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美しくて奇妙な姿の男の人。
いくつくらいの歳の人なのかもわかりません。
すくんだように立ち止まって、私はただじっとその人の姿を見つめていました。
黒い犬が先に私に気づいて、こちらに顔を向けました。
犬の双眸は寂しげに光る淡い水色に見えて、
その顔つきは、まるで人が悲しんでいるように見えました。
そして私に向かって一声吠えたようでした。
なのに、普通の犬の吠え声の代わりに、
ゴウっと風の唸る音が耳に響きました。
犬に吠えられた私はハッとして、
声もかけずに男の人をジロジロ見つめていたことが、失礼だったと気づきました。
恥ずかしくなって男の人に向かって、なんとか小声で
「こんばんは」と言いました。
男の人は私を見つめ返すと、無言で薄く笑いました。
言葉が通じたのかは、わかりません。
鼻梁が高く端正で、透けるような青白い顔に冷たい湖を思わせる紫か紺色の瞳。
やはり噂通り、外国人のように見えます。
けれどその美貌はどこか血の気がなく、人間離れして感じられました。
特にその瞳の深さは、捉われてしまいそうに思われて、
私は急に背筋が寒くなり、怖くなりました。
薄く笑った彼の真っ赤な血の色の唇が、目の奥に焼きついたように離れません。
頭の中が脈打つようにボーとして来て、
ハッと気づいたらその人も黒い犬もいなくなっていました。
すれ違ったわけでも、立ち去った記憶もないのに。
その場から消えたとしか思えませんでした。
後でわかったことなのですが、
その日その人と出会った家で、
長く病気で伏せっていた若いお兄さんが亡くなりました。
その出来事の後、
「忌中」と掲げたその家の前を私は不可思議な気持ちで通り過ぎました。