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再会


「ふぅ~~ん……」

 津駅を一通り見まわして気分が落ち着いたところで、そろそろ学校に向かうことにした。

 手続きを済ませるためだ。


 ◇


「先生、終わりました」

「ご苦労様」

「ではボクはこれで」

 手続きを終わらせ、先生に寮の場所を教えてもらったボクは学校を飛び出して光の家に向かうことにした。


「光の家には何回か遊びに行ったことはあるが、今もそこで暮らしているだろうか?」

 少々不安はあったが、それでも向かうことにした。


「へい、タクシー」

 道路に出ると幸運なことにタクシーは直ぐに見つかった。


「料金倍払うから超特急でここに向かってください」

 乗車すると目的地を伝えた。

「は、はい! わかりました」

 そしてタクシーは急発進。


 なに?

 若いんだから歩け?

 タクシーなんて使うと高くつく?


 そんなこと気にしてられるか!


 ボクは一秒でも早く光君に再会したいんだ!

 恋する乙女の底力を甘く見ないでよ!

 それにボクはお金持ちのお嬢様だからお金の事はあまり気にならないんだ。


 ◇


「着きました」

 タクシーの運転手はボクに気を使って可能な限り速くしてくれた。

 中々の名ドライバーだ。

「ご苦労様」

 さっさと料金を (倍) 支払って光の家の扉の前まで行く。


「キョロキョロ」

 相変わらず貧乏くさいアパートだ。

 今更だが光君の住んでる家は木造の安アパートでかなりボロい。

 はっきり言って彼の家は貧乏なのだ。

 そんなんだから彼を貧乏から救うためにも光君をボクの婿に貰ってあげないと! (超都合良い妄想)


「ドキドキ! ドキドキ!」

 しかし来たまでは良いが、いざチャイムを押そうとすると急に緊張してきた。

 心臓の鼓動もドンドン早まり。

「ハァ! ハァ! ハァ!」

 息も荒く、過呼吸気味。

 これじゃあ変質者もいいところ (汗)

 でもそれだけ光君を愛してるんだ!


 と、とりあえずカッコつけてみる。

 光君を想う気持ちでもドキドキしてるのだが。不安でもドキドキしていた。

 彼は今どんな姿に成長しているかだ。

 ボクが美少女に成長したように、光君だって九年もしたら成長する。

 当然と言えば当然だけど。どのように成長したかが心配なとこ。


「う~~ん……」

 腕組して考えてしまう。


 爽やかなハンサムボーイになっているか?


 それともボディービルダーのような脂ぎったたくましい男になっているか?


 あるいは痩せたもやしっ子か?


 はたまたデブのキモオタか?


「…………」


 考えていたら切りが無いな (汗)

 それに最悪光がボクと同じようにどこかで一人暮らしをしている可能性もあり得る。


「う~~む……」


(考えれば考える程不安要素だらけじゃないか!)


 所詮想像は想像。

 それで正しい答えにたどり着くのは難しい。

「……よし!」

 考えるのを諦めチャイムを押すことに。


『は~~い、今行きま~~す』

 すると直ぐに返事があった。

 しかし男らしい声だったが、喋り方がなんかオネエ系ぽかった気が……。


「は~~、どちら様ぁ♪」

「うっ!?」

 出て来た奴は真っ赤な頬紅塗ったケツ顎の目立つゴツイ顔した角刈りの婦人服着た痩せた男だった!?


(これが今の光君なのか!?)

 正直、これは予想外過ぎ。

 ボクは動揺した。


「あら、かわいい子ね。何か御用かしら?」

 光君はボクを見るとかわいいと言って誉めてくれるが、はっきり言ってキモい。

(これじゃあ愛せる気がしない……)

 光君がどんな姿でも愛するつもりでいたが。このような相手は愛する自信が無い。

 早くも自信喪失。


「あぁ……」

 力の抜けたボクは崩れるようにその場にへにゃへにゃと座り込んでしまう。

「あら、どうしたの急に座り込んじゃって?」

(原因はお前だよ!)

 と、心の中で思ったが。心配してくれる光君にそんなことを言える訳なかった。


「光君、なんでそんなになっちゃったの?」

 我にも無く本音をポロリと言ってしまう。

「え? 光君?」

 光君は頭にクエッションマークを浮かべて不思議そうな目でボクを見つめ直した。


「やぁねぇ。アタシ時矢ときやよ」

「あっ!」

 そうだった。光君には年の離れた兄がいたんだった。

 冷静に観察してみたら、この人は十五歳にしては老け過ぎている。


(ほっ)

 これに安心したのか心の中でほっと一息。

 抜けた力を取り戻して笑顔も生まれた。

「いやぁ、失礼。ボクは光君の古い友人でして、偶々近くまで来たのでちょっと顔を見せに来たんですよ」

 と、建前でそう言ったが、本心は光君に会いに来たのが本命だ。


「あら、そうだったの。ちょっと待っててちょうだい、直ぐに呼んでくるわ」

「あ、はい♪」

 時矢さんがそう言うとボクは営業スマイルしつつ返事した。

 しかし、時矢さんには三重で暮らしてた時に一度だけ会ったことがあるのだが、その時は凛々しいスポーツマン風の美男子だったのに、どこをどう間違えたらあんな風になってしまうのだろうか?

 昔の時矢さんは格好良かったのに、時の流れとは残酷である。

 本当、どうしてこうなった?


「光ちゃ~~ん。お友達が来てるわよぉ」

 時矢さんの喋り声が待ってる間聞こえてしまったが (時矢さんの声が大きいので) 男らしい声で女みたいな喋り方は凄まじいギャップと違和感だ。


(……光ちゃん?)

 また、時矢さんの言い方にちょっと違和感も感じたが。それは彼がオネエ系だからだと割り切った。

 今は光君が来るのを待つばかり。


「ドキドキ、ドキドキ♪」

 光君に再会できると考えると心臓の鼓動がドクンドクンと高まり、爆発しそうになる。

「ふぅ~~~~」

 緊張をほぐすために夕焼けを見ながら深呼吸。ちょっと落ち着いた (笑)

 しかし朝に東京駅を出発したが、もう夕方。

 結構速く行ったつもりでいたが、躊躇ったりしてしまったので時間のロスが大きく、結果として遅れてしまったのだ (汗)


 まあそれは程々にしておいて、本題に。

 はたして光君はどのように成長しているか?

 心配だ。

 なにせ時矢さんがあのように変貌していたのだ。


(光君もとんでもない変貌を遂げているのか?)

 などと思ったが、実はそこまで心配してなかった。

 なにせ時矢さんを見た後では、どんなのが出て来たとしても驚くことはないだろう。

 そう思いドーンと構えた。


「お待たせぇ」

 時矢さんが光君を連れて来た。

 これでボクの美しい姿を彼に見せられる。そう思ったが……。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 光君の姿を見て、ボクはこれ以上ない驚きの声を上げる。


 え?

 なにに驚いたかって?

 それは……。


「女の子!?」

 光君と言って出て来た奴はセーラー服を着たツインテールのよく似合う美少女だった。


「……光君なのか?」

「うん、そうだよ」

 まさかと思ったが、そのまさかだった。

 光君は女の子だったのだ。


「ああ……」

 体が足元から崩れていくような気がした。

 ボクはなんて勘違いをしてたんだ。女の子でありながら女の子に恋してしまうなんて。

 ショックだ。ショックで放心状態。


「え~~と。キミは?」

 そんな放心状態なボクに光君は名前を尋ねる。

「ボクは浅間のぞみ……」

 歯切れの悪い口調でボクは返事した。


「ウソ!? のぞみクンなの?」

 光君はビックリして目をパチクリさせた。


「のぞみクンが女の子だったなんて知らなかったぁ……。でも、とってもかわいいよ♪」

「……ありがとう……」

 一応お礼は言ったが、超投げ遣り。

「会いに来てくれて嬉しいよ♪」

「おわっ!?」

 投げ遣り気味に反応したが、光君は超嬉しそうにだきついてきた。


「あら、アタシはお邪魔みたいね♪」

 後ろでボクと光君を覗き見ていた時矢さんが意味ありげなことを言う。

 なんか誤解してるっぽい (汗)

 それもこれも光君のスキンシップが激しいからだ (怒)

 あらぬ誤解を招いてしまい、ちょっと腹が立ったけど、今はそんなことを気にしてる場合ではない。

「しかし光君、なんで幼稚園生の頃に男の子みたいな格好してたの?」

 光君がどうして幼稚園生の頃に男装していたのか聞かなくては。

「アレお兄ちゃんのお下がり。僕の家貧乏だったからね」

「なんと!?」

 ここでも時矢さんが絡んでいたとは。


(時矢さ~~~~ん!)

 ボクは心の中で大きな叫び声を上げた。


「だから小学校高学年になるまで新しい服を買って貰えなかったんだ」

「そうだったのか……」

 なんという事だ、そんな事情が。

 ボクは自分の本質を知る能力を恨んだ (と言っても、幼稚園生の頭で分かることに限界があるのだが……)


「でも、のぞみクンが会いに来てくれて嬉しいよ♪」

「……」

 光君は再会を無邪気に喜んでくれたが、ボクは自分の間違いと長年の想いが粉々に砕け散ったような気がした。


「むむっ」

 そう思うと無性にむしゃくしゃしてくる。

「……」

 その結果、だんまり。


「どうしたののぞみクン、黙り込んじゃって?」

 黙って立ち尽くすボクに光君は覗き込んでくるような姿勢をし、上目遣いでボクに目線を向ける。

 ホントかわいいな!

 

 光君の顔はムカつくぐらいの美少女だ。それに女性的な萌え仕草をするのだから余計に可愛く見える。

 それこそ、女として嫉妬するぐらいのね。

 もしもボクが男の子だとしたら一発で心を射止められていただろう。

 だが、ボクは女の子。その仕草に心動かされることはなかった。

 寧ろそれどころかイラついた。

 次第に沸々と怒りがわき上がってくる。


「クッ!!」

「キャァ!?」

 遂には我慢できなくなくなって、光君を跳ね飛ばして走り去った。


「のぞみクーーーーン!」

 光君は呼び止めようとしたが、ボクはそのまま走り続ける。

 自分でもなんでこんなことしたのか分からない。

 だが、自分の行き場のない怒りと溢れそうになった涙を見られたくなかった。

 だから逃げ出してしまったのだろう。

 今はがむしゃらに走り続けるだけだった……。





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