宣告
さて、今回は光君との分かれることになった経緯をお教えします。
楽しい時間はしばらく続いたが、終わりは突然だった。
「えっ!? パパ、今なんて?」
それは何気ない夕飯時に告げられた。
「東京に戻れることが決まったんだ」
本当に突然のことだった。パパが東京に戻ると言い出したのだ。
「これで東京に戻れるぞ。どうだ嬉しいだろ」
パパはニコニコ顔でボクに言ってきた。だが、全く嬉しくない。
それどころか東京に戻るなんて嫌だと思った。
「嬉しくないよ!!」
怒りに任せて食卓のテーブル殴りつけた。
「どうしたんだのぞみ!?」
ボクがテーブルを殴りつけるとパパはとても驚いた。
「そうよ。三重に来たばかりの頃は 「早く東京に帰りたい」 って言ってたじゃない」
ママもパパの味方してボクに反論した。
「そうだけどぉ……」
確かにママの言う通りだ。
だが月日が流れれば人の気持ちも変わるもの。この時のボクがそれだ。
「むぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
パパとママに反論したかったが、当時幼稚園児だったボクにまともな表現力は無く。頬を膨らませてプリプリと怒った。
「もういいよ!」
夕飯の途中だったが、ボクは席を立って自分の部屋に閉じこもろうとした。
「ちょっと、のぞみ!」
ママは止めようとしたが、ボクはそれにより先に部屋に入った。そしてドアの鍵を閉めた。
「のぞみ、開けなさい!」
「そうだぞ、のぞみ! 鍵を開けないか」
二人は部屋のドアをドンドンと叩く。
しかしボクは 「開けるもんか!」 と、意地を張って部屋に閉じこもった。
「あんなに東京に帰りたいって言ってたのに何が気に食わない?」
パパが説得しようと歩み寄ってくる。なんだかネゴシエーターみたい。
……今はそんなこと考えてる場合じゃないな。
「今は誰とも話したくないんだ!」
ボクはパパとママを突き放すような態度で接した。
その後もパパとママは懸命に説得させようとした。
しかしボクは沈黙し、それを貫いた。
◇
「アナタ、もう今日は諦めましょう」
「……やむを得ないか」
部屋に閉じこもってから三十分。とうとうパパとママが諦めたらしく、二人が部屋から離れる足音が聞えた。
それにより、ピーンと張っていた緊張が解けたような気がした。
「うっ……うぅぅ!」
だが、緊張感から解放されると急に目から涙がこぼれそうになる。
「くっ! うぅぅ!」
ボクは歯を食いしばって涙を堪えようとした。
けれど……。
「うわーーーーん!!」
我慢しようとすると余計に涙が込み上げてくる。
ボクはベッドに寝そべって大粒の涙を流し、枕を濡らした。
(大切な人との別れがこんなに悲しいなんて!)
光との別れを考えると悲しくて仕方ない。
会った当初はなんとも感じなかったのに、今では光はボクにとって掛け替えのない人になっていた。
知らず知らずのうちに光を異性として意識していた。ボクは光が好きだったんだ。
「うっ……うぅぅ……」
どうしたものかと泣きながら考えるが、どうしていいか分からない。
頭をフル回転させて三時間泣きながら考えたが、何も浮かばない。
まあ、幼稚園児の知恵では思い付かないのも当然と言えば当然の結果か……。
結局泣き疲れて眠ってしまった。
「所詮子供は大人の都合に振り回されるものなのか……」
幼くして味わった天国と地獄。
ボクは落胆した。