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「チクショウ! ごめん、ごめんな、サム」
ケイトは涙を流しながら呟く。
「ケイ……ト……」
「カナメさん!」
カナメの弱々しい呼び掛けを聞き、ケイトはフラつきながら立ち上がって歩み寄る。
「カナメさん、すぐに病院に連れてくから。あと少しだけ耐えてくれ」
「無駄だよ。もう間に合わない」
「んなこと言ってんじゃねえよ! まだ助かるかもしれないだろ!」
「もう、体の感覚が無いんだよ。間に合わない」
「ふざけんなよ! 俺、まだあんたに言ってないことがあるんだ、こんなとこで死ぬな!」
ケイトは泣きながらカナメにそう言った。
「ねえ……ケイト……。私も……君に伝えたい事があるんだ」
カナメは消え入りそうな声で言うと虚ろな目でケイトを見つめる。
「私はね……父にあの探偵事務所を無理矢理継がされて、仕方なく探偵として生きてきたんだ」
ケイトは啜り泣きながらカナメの言葉を聞く。
「でも……探偵業は私に向いてなかったんだろうね……。何をするにも無気力だった。父には悪いと思いながら、事務所を畳もうと思っていた矢先に……君が来た」
「カナメさん、もう喋るな」
カナメはケイトの制止を聞かずに続ける。
「君と過ごしたこの一年は……不謹慎だと分かっているけど、とても楽しかった。君の依頼の捜査をしている時は、と
ても心地が良かったんだ。少しだけ……ほんの少しだけ、父が探偵として生きたいと思った気持ちが、分かった気がする。……心残りがあるとすれば、君の依頼が、こんな結果になってしまったことだけだ」
「カナメさんのせいなんかじゃねえ。らしくないこと言うなよ」
ケイトはカナメに抱きつきながら涙声で言った。
「ふふ。なんだかんだ言って、他人を思いやれるところは、君の長所だね。ケイト……私が死んだら、あの事務所を継いでくれないか?」
カナメの言葉を聞き、ケイトは顔を上げる。
「何言ってんだ、俺なんかに探偵は務まらねえよ」
「誰かのために……自分の身を危険に晒すことも厭わない君になら……きっと……」
掠れた声でそう言って、カナメは眠るように事切れた。
「カナメさん、カナメさん!」
カナメを抱きながら、ケイトは声を上げて泣いた。
不気味な暗雲が徐々に消え、雲の切れ間から微かな陽の光が、カナメとケイトを照らす。
「カナメさん。俺、あんたの事が好きだった。自分の事を二の次に考えて、依頼人の幸せを求めてたあんたの事が好きだったんだ」
ケイトは涙を拭い、事切れたカナメを見つめて言葉を継ぐ。
「俺にどこまで務まるか分かんねえけど、分かったよ。あんたに笑われないように、俺、頑張るから。だから見ててくれ、カナメさん」
結




