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クロス・フェイト  作者: うみち
第一章 世界終末1
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初戦

 石造りの家屋が所狭しと並んでいる住宅街。メインストリートには生活に必要な食料や雑貨などが売られている屋台が並んでいる。メインストリートを抜けた先にある広場には、直径十メートルほどの円形の噴水があり、生活に必要な水を住人が汲みに来ていたのだろう、周囲に木製のバケツがいくつか転がっている。広場の先には巨大な白亜の城がそびえ立っている。活気溢れていただろうこの街には、今は人の声一つもしない廃墟となっていた。


 静まりかえったその廃墟に、空気を震わせるほどの爆発音が響き、次いでいくつかの家屋が倒壊する音が鳴り、爆風でホコリや土が舞い上がった。


「ったく、何なんだよいきなり!」


 半壊した家屋から飛び出してきた青年は、舌打ちをしながらそう言った。


 青年は腰に付けた大圧力筒に管が繋がれた片手持ちの蒸気銃を二丁携えている。身長は百八十センチほどで、綺麗な金色の短髪で大きめのゴーグルを頭に付けている。青い瞳が特徴的で幼さの残る顔立ちをしている。白のシャツの上に丈の短い黒い革製のジャケットを着ており、黒のズボンを履き、黒い厚底の革靴を穿いている。腰に大圧力筒を固定する為の革製の黒いベルトを付けており、両足の太腿の部分に弾丸や蒸気の予備が入った革製の茶色のレッグポーチを付けている。


「なあ! 驚かせたんなら謝るから、その剣納めてくんねえか!」


 青年は隣の倒壊した家屋の壁まで跳躍すると、土煙に向かって叫んだ。


「挑発してきたのは貴様の方だろう。拙僧はただそれに乗っただけに過ぎん」


 土煙の中から現れた虚無僧は、落ち着いた声で青年にそう言った。


 虚無僧は藁で編まれた天蓋を被っており、低い声で男性であるという事くらいしか分からない。黒の小袖の上に白の袈裟を纏っており、白の足袋と草履を穿いている。身長は百七十センチ後半で、右手には刃渡り七十センチ、全長九十センチ程度の日本刀を持っており、腰には朱色の鞘が下げられている。


「だーかーらー! 俺は挑発したわけじゃねえっての! 自衛のために銃を抜いてただけだって!」


「知らん。それより、死ぬ前に教えろ。どうやって、何が目的でこんな場所に拙僧を連れてきた?」


 虚無僧は刀の切っ先を青年に向けて尋ねた。


「んなもんこっちが聞きてえよ! 俺も気づいたらここにいたんだ! あんただってそうだろ?」


 青年は少しイラついた様子で虚無僧に向かって怒鳴った。


「知らぬ存ぜぬを通すか。ならば、貴様の素っ首叩き斬るのみ」


 虚無僧はそう言って青年に向かって走り出した。


「話を聞けっての! この分からず屋が!」


 青年は後方に軽く跳躍して、銃のシリンダーラッチの下にあるボタンを押す。すると、革靴のソール部分から蒸気が噴出され、青年は一瞬で虚無僧との距離を離して銃を撃つ。鉄の弾丸が高圧力の蒸気によって撃ち出され、虚無僧に直進する。虚無僧は走る速度を落とす事なく、弾丸を紙一重で全て躱す。


「なんで躱せんだよ! あんた人間じゃねえだろ!」


 青年は呆れたように言い捨てると、再び銃を虚無僧に向けて撃った。


「それはもう見切ったわ」


 虚無僧は刀身で撃たれた弾丸を全て弾くと、瓦礫を蹴って飛び上がり、青年の眼前に迫った。


「切り捨て御免」


 虚無僧は一言呟くと、青年の首に向けて刀を垂直に斬りかかる。


「ふざけんな! こんなわけ分かんねえとこで死ぬわけにはいかねえんだよ!」


 青年は首に迫る刀をギリギリで躱し、蒸気を一気に噴出させ、再び虚無僧と距離を離す。


「身のこなしだけは忍びのそれだな。全く、面倒この上ない」


 虚無僧は静かに着地して呟くと、刀を鞘に納めた。


「やっと話し合う気になったか?」


 青年は少し離れた場所に着地する。


「貴様と話し合うことはもう無い」


 虚無僧は右手を刀の柄に、左手を鞘に添える。


「話し合う為じゃねえなら、何しに剣を納めたんだよ!」


「言っただろう、貴様の素っ首叩き斬ると」


 虚無僧はそう言って柄に添えた右手に力を込め。


「ッ⁉︎」


 姿勢、重心、腰の高さ、姿勢を一切変えずに青年の目の前に接近し、刀を抜く。


「なっ⁉︎」


 青年は銃を虚無僧に向けようとするが、刀はそれよりも速く青年の首に迫る。


 だが、刀は青年の首を斬り飛ばす事無く、首元で止められていた。


「全く、やっと見つけたと思ったら殺し合いしてて焦ったよ」


 二人の間に割って入った少女が、虚無僧の刀を片手で抑え、呆れながら呟いた。


 少女は身長百六十センチ前半ほどで、明るい赤色の髪、鋭い目付きに燃えるような赤い瞳をしている。胸元と背中がはだけた黒のコルセットを着ており、丈の短い鱗のように艶のあるホットパンツを履いている。刀を抑えている手には赤い鱗が浮き出ており、一目で人外の者だという事が分かる。


「すまない、誰か知らないけど助かった!」


「気にしなくていいよ」


 少女は涼しげな顔で答えた。


「小娘、人ではないな? 物の怪の類か?」


「失礼だね、アタシは人間だよ。まあ、アタシの親は人間じゃないけど」


「そこな小僧といい、奇妙な人間しかいないなここは」


「そりゃそうだよ。なにせ、アタシらが元いた世界とは別世界らしいからね、ここは」


「はあ? どういう事だよ?」


 青年は首を傾げながら少女に問いかける。


「その辺の詳しい話は後でするから、二人共ついてきて。あ、この物騒な剣は閉まってよ」


 少女はそう言って刀を離した。


「おい、こいつも一緒なのか? 俺のこと殺そうとしてる奴だぞ⁉︎」


「貴様がその鉄砲さえ抜かなければ良かっただけに過ぎんだろう」


「だから自衛のためだっつってんだろ!」


「うるっさい! 黙ってついてきな!」


 少女はドスの利いた声で二人を怒鳴ると、巨大な城に向かって歩く。


「……女ってどこの世界でも怖えな」


 青年は少女に聞こえないように小声で呟くと、銃を仕舞う。


「その意見にだけは同感する」


 虚無僧も刀を鞘に収め、やはり少女に聞こえないように呟く。


「あ、そういえばまだ名前聞いてなかった。アタシはナキ、アンタらは?」


 ナキと名乗った少女は二人の方に振り向いて尋ねた。


「俺はケイト、ケイト・バベッジだ! よろしくな、ナキちゃん!」


「ちゃん付けで呼ぶのやめてくれない? 八つ裂きにしたくなる」


 ナキは笑顔でケイトを見るが、目は全く笑っていない。


「す、すんません姉貴……」


「よし。で、そっちは?」


 虚無僧に向かってナキは問う。


「拙僧に名は無い」


「え?」


「拙僧は名を捨てた者ゆえ、好きに呼ぶといい」


 ナキとケイトは不思議そうに顔を見合わせる。


「まあ、教えたくないってんならそれでもいいよ。それじゃ、行こうか」


 そうして、三人は巨大な白亜の城に向かって歩を進めた。


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