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「返事ねえな、誰もいないのか?」
ケイトは車を急停車させて下車し、エリザベス塔に入る。塔の中は、絢爛な装飾で飾られているが、壁や天井、吊るされているシャンデリア等、全てが氷づけになっており、その氷が青白く発光して全体を薄暗く照らしている。
「サム、離れるなよ」
ケイトは銃を両手に持ち、慎重に進んで行く。少し進むと、上の階へ続く階段を見つけた。
「––––あれなんだ?」
ケイトは階段の上から降りてくる青白い炎の兵隊達を見て呟く。
兵隊はケイトを見ると、炎で出来た銃を構え、ケイトに向かって炎弾を撃つ。
「舐めんなよ、しっかり対策してるっての!」
ケイトは兵隊に向かって走りながら、撃ち出された炎弾を躱し、レッグポーチから蒸気爆弾を取り出し、兵隊の足元に向かって投げる。
数秒後、爆弾は高温の蒸気を放出しながら爆発し、炎の兵隊達を一掃した。
「行くぞサム!」
ケイトとサムは階段を駆け上がる。炎の兵がケイトの行く手を阻むように襲いかかるが、蒸気爆弾で蹴散らし進んでいく。
階段を登りきると、階段の側で横たわっている満身創痍のカナメの姿と、中央にある青白い炎の魔法陣の中で、何かの呪文を唱えているチャールズの姿がケイトの目に映った。
「遅いよ……ケイト……」
カナメは掠れた声でそう言った。ケイトはカナメを静かに抱き上げ、壁際に下ろし、自分の上着を脱いでカナメにかける。
「カナメさん、遅くなってごめん。寒いよな、あと少しだけ待っててくれ。すぐ終わらせるから。サム、カナメさんの側にいるんだ」
ケイトはそう言って立ち上がると、チャールズの方に振り向き、殺意の篭った目付きで睨みつける。サムはカナメを庇うように立ち、チャールズに向かって唸る。
「育ての親に向かってその目は何だ、ケイト?」
チャールズは涼しい口調で問いかける。
「黙れ。お前は俺の育ての親なんかじゃねえよ」
ケイトは銃をチャールズに向け、言葉を継ぐ。
「じいちゃんは、研究の事しか頭に無かったけど、それでも俺に沢山のことを教えてくれた。飯の作り方とか、礼儀作法のこと。紳士たる者、レディを傷つけるような事は何があってもしちゃいけねえってこともな」
ケイトは蒸気爆弾を取り出し、チャールズに向かって投げる。
「簡単にレディを傷つけるようなお前は、じいちゃんじゃねえ! ただのイカれたクズ野郎だ!」
ケイトはそう叫んで、爆弾に向かって銃を撃つ。銃弾が爆弾に直撃して爆発する。蒸気の熱で周囲の氷が溶け、大量の湯気が発生する。
「くっ! ケイト!」
チャールズは激昂しながら、ケイトに向かって青白い炎弾を飛ばす。
だが、ケイトは銃のボタンを押して靴から蒸気を噴出させて一瞬で飛び上がり、炎弾を全て躱し、チャールズに向かって銃を乱射する。
「がっ、あっ⁉︎」
全弾が命中し、チャールズは血を吐きながら膝をついた。
「諦めろ、お前の傍迷惑な偉業はここまでだ」
ケイトは着地し、銃を向けながら言った。
「ふ、ふふふ、はっははははは! 終わるものか! 既に復活の儀は完了した! もう手遅れなんだよ、ケイト!」
チャールズは狂ったように笑いながら立ち上がり、血走った目でケイトを見て叫んだ。
「いあ! いあ! 我が神クトゥグアよ! 今こそ復活の時だ!」
チャールズの声に呼応して炎の魔法陣が揺らぎ、青白かった炎が赤色に染まり、灼熱の火柱が発生する。
「あっつ! ったく、何が起こってんだ⁉︎」
火柱が発する高温に、ケイトは数歩後ろに下がる。サムはケイトの前まで走ってくると、火柱に向かって激しく吠える。
「ふはははははは! 成功だ! 成功だ! 我が神が長い時を経て復活したぞ! ん? そ、そんな⁉︎ 何故だ⁉︎ そんなはずは無い! そんな、計算は完璧だったはずだ!」
高笑いしていたチャールズは、何かの異変に気付いたのか、明らかに動揺しながら火柱に向かって叫びだす。
「おい! 一体何が起きてんだよ!」
ケイトがチャールズに向かって問うた直後、火柱の中から灼熱のローブを纏った3メートルほどの巨人が現れた。
「貴様を呼び出したわけじゃないぞ、ヤマンソ!」




