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すると、窓際の空間が歪み、一人の青年が突然現れた。
「いるならいるって言ってくださいよ、ワイズ! びっくりしたじゃないですか!」
セリーネは声を震わせながら青年に向かってそう言った。ワイズと呼ばれた青年は、身長百八十後半、紺色の短髪。優しい目つきをしており、鼻は高く爽やかな好青年という印象。紺色のローブを纏い、右手に分厚い本を持っている。
「悪い悪い! お前が帰還したって聞いた時からどうやって驚かそうかって考えてたんだけど、上手くいったみたいだな! はっはっはっはっ!」
ワイズはそう言うと、大声で笑いながらセリーネと向かい合うように椅子に座り、手に持っていた本を置く。
「ワイズ様。レディの会話を盗み聞くのは、あまりよろしくはありませんよ?」
ジュリーはワイズの分の紅茶を用意しながらそう言った。
「そう怒るなってジュリー! 俺らだってセリーネのことは心配してたんだ。俺らからすれば、セリーネは妹みたいなもんだからな! あ、マキナもそろそろここに来ると思うぞ」
「わざわざ来なくとも、私から挨拶に向かうのに」
「こうやって俺らが話せるのは久しぶりなんだし、良いじゃねえか!」
ジュリーはワイズの手元に紅茶とシフォンケーキを置く。
「新しいお茶請けをお持ちしますので、少し席を外します」
ジュリーはそう言って一礼すると、使用人用の扉の奥に姿を消した。
「っと、ジュリーがいないうちに話しとくか」
ワイズは先程とは違う、静かな口調でそう言うと、カップを持ち上げて紅茶を飲み、言葉を継ぐ。
「お前、ソロモン王に竜を討伐することに対して反論していたな。あれはどういうことだ?」
「そこから盗み聞きしていたんですか?」
「いや、あの時は俺も王に用事があってな。盗み聞くつもりは無かった」
ワイズはカップを静かに置く。
「お前も分かってるはずだろ? 王がどれほど竜を嫌ってるのか」
「何度も街を襲撃され、民を殺戮した竜の事を、王が嫌っていることは理解しています。でも、あの島にいた少女と竜を見て、私たちが今まで常識だと思っていた竜の認識を改める必要があるのではと思ったのです」
「キプロス島にいた人間の少女か?」
「はい。側にいた竜にはナキと呼ばれていました。人間に名を与え、育てることができるのならば、共に生きていく道もあるはずです」
ワイズは腕を組みながら、椅子の背もたれに体を預ける。
「お前の言うことも理解は出来る。だが、竜を嫌っているのは王だけではない。俺たちの部下やエルサレムの民も憎
しみを抱いているのが現状だ。全員を納得させるのは不可能だぞ」
「それは、そうですが……」
セリーネが俯きながら呟いた直後、廊下側の扉を開けて、女性が談話室に入ってきた。
「あ、いたいた。って、随分と暗い雰囲気だな。ワイズ、お前セリーネに酷いことでも言ったんじゃないだろうな?」
女性はそう言って、ギロリとワイズを睨みつける。
「ちげえよ! 俺がんなこと言うわけねえだろ!」
「違います、マキナ。酷いことなんて言われてませんよ」
セリーネはそう言ってマキナと呼んだ女性の方を見る。身長は百七十前半で、腰まで伸びる艶のある黒髪。鷹のよ
うに鋭い目つきをしており、右の目元に泣き黒子がある。女性らしい肉感的な身体つきをしており、胸元が大きくはだけた黒のワンピースを着ている。
「そうか、ならいいんだが。どうしてこんなに暗い雰囲気なんだ?」
マキナはセリーネの隣にある椅子に座りながら尋ねた。セリーネとワイズは今までの二人の会話の内容をマキナに説明した。




