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クロス・フェイト  作者: うみち
第一章 世界終末1
3/21

説明

「さて、全員揃いましたし、始めましょうか」


 白い少女は水晶玉の前に立つと、広間にいる者たちの顔を見渡して言葉を継いだ。


「まず初めに、謝罪を。突然このような場所に連れて来て申し訳ありません」


 少女は深々と頭を下げて謝罪を述べると、頭を上げて続ける。


「私の名はノーデンス。かつてこの世界を支配していた旧支配者たる一柱であり、あなた達人間に与する者です。あなたたち七人には、この世界を救って頂きたいのです」


 ノーデンスと名乗った少女の言葉を聞き、エミリアを除いた六人は口を開けてしばらく呆然としていた。


「えっと、ノーデンスちゃんだっけ? どういう意味だ?」


 ケイトは少し笑いながら問いかける。


「今から詳しく説明します」


 ノーデンスはそう言うと、右手で水晶玉にそっと触れる。すると、広間一帯が宇宙空間の様な風景に塗り変わった。


「遥か昔、全ての始まりたる存在、アザトースは彗星に乗って地球に辿り着き、この星を支配しました」


 白い靄に包まれた隕石が、地球に到達する映像が流れる。


「アザトースは自らの権能で、自分と同等の力を持つ神を創造しました。これが外なる神と呼ばれる者達です。そして、外なる神は自分たちの手足となる眷属を創造します。これが、私たち旧支配者と呼ばれる者です」


「ちょっと待って」


 ノーデンスの言葉を、渚は鋭い口調で遮った。


「何か?」


「それ、クトゥルフ神話のことを言ってんのよね?」


「ええ、あなたの世界線ではそのように呼ばれていますね」


「クトゥルフ神話はラヴクラフトの小説に登場する空想のはず。現実にそんな連中が存在してる筈がない!」


 渚はノーデンスに食ってかかる。


「ええ、彼には私たちの存在の伝達者としての役割を担ってもらっていました」


「はあ?」


「あいつには私も驚かされたよ。なんの魔力も無いただの物書きが、独力でこっちの世界にやって来たんだからね。まあ、正確には迷い込んだって言ったほうが正しいか」


 レミリアは呆れながらそう言った。


「信じらんない、ラヴクラフトがここに来たっていう証拠でもあんの?」


「証拠、ですか。その証拠を提示すれば、あなたは信じてくれますか?」


「そんな物が出せるんならね」


 ノーデンスは左手を伸ばすと、渚には聞き取れない発音で一言呟く。すると、何も無い空間から一冊の古びた手帳が出現した。


「これなら証拠になると思うのですが」


 そう言ってノーデンスは渚の前に近寄り手帳を渡した。渚は一瞬躊躇して、手帳の中を見る。


「こ、これって」


 手帳には、ラヴクラフトの最後の作品として知られる、“未知なるカダスを夢に求めて”の原文が書かれており、最後のページには“We’re Providence.”と記されている。


「彼が私たちの存在を初めて記した物です。彼が元の世界線に戻る時に、畏敬の印をと言って渡されました」


「でも、この原稿はラヴクラフトの友人が見つけた筈じゃないの?」


「それは彼が元の世界線に戻って書いた物です。これは、彼がこの世界にいる間に書き上げた物。これで、信じていただけましたか?」


 渚は手帳を見ると、何も言わずに頷き、ノーデンスに返して椅子に座った。


「ありがとうございます。では、続きをお話しします」


 ノーデンスは水晶玉の前まで戻り、中断した話を続ける。


「外なる神は、初めは問題なくこの星を支配していました。ですが、次第に力に驕る者達と、そうでない者達とである対立が起こりました」


「対立? 一体なんの?」


 ナキは腕を組みながら問う。


「人類を絶滅させるか、生きながらえさせるかということです」


「はあ? 何しに絶滅させようってのさ!」


「いつか自分達を必要としなくなった人類に、見限られるのが怖くなったからです」


「どういう意味だ?」


 ケイトは首を傾げながら難しい顔をする。


「人間の築き上げる文明の成長スピードってのは凄まじいものなんだよ。その時代には無い技術や知識を与えても、数世紀後にはそれが常識となり、古い物となって、いつしか不要な物として扱われる」


 レミリアは頬杖をしながらケイトに語る。


「もっと分かりやすく説明してくれよ!」


「あの、良いですか?」


 ハインケルが恐る恐る手を上げる。


「えっと、あんたは?」


「あ、ハインケルっていいます」


「ハインケルか。俺はケイトだ、よろしくな! で、なんだ?」


「は、はい。ケイトさんは、火を起こす時どうしますか?」


「そりゃ、マッチで火をつけるだろ?」


「そうですよね。では、仮にここにいる七人だけがいる世界で、僕だけが魔法で火を起こすことが出来るとします」


 ハインケルはそう言って右手を出すと、小指ほどの小さな火の玉が出現する。


「うお! 今のそれどうやったんだ⁉︎ 手品か?」


 ケイトはハインケルが出現させた火の玉を見て、驚きながら問う。


「これは魔法です。人が生きていく上で、火という物は必要不可欠ですから、みんなが僕の行使する魔法を必要とします。ですが、魔法には多くの手間がかかりますし、習得するのに長い期間を要します」


「とりあえず、その魔法ってのはすげえ難しいってことなんだよな?」


「は、はい。そんな世界で、ケイトさんがマッチ棒を発明すると、どんなことが起きると思いますか?」


「みんなマッチを使って火を起こすようになるんじゃないのか?」


「そうです。簡単に火を起こす物がある以上、僕の行使する手間の掛かる魔法に頼る必要が無くなりますよね。ノーデンスさんが先ほど言っていたのは、これと同じ事だと思います」


「なるほど! 頭良いんだなあんた!」


「い、いえ、そんな大したことはないです」


 ハインケルは恥ずかしそうに言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「で、怖くなった神様はどうしたんだ?」


 ケイトはノーデンスの方を見て尋ねる。


「はい。絶滅を望む外なる神と、それを望まない私たち旧神と呼ばれる一部の旧支配者たちで、大きな戦いが起こりました」


 当時の争いの光景が映し出され、レミリアを除く六人は絶句する。


「ですが、外なる神とその眷属でしかない私たちでは、力の差は歴然でした。追い詰められた私たちは、旧神の印と

いう楔を創り、多くの犠牲を払い、外なる神の魂をここ幻夢郷(ドリームランド)に封じる事しか出来ませんでした。旧神側で唯一生き残ったのは、私だけです」


 ノーデンスは再び水晶玉に触れ、広間に映し出されていた映像から、元の大広間に戻した。


「外なる神を封じたんなら、戦いは終わったんじゃないの? 私たちをここに呼び出す必要無いじゃない」


 渚は嫌味たっぷりにそう言った。


「いいえ。外なる神の眷属たちまでは封じる事は出来なかった以上、今も戦いは終わっていません。眷属たちは楔を破壊するために、毎夜侵攻を続けています。貴方達にはその眷属達を打ち倒して頂きたいのです」


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