
「じいちゃん! 行くな!」
ケイトが叫んだ瞬間、爆弾が爆発し、ケイトは爆風で洞窟の外まで吹き飛ばされ、その直後に洞窟が崩れてしまう。
「うっ……じいちゃん!」
ケイトは起き上がり洞窟に向かって涙を流しながら叫ぶ。
「くそっ……何でだよ……じいちゃん……」
経理そうな声で呟くケイトの側に、サムは寄り添い顔を舐める。
「サム……怪我はないか? ––––なんだ? 急に寒くなってきた」
ケイトは体を震わせて辺りを見回す。突然吐く息が白くなり、洞窟内で見た霧が発生した。
数秒後、大きく地面が揺れ始め、崩れた洞窟から青白い炎を纏ったチャールズが飛び出して空中に浮かび上がった。
「じいちゃん⁉︎」
「サム、お前に理解してもらえないのは本当に残念だよ。お前は昔から私の言うことは素直に聞いてくれていたんだがな」
チャールズは少しだけ悲しそうな顔をしてそう言うと、街の方を見る。
「まあ、今はそれもどうでもいいことだ。私はこれからしなければいけないことが沢山ある。お前はただ見ていればいい」
「待てよ! 何をする気だ!」
「クトゥグア復活の為の贄を捧げる。ではな、ケイト。私が成す最後の偉業を見ているが良い」
チャールズはそう言い残して、街の方に高速で飛んで行った。
「じいちゃん!」
ケイトは追おうとするが、すでにチャールズは見えなくなっていた。
呆然としているケイトに、サムは喝を入れるかのように吠える。
「ああ、今のじいちゃんは何するかわからねえ。街が、カナメさんが危ない。行くぞ、サム!」
ケイトとサムは車に乗り込み、街に向かって全速力で向かった。




