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クロス・フェイト  作者: うみち
第三章 英雄譚Ⅱ ––ナキ––
20/21

ソロモン神殿、談話室


 十畳ほどの部屋に、向かい合うように四つの椅子が置かれており、中央に大理石のまるイェーブルが置かれ、床には赤い毛の絨毯が敷かれている。窓からはエルサレムの市街地と、水平線が一望できる。部屋には廊下へと出る扉と、使用人が出入りする扉が廊下へ出る扉の反対側にある。


 セリーネが扉を開けて談話室に入ると、直後に黒のワンピースに白いエプロンドレスを着た使用人が、扉を開けてセリーネに近寄る。


「お帰りなさいませ、セリーネ様」


「ただいま、ジュリー」


 セリーネは兜を脱いで優しく笑いながら言った。


「今、紅茶のご用意を致します。鎧もお預かりします」


「ありがとう」


 セリーネは着ていた鎧を脱いでジュリーに預け、部屋の中央にある椅子に座った。


「此度の遠征はいかがでしたか?」


 鎧を部屋の隅に置き、紅茶を入れる準備をしながら、ジュリーはセリーネに尋ねた。


「竜と戦いましたが、なんとか全員無事に帰ってこれました」


「まあ、竜と戦われたのですか? 大変だったでしょう?」


「ええ。満足いく調査も出来なかったので、これと言った成果も上げられませんでした」


 セリーネは自嘲気味に笑いながらそう言った。


「そんなことありませんよ。強大な竜と交戦して、生きて帰って来るだけでも凄いことなんですから!」


 ジュリーはそう言うと、カップに紅茶を注ぎ、セリーネの手元に置く。


「どうぞ。ジュリーオリジナルブレンドです」


「ありがとう」


 セリーネはカップを手に取り、紅茶を一口飲む。


「あなたが淹れる紅茶はいつも美味しいですね、ジュリー」


 セリーネはそう言ってカップを静かに置く。


「ありがとうございます。お茶請けもどうぞ」


 ジュリーはそう言って手作りのシフォンケーキを切り分け、小皿に移してセリーネの手元に置く。


「ありがとう。そうだ、他の勇士達はどうしているのですか?」


「ルシス様は街の北側にある渓谷で竜の討伐任務をなさっています。ディエゴ様とワイズ様は神殿内の自室にいま

す」


「そうですか。一週間しかこの街を離れていないのに、彼らの顔を見ないと少し寂しく感じますね」


 セリーネはそう言ってカップを持ち上げて紅茶を一口飲む。


「それでしたら、ディエゴ様とワイズ様をお呼びしましょうか? ルシス様も今日の夕刻にはお戻りになるはずですし」


「い、いえ、いいのです! 私が寂しがっているなんて聞いたら、あの三人に茶化されるに決まっていますから。それに、休息の邪魔をしたくもありません」


 ジュリーの言葉に、セリーネは動揺しながらそう答えると、再び紅茶を口に含む。


「いやいや! そんな気使わなくても良いってセリーネ! 俺ら四勇士の中じゃねえか!」


 謎の声が聞こえた瞬間、セリーネは勢いよく口に含んでいた紅茶を吹き出した。


「ワ、ワワワ、ワイズ! 聞いていたんですか⁉︎」


 顔を真っ赤にしながらセリーネは部屋を見回す。

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