表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田園奇譚  作者: のすけ
3/8

美しくて奇妙な姿の男の人。

いくつくらいの歳の人なのかもわかりません。

すくんだように立ち止まって、私はただじっとその人の姿を見つめていました。


黒い犬が先に私に気づいて、こちらに顔を向けました。


犬の双眸(そうぼう)は寂しげに光る淡い水色に見えて、

その顔つきは、まるで人が悲しんでいるように見えました。

そして私に向かって一声吠えたようでした。

なのに、普通の犬の吠え声の代わりに、

ゴウっと風の唸る音が耳に響きました。


犬に吠えられた私はハッとして、

声もかけずに男の人をジロジロ見つめていたことが、失礼だったと気づきました。


恥ずかしくなって男の人に向かって、なんとか小声で

「こんばんは」と言いました。

男の人は私を見つめ返すと、無言で薄く笑いました。


言葉が通じたのかは、わかりません。


鼻梁(びりょう)が高く端正で、透けるような青白い顔に冷たい湖を思わせる紫か紺色の瞳。

やはり噂通り、外国人のように見えます。


けれどその美貌はどこか血の気がなく、人間離れして感じられました。


特にその瞳の深さは、(とら)われてしまいそうに思われて、

私は急に背筋が寒くなり、怖くなりました。


薄く笑った彼の真っ赤な血の色の唇が、目の奥に焼きついたように離れません。

頭の中が脈打つようにボーとして来て、

ハッと気づいたらその人も黒い犬もいなくなっていました。


すれ違ったわけでも、立ち去った記憶もないのに。

その場から消えたとしか思えませんでした。


後でわかったことなのですが、

その日その人と出会った家で、

長く病気で伏せっていた若いお兄さんが亡くなりました。


その出来事の後、

「忌中」と掲げたその家の前を私は不可思議な気持ちで通り過ぎました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ