6
ソロモン神殿、談話室
十畳ほどの部屋に、向かい合うように四つの椅子が置かれており、中央に大理石のまるイェーブルが置かれ、床には赤い毛の絨毯が敷かれている。窓からはエルサレムの市街地と、水平線が一望できる。部屋には廊下へと出る扉と、使用人が出入りする扉が廊下へ出る扉の反対側にある。
セリーネが扉を開けて談話室に入ると、直後に黒のワンピースに白いエプロンドレスを着た使用人が、扉を開けてセリーネに近寄る。
「お帰りなさいませ、セリーネ様」
「ただいま、ジュリー」
セリーネは兜を脱いで優しく笑いながら言った。
「今、紅茶のご用意を致します。鎧もお預かりします」
「ありがとう」
セリーネは着ていた鎧を脱いでジュリーに預け、部屋の中央にある椅子に座った。
「此度の遠征はいかがでしたか?」
鎧を部屋の隅に置き、紅茶を入れる準備をしながら、ジュリーはセリーネに尋ねた。
「竜と戦いましたが、なんとか全員無事に帰ってこれました」
「まあ、竜と戦われたのですか? 大変だったでしょう?」
「ええ。満足いく調査も出来なかったので、これと言った成果も上げられませんでした」
セリーネは自嘲気味に笑いながらそう言った。
「そんなことありませんよ。強大な竜と交戦して、生きて帰って来るだけでも凄いことなんですから!」
ジュリーはそう言うと、カップに紅茶を注ぎ、セリーネの手元に置く。
「どうぞ。ジュリーオリジナルブレンドです」
「ありがとう」
セリーネはカップを手に取り、紅茶を一口飲む。
「あなたが淹れる紅茶はいつも美味しいですね、ジュリー」
セリーネはそう言ってカップを静かに置く。
「ありがとうございます。お茶請けもどうぞ」
ジュリーはそう言って手作りのシフォンケーキを切り分け、小皿に移してセリーネの手元に置く。
「ありがとう。そうだ、他の勇士達はどうしているのですか?」
「ルシス様は街の北側にある渓谷で竜の討伐任務をなさっています。ディエゴ様とワイズ様は神殿内の自室にいま
す」
「そうですか。一週間しかこの街を離れていないのに、彼らの顔を見ないと少し寂しく感じますね」
セリーネはそう言ってカップを持ち上げて紅茶を一口飲む。
「それでしたら、ディエゴ様とワイズ様をお呼びしましょうか? ルシス様も今日の夕刻にはお戻りになるはずですし」
「い、いえ、いいのです! 私が寂しがっているなんて聞いたら、あの三人に茶化されるに決まっていますから。それに、休息の邪魔をしたくもありません」
ジュリーの言葉に、セリーネは動揺しながらそう答えると、再び紅茶を口に含む。
「いやいや! そんな気使わなくても良いってセリーネ! 俺ら四勇士の中じゃねえか!」
謎の声が聞こえた瞬間、セリーネは勢いよく口に含んでいた紅茶を吹き出した。
「ワ、ワワワ、ワイズ! 聞いていたんですか⁉︎」
顔を真っ赤にしながらセリーネは部屋を見回す。




