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「アタシの火炎を搔き消した上に反撃してきやがった。人間風情が、あんな力を持つなんて」
木の枝に立ち、撤退する騎士達を見ながら、ナキは呟く。
「ナキ、無事か?」
上空から青い鱗に覆われた、全長二十メートルほどの竜が一頭、ナキの側に降り立ち尋ねた。
「ああ、怪我はないよ、ガルムンド。アイツら、この島を奪う気だ」
「我らからこの島を奪う? 人間ごときが笑わせてくれる」
ガルムンドと呼ばれた竜はナキの言葉を聞いて高笑いする。
「他のみんなは?」
「すぐに集まる。我は偶然谷の外にいたからな、先に来た」
「分かった、相手の数は多くない。アタシとガルムンドだけでも十分だよ」
「当然だ。人間どもに我ら竜の力を思い知らせてくれるわ!」
ナキとガルムンドは翼を広げて上空に飛び上がり、撤退した騎士達を追跡する。
「そうだ、ガルムンド。人間達の中に、一人だけ警戒した方がいいヤツがいる」
「ほう、お前がそこまで言うとは、相当の手練れなのか?」
「アタシの攻撃を搔き消した上に、反撃してきた。他の人間とは明らかに違う。油断しない方がいい」
「フン、人間ごときに遅れなんぞ取らぬ。見えたぞ、あいつらだな」
ガルムンドはそう言って森を見下ろす。ナキも同じく見下ろすと、海岸に向かって走る騎士達が見える。
「ああ。一気に片付けるよ!」
「言われずともだ!」
ナキとガルムンドは魔力を収束させ、炎弾を騎士達に放つ。炎弾が騎士達に直撃する寸前で、茜色の斬撃が放たれ、炎弾を搔き消し、すぐさまナキとガルムンドに向けて斬撃が放たれる。
「甘い!」
ガルムンドは炎弾を再び放ち、斬撃を打ち消す。
「お前の言う通りだな、ナキ。骨のある人間のようだ」
「ガルムンド、アイツらの船を狙おう。アイツらの中でまともにアタシらと戦えるのは一人だけだ。退路を断てば、数の差で圧倒できる」
「良いだろう」
ナキとガルムンドは海岸に向かって飛ぶ。海岸に停泊している船の周りには、鎧を着た騎士が数人立っていた。
「いたよ、人間は相手にしなくていい。狙うのは船だ!」
「分かっている!」
ガルムンドは炎弾を船に向かって放つ。だが、船に迫る炎弾は船と騎士達を囲むように展開された透明の障壁に防がれてしまう。
「人間どもめ、小賢しい真似を」
「面倒だね、一気に攻撃して叩き潰すよ!」
ナキとガルムンドは炎弾を連続で放つ。炎弾が障壁にぶつかる衝撃が大気を震わせる。
「ッ⁉︎ ガルムンド、躱せ!」
森から放たれた斬撃に気付いたナキとガルムンドは、旋回して斬撃を躱す。
森から茜色の魔力を纏った剣を構えたセリーネが飛び出し、次いで騎士達が飛び出してくる。
「あの人間、夕焼けの騎士か⁉︎」
「夕焼けの騎士? アイツを知ってるのか、ガルムンド?」
「ああ、数年前の戦いで、我が兄弟を殺した人間だ。お前はあの時まだ幼かったから分からんだろう」
「つまり、アタシらの仇ってことか」
ナキは殺気の篭った目でセリーネを睨みつけながらそう言った。
♢
「やはりあれは見間違いではなかったようですね」
セリーネはナキを見つめながらそう言った。
「セリーネ様、戦闘許可を! 我らも戦います!」
「ダメです! あなたも分かるでしょう、いま竜とその側にいる少女と戦っても、私達に勝ち目はありません。殿は私が務めます、皆さんは全力で船まで走って下さい!」
「ですが!」
「行きなさい! これは命令です!」
騎士達はセリーネの迫力に気圧され、船に向かって走っていく。
「逃さん!」
ガルムンドは走っていく騎士に向かって炎弾を三発放つ。
「させません!」
セリーネは放たれた炎弾を、茜色の斬撃で全て搔き消した。
「お前が夕焼けの騎士か?」
ナキはセリーネの正面に降り立ち尋ねる。
「竜にまで私はそう呼ばれているんですね、少し驚きました」
セリーネはそう言って、左手で兜を脱いだ。肩まで伸びる金髪、茜色の瞳、真っ白な肌に整った顔立ちをしている。
「我が名はソロモン王四勇士が一人セリーネ・オルゼン。この島の奪還の為の調査をせよと命を受け、この島に来ました」
「寝ぼけたこと言ってんじゃないよ! この島はアタシら竜の物だ、お前達人間に返す必要なんて無い!」
ナキはセリーネを怒鳴りながら睨みつける。




