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クロス・フェイト  作者: うみち
第二章 英雄譚Ⅰ ––ケイト・バベッジ––
11/21

 カナメがチャールズに連れ去られた数十分後。ケイトは変わり果てたロンドンを車で直進していた。


「遅かったか、カナメさんは無事なのか⁉︎」


 ケイトは事務所が入っているビルの前に車を止め、壁が破壊された事務所を窓越しに見る。


「嘘だろ!」


 ケイトは車から飛び降り、駆け足で事務所に入り、ケイトを探す。


「どこだよカナメさん!」


 誰もいない事務所で、ケイトは必死に叫ぶ。


「どうにかしてじいちゃんを止めないと、本当に世界が終わっちまう」


 ケイトは事務所出て、車に乗り込む。


「まずじいちゃんを探さなきゃなんねえけど、どこにいるんだ? サム、お前匂いで追えたりしないか?」


 サムはケイトを見て情けない声で鳴く。


「いや、お前は悪くねえよ。あんな姿になっちまってるんだ。匂いだって変わってるよな。あー! どうすりゃいいんだよ!」


 ケイトはハンドルを叩いて大声を出す。


 少しして、正午を知らせる鐘の音が街に響いた。


「鐘の音? おかしいな、もう正午は過ぎてるはず……。行くぞ、サム!」


 ケイトは何かに気がついたのか、シートベルトを締めて車を急発進させる。


「ビッグ・ベンの鐘は午前六時と正午、それに午後六時になれば自動で音がなる仕掛けになってる。それがこんな中途半端な時間に鳴るってことは、誰かが鐘を鳴らしてるってことだ。何か手掛かりがあるかもしれない」


 ケイトは早口でサムにそう言うと、それに答えるかのように、ワン、と吠える。


「ああ、カナメさんだといいんだけどな。とにかく急ごう!」


 ケイトはアクセルを強く踏み込み、スピードを上げてエリザベス塔に向かった。



エリザベス塔、最上階


 ロンドンの街並みを一望できるようになっている空間。上部には大きな鐘が取り付けられており、一定の時間になると蒸気仕掛けが作動して鐘を鳴らす。


 その空間の中央に、五芒星が青白い炎で描かれており、その五芒星の中央にチャールズが立っている。そして、階段の側に両腕を切断され、意識朦朧のカナメが倒れこんでいた。傷口は凍りつき出血は止まっているが、痛みと寒さで衰弱しきっていた。


「全く、余計な行動さえしなければ、そんなことにならずに済んだんだ」


 チャールズは少しイラつきながら、カナメに向かって言った。


「まあいい。偉業を成すには、いくつもの障害があるのは当然だからな。それは私に抗ったことへの罰だと思いたまえ」


 カナメはチャールズを睨むことしかできずにいた。


「ある程度この力にも慣れてきた。君を実験台にする必要は無くなったんだ、もっと喜びたまえ」


 チャールズがなだめるように言った時、外から車の走行する音が聞こえてきた。


「カナメさーーーーーーん! いるかーーーーー!」


 ケイトの呼びかけに、カナメは思わず涙を流す。


「良かった……生きていたか、ケイト……」


 涙声でカナメは呟く。


「ケイト……。まだ私の邪魔をする気か。生かしておいてやった命を、わざわざ捨てに来るとはな」


 チャールズは哀れんだ表情でそう言うと、指を鳴らす。すると、青白い炎が空中に出現し、銃や槍を持った兵士の姿になる。


「儀式の邪魔をされるわけにはいかない。下に行って、ケイトを殺せ」


 炎の兵たちはチャールズの命令を聞くと、下の階に向かって行った。


「あんた……本当に……ケイトの祖父なのか?」


 カナメは弱々しい声でチャールズに問う。


「いかにも、私はケイトの祖父、チャールズ・バベッジだ。何故そんなことを聞く?」


「なら……あんたは、自分の孫を……殺すのか?」


「私の偉業の邪魔をする人間は、誰であろうと容赦はしない。それが、可愛い自分の孫だとしてもな」


 カナメの言葉を聞き、チャールズは静かにそう答えた。


「そうか……。私は……あんたのことを、偉大な天才だと思っていたが……違ったようだ。あんたはただの、自分のことしか考えない狂人だ」


 チャールズを睨みながら、鋭い口調でカナメは言い放った。


「世間からの評価などに興味は無い。好きなように評価するがいい」


 涼しい顔でチャールズは答えると、カナメには聞き取れない発音で何かを詠唱し始め、儀式を再開した。

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