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クロス・フェイト  作者: うみち
第二章 英雄譚Ⅰ ––ケイト・バベッジ––
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旧神の楔・小部屋


 十畳ほどの部屋の窓際に、簡素なベッドが置いてある。中央には大きな机と椅子があり、その上に工具や大圧力

筒、銃の部品が並んでいる。ベッドの横には犬小屋と餌入れが置いてあり、犬小屋には“サム”と書かれていシールが付けられている。


 幻夢郷(ドリームランド)に呼び寄せられている者達に用意された部屋は、それぞれが元いた世界で使用していた部屋の作りを、忠実に再現されている。


「もっと豪華な部屋を想像してたけど、俺の部屋と全く同じとは思わなかったな」


 ケイトはそう言うと、ベッドに横になり、天井を眺める。


「まあ、こっちの方が落ち着くからいいか」


 ケイトはそのまま目を閉じ、深い眠りに落ちていった。



1860年、7月 イギリス・ロンドン


 希代の天才、チャールズ・バベッジが蒸気機関を動力として高度な計算を行う機械、階差機関(ディファレンス・エンジン)を完成させ、蒸気機関が文明を支えている世界。人々が使う車両や飛行機はもちろん、ガスや水道、護身用の銃など全ての動力が蒸気機関で成り立っている。中でも、軍人や自警団、それらを目指すための大学校生に支給される蒸気銃と、動力源の圧力筒と呼ばれる装置は、チャールズの発明品の中では、階差機関(ディファレンス・エンジン)に並ぶ傑作と呼ばれている。


蒸気機関の発達が著しいここイギリスは、世界的に大きな力を持っていた。


「サム、飯の時間だぞ」


 正午を少し過ぎた頃、ケイトはサムと呼んだシェパード犬にそう言うと、餌入れにドッグフードと少量の野菜を入れる。


「今日は残すなよ、サム」


 ケイトはそう言ってベッドに座り、サンドイッチを口に運びながら窓の外を眺める。至る所で蒸気が立ち昇り、煉

瓦造りの昔ながらの街並が白くぼやけて見えている。


「そろそろ行くか」


 ケイトはサンドイッチを頬張ってベッドから立ち上がると、大きく体を伸ばしてサムを見る。


「あ、また野菜だけ残したな! 今日は残さないって約束しただろ!」


 サムの餌入れには綺麗に野菜だけ残されていた。


 ケイトはサムの前にしゃがんで真っ直ぐ目を見る。


「分かった。今日の夜は絶対残すなよ、いいな?」


 サムは元気に、ワン、と吠えて玄関に向かう。


「よし、じゃあ行くか」


 ケイトは残された野菜を捨てて、サムと一緒に部屋を後にした。



 駅前の通りを抜けた先にある煉瓦造りのビル。三階にはカナメ探偵事務所と書かれている表札がドアにぶら下げられている。


「サム、ここで待ってろ」


ケイトはサムにそう言い聞かせ、事務所のドアを開けて中に入る。十畳ほどのワンルームには、本棚に収まり切らない大量の本が山のように積み重ねられている。窓際に小さなデスクと椅子が置いてあるが、それも本の山に埋もれてしまっていてほとんど見えない。


「カナメさん、どこにいんだ?」


「ここだよ〜」


 ケイトは本の山に向かって呼びかける。すると、デスクを埋め尽くしていた本の山の後ろから女性の声が聞こえ、手だけを出してケイトに向かってヒラヒラと振る。


「またそんなとこにいたのかよ、風邪ひくぞ」


 ケイトはデスクの方に近付き、本の山の裏を見る。そこには、眠そうに欠伸をしながらデスクに突っ伏している女性がいた。腰元まで伸びるボサボサな黒髪、大き目の丸メガネを掛けている。グレーのダボダボな長袖を着て、茶色のロングスカートを履いており、使い古されたサンダルを穿いている。身形のせいでどうしても暗い印象になっているが、顔は整っていて、女性らしい肉感的なスタイルをしている。身形を整えれば、言いよってくる異性がいてもおかしくはないだろう。


「いいじゃないか、ここが一番寝やすいんだ」


「ったく、そんなんじゃいつまでたっても男出来ねえぞ。もっと身形を良くするとか、部屋綺麗にするとかしねえと」


「必要無いね、私は仕事をしている時が一番幸せを感じるんだ。身形や部屋の掃除に時間を費やすくらいなら、仕事に時間をかけたいんだよ」


 カナメはそう言うと、大きく体を伸ばす。


「はいはい。んで、じいちゃんのことで何か進展はあったのか?」


「ん、ああ。進展と言えるほどのことでは無いんだが、少し気になる情報が入ったんだ」

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