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「それは貴女の方でしょう。どのようにして竜を味方にしているのかは知りませんが、貴女は竜などでは無い、間違いなく人間です」
セリーネの言葉を聞き、体を震わせる。
「アタシが人間だと? アタシをアンタら人間と一緒にすんな!」
ナキは右腕に魔力を収束させ、竜の爪を出現させる。
「いいえ、人間です。そこにいる竜を見れば分かるでしょう。貴女と竜では、そもそも姿が違う。気付いていないわけではないでしょう?」
「ッ⁉︎」
セリーネの言葉に、ナキは反論できず狼狽えてしまう。
「そこまでだ、夕焼けの騎士」
ガルムンドは地上に降り立つと、鋭い口調でそう言った。
「貴様が何と言おうと、ナキは我が一族の娘だ。それ以上我等の娘を侮辱するのであれば、相応の報いがあると知れ」
殺気の篭った声でガルムンドはセリーネに言う。
「ガルムンド……」
ナキは消え入りそうな声で俯きながら呼びかける。
「ナキ、奴の言葉に耳を貸す必要は無い、お前は我らと同じ竜だ」
穏やかな声で言い聞かせるようにガルムンドはナキに言葉をかける。
「なるほど、ナキというのですね。私は最初、貴女が竜を使役しているのだと思っていましたが、違ったようです。貴女は竜を使役しているのではなく、竜に操られていたのですね」
セリーネはそう言うと、兜を被り全身に茜色の魔力を纏う。
「アタシは操られてなんかいない! アタシは竜だ!」
「いいえ、ナキ。貴女は人間です」
セリーネは静かにそう言って、船に向かって跳躍した。
「また私はこの島に戻ってきます! その時まで、しばしの別れです、ナキ!」
セリーネはそう言い残して船に乗り込む。すると、海が大きくうねり、船を沖の方へと凄まじい早さで運んで行く。
「逃すか!」
ガルムンドは翼を大きく広げて飛び上がり、船に向かって炎弾を放つが、障壁に阻まれあっという間に船は見えなくなってしまった。
「ガルムンド! ナキ! 人間はどこだ⁉︎」
直後に何頭もの竜が海岸に集まってきた。
「すまん、仕留め損ねた」
ガルムンドは沖の方を睨みつけながら答えた。
「ぬう、我らがいれば人間なぞ他愛もなかったものを」
「いや、奴らの一人に夕焼けの騎士がいた。あのまま戦えば、確実に犠牲がでていただろう」
「夕焼けの騎士だと⁉︎」
「ああ、奴らまたこの島に来ると言っていた。急ぎ全ての竜を谷に集めよ。我とナキはグラニアスに事の経緯を話し
てくる」
「承知した! 行くぞ!」
ガルムンドとナキを残し、竜たちは島中に飛び去って行った。
「ナキ、我らも行くぞ。戦が始まる」
ガルムンドはナキにそう言うと、そのまま島の中央に向かって飛んで行った。
「……ああ、分かってる」
ナキは静かにそう言うと、翼を出現させて海岸を後にした。




