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トイレの外は異世界でした

それは同じ様な言葉が何度も出てきて、嚙み砕くように言ってくれているんだろうなとは思う。ゆっくり話す心遣いも、言葉は分からないながらも有り難い事だとは思う。


だけどその原因に大方検討の付いている私は、感謝というよりはそんなに言われないといけない事なの?と疑問に思う。だってたかたがタンクトップ、袖が無いだけの服だ。チューブトップとかキャミソールならまだ分かるけど、最早タンクトップは見られても恥らいすらない。


外国人ってタンクトップに寛容なイメージだけど、この美人騎士はどうも許せないタチらしい。逃がさないとばかりにガッチリ掴まれた肩が、理解出来るまで許しませんよと物語ってる。クタクタで言葉が分からない人間にだって容赦がない。うわーんお母さんごめんなさいと泣き出したい。


簡単な英語さえ通じなかった彼の、残念な私の語学力ではいまいちピンとこない馴染みない言語にうんうんと頷く。理由は分かっているし、納得はしてないが駄目なら仕方がないと譲歩する気ではいる。人生とは妥協の連続だと社会人の私はキッチリわきまえているのだ。何より1番はいろんな意味で早く解放してもらいたい。


間近くで向かい合う美人騎士の顔はあまりに整い過ぎてて、至近距離からなら大概あらの一つでも見付かるのに、文句のつけようがないくらい何の欠点もない。何処ぞのクリエイターが製作した作り物かと疑いたくなるほど人間味を感じない容姿をしてる。アンドロイドと言われても信じてしまいそうだ。


それに話している内容は幼稚園児レベルの事だろうに、淡々とした口調がまた怖い。手を払って逃げられない何かがある。美人が怒ると凄みがあるとは、こういう事なのか。


そんな美人騎士を遮って脱ぎそびれたベチャベチャの靴下が気持ち悪いから、一旦脱いでいいですか?なんて空気の読めないこと言えない。しかもマントが火の温もりを遮って寒いから、脱いでいいですか?下はタンクトップなんで大丈夫!なんて絶対言えない。


パチパチと火が音を立てて燃える暖炉の前で、あれこれ考えていた私は濡れたままでいるせいで冷えてきた体をブルリと震わせた。火を遮る上質なマントを憎らしく思う。低血圧で慢性的に冷え性の私からしたら地獄でしかない、床暖房の我が家が恋しい。


私の身震いが伝わったのか、美人騎士は言い聞かせる口を止めて黙りこくった後、結局あのポーズをとった。私の指先に触れ、体が冷えている事が分かったのかどうやら詫びている様子だったが、火のそばといえども私を座らせようとするのはやめて欲しい。ただでさえ寒くて嫌な予感が拭えないのに、底冷えでお腹がやられる。


頑なに床に腰を下ろさない私に美人騎士はその美麗な顔を傾げて、そして少し考え込んだ後胡座をかいて座り込んだ膝の上に私を抱え込んだ。


暖をとる為か背中をさすられながら彼の膝に収まる自分に頭を抱えたくなる。これでは直に地べたに座ることを嫌ったとか思われていそうだ。そんな傲慢な我が儘人生で一度も言った事がない。


当然のように受け入れて私を温める美人騎士に、自分の役がなんとなく分かった。認めたくないけど、きっとお姫様だ。しかもなんだか幼そうだ。大学を卒業してやっと就職出来たと思ったら、高卒の派遣の女の子におばさん扱いされた23歳の私としてはなかなか辛い役柄だ。思い出しただけで涙が出てくる。


手足の冷えをどうにかしたくて、靴下を脱いで手と足を火に近づけると、美人騎士がすかさずはだけないようにマントの合わせ目を掴んだ。


撫でていた背中はいつの間にかトントンと一定のリズムで叩かれ、茶髪の騎士が暖炉の側へやって来る頃にはウトウトしていた。


いつの間にか小屋の外は静かになっていて、パチパチと鳴る暖炉の音に時折2人の騎士の話す声が混じる。


美人騎士に抱えられた私は彼が喋る度に伝わる振動や呼吸や心臓の音に、何だか幼な子のように心地がよくなって、小さな子が母親に甘えるように胸に擦り寄って眠りに落ちた。


それからどれくらい眠っただろう、目を覚ました私は至近距離にある美人騎士の顔を寝起きの頭でぼんやり暫くたっぷりと眺めてからいそいそと起き上がった。いつの間にか横に寝かされ美人騎士と抱き合う形で眠っていたようだ。


トイレに入って出てきたら何処か知らない所だったというのはあっても、寝て起きたら全部夢だったとかいうのは無いらしい。得体の知れない現実に戻ってきて、お手上げ状態は継続する。


動き辛いくらいしっかりとマントに包まれた体で立ち上がると、茶髪の騎士がしてくれたでだろう、高い位置に干してある自分の服とそこに並ぶ暖炉の側に脱ぎ捨てた靴下を見て、何て親切なんだろうと感激した。


高性能なマントのおかげで下着とタンクはまだ生乾きだったが、流石運動用に作られたジャージのズボンは格が違う!乾きが早い!


これまで余り着目して来なかったジャージの素晴らしさに感動しなが歩み寄ると、温もった小屋の空気に干してある服は乾いていたので、きっと外に出れば冷たくなるであろうタンクトップは脱いでしまう事にした。少しでも体が冷える要素は排除しておきたい。


着替えるにあたって、タンクトップごときであんなに言う男だと振り返って様子を伺えば、先程と変わりがないのでどうやらまだ眠っているらしい。茶髪の騎士の方も壁に凭れて動かない。


今がチャンスとマントを脱いでタンクトップを脱ぎ捨てると、長袖のTシャツを頭から勢いよく被って腕を通す。女は勢いが大事!


何だか深い溜め息が聞こえた気がするけど、きっと振り返ったら負けなのだ。気付かない振りをして押し切るのみ!


Tシャツの上からジャージを羽織ると、馴染みのある滑りの悪いチャックを引き上げる。気心の知れた親友のような落ち着く着心地、いまだかつてこんなにジャージに愛着を持った事があるだろうか。ごめん、今まで軽く見て雑な扱いをして。


床から脱ぎ捨てたタンクトップとマントを拾い、少し高い位置にある紐にタンクトップを放り上げる様にして干すと、その上にマントを被せて干した。


私はタンクトップに特に何も感じないんだけど、どうしても駄目だって言う人がいるもので、目に入らないようにとの配慮だ。大分グチャグチャだが、まぁ背が届かないのでそこは仕方がない。


やり遂げた感を伴いながら振り返ると、美人騎士は氷のような冷たい視線で私を手招いて呼び、茶髪騎士は頭を抱えて俯いていた。



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