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クロス・フェイト  作者: うみち
第二章 英雄譚Ⅰ ––ケイト・バベッジ––
14/21

「チクショウ! ごめん、ごめんな、サム」


 ケイトは涙を流しながら呟く。


「ケイ……ト……」


「カナメさん!」


 カナメの弱々しい呼び掛けを聞き、ケイトはフラつきながら立ち上がって歩み寄る。


「カナメさん、すぐに病院に連れてくから。あと少しだけ耐えてくれ」


「無駄だよ。もう間に合わない」


「んなこと言ってんじゃねえよ! まだ助かるかもしれないだろ!」


「もう、体の感覚が無いんだよ。間に合わない」


「ふざけんなよ! 俺、まだあんたに言ってないことがあるんだ、こんなとこで死ぬな!」


 ケイトは泣きながらカナメにそう言った。


「ねえ……ケイト……。私も……君に伝えたい事があるんだ」


 カナメは消え入りそうな声で言うと虚ろな目でケイトを見つめる。


「私はね……父にあの探偵事務所を無理矢理継がされて、仕方なく探偵として生きてきたんだ」


 ケイトは啜り泣きながらカナメの言葉を聞く。


「でも……探偵業は私に向いてなかったんだろうね……。何をするにも無気力だった。父には悪いと思いながら、事務所を畳もうと思っていた矢先に……君が来た」


「カナメさん、もう喋るな」


 カナメはケイトの制止を聞かずに続ける。


「君と過ごしたこの一年は……不謹慎だと分かっているけど、とても楽しかった。君の依頼の捜査をしている時は、と

ても心地が良かったんだ。少しだけ……ほんの少しだけ、父が探偵として生きたいと思った気持ちが、分かった気がする。……心残りがあるとすれば、君の依頼が、こんな結果になってしまったことだけだ」


「カナメさんのせいなんかじゃねえ。らしくないこと言うなよ」


 ケイトはカナメに抱きつきながら涙声で言った。


「ふふ。なんだかんだ言って、他人を思いやれるところは、君の長所だね。ケイト……私が死んだら、あの事務所を継いでくれないか?」


 カナメの言葉を聞き、ケイトは顔を上げる。


「何言ってんだ、俺なんかに探偵は務まらねえよ」


「誰かのために……自分の身を危険に晒すことも厭わない君になら……きっと……」


 掠れた声でそう言って、カナメは眠るように事切れた。


「カナメさん、カナメさん!」


 カナメを抱きながら、ケイトは声を上げて泣いた。


 不気味な暗雲が徐々に消え、雲の切れ間から微かな陽の光が、カナメとケイトを照らす。


「カナメさん。俺、あんたの事が好きだった。自分の事を二の次に考えて、依頼人の幸せを求めてたあんたの事が好きだったんだ」


 ケイトは涙を拭い、事切れたカナメを見つめて言葉を継ぐ。


「俺にどこまで務まるか分かんねえけど、分かったよ。あんたに笑われないように、俺、頑張るから。だから見ててくれ、カナメさん」


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