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眠り姫の後悔  作者: 翡翠
1/2

目が覚めた日。

私は明日を迎えるはずだった。いつものように聞き慣れた目覚ましで目覚め、だるい体を起こしカーテンを開け、朝の日差しを浴びる。そして携帯を手に、一階の洗面所へいって顔を洗い、リビングへと向かって朝ごはんを食べるのだ。そう、「今日」も、そうなるはずだった。

それなのに私が迎えた朝は、「今日」でもなく「昨日」でもなく「一昨日」だった。




01



ピピピピッピピピピッ

「んーもー、うるさい」

変わらない場所にある目覚ましを止めて、むくりと起き上がった。今日は十月一日、新しい月の始まりだ。

別に今日何か特別なことがあるだとか、何かの記念日だとか、そういうのではない。だが、月の一番初め、そう思うとなんだか今日からでも頑張ろうと思えた。

携帯がしっかり充電されてあるかどうかを確認するために、画面を見た。ちゃんとマックスになっているのを見て、安心した、が。

「?九月三十日?」

携帯に表示されているのは十月一日のはずなのに、何故だかそこには今日でも昨日でもない、一昨日の日付が示してあった。念のため、他の昨日におかしなところがないかを一通り確認したが、とくに変なところは見当たらなかった。日付機能だけがおかしいのだろうかと不思議に思いながら、階段を降りた。

顔を洗ってリビングに行くと、朝ごはんが用意されている。

そこに置いてあるのは一昨日食べた菓子パンとコーンフレークで。不思議に思ったが、とりあえず母に文句を言うことにした。

「ちょっと、これ、一昨日も食べたやん。そんなに好きじゃないって話したよな?」

そう言うと、そんな私を見て「は?」と不服そうに言い返す。そんな母はどう見ても冗談を言っているようではなくて。私は頭が混乱して仕方がなかった。

「バカなこと言わんと早く食べ」

しぶしぶ椅子に座って、一昨日食べたはずの菓子パンを頬張った。やはり、好きではない味が口の中に広がって、顔をしかめる。気を紛らわせるためにリモコンを手に取りテレビをつけた。そのには私の好きだった俳優がうつっていた。けれど、彼は昨日薬物乱用だか何だかで逮捕されたはずだ。ショックだったのをよく覚えているから、間違いない。だから、それに関するニュースだと思った。それなのに。

「新ドラマの魅力を語ってもらいましょう!」

「はい?」

若い女性アナウンサーは、ニコニコを笑って彼にマイクを向けていた。私はこの光景を見た。間違いなくだ。それに、逮捕された彼がこうやってテレビでチヤホヤされるのもおかしいだろう。

「な、なんで……?」

天気予報を見ても、お母さんやお父さんや弟に聞いても、誰もが当然といった顔で一昨日の日付、「九月三十日」の日付を口にする。いつもの家族、いつもの変わらない風景なのに、妙な懐かしさを感じるとともに、自分だけが違うという虚無感も同時に襲いかかる。

頭が混乱してもう考えることすら億劫になり始めた時。家に、チャイムの音が鳴り響いた。

その音が耳に入ってからの私の行動は早かった。食べかけのパンを置いて、寝癖のひどい髪なんて気にもとめずに玄関へと。「誰ですか」なんて、聞かなくても分かっていたから。

「もみじ? どうしたんそんなに急いで。まだ時間あるで?」

「ゆう……」

ドアを開けた先に立っていた、幼馴染の堺夕(サカイユウ)。彼はいつも早めに私を迎えに来てくれるから、チャイムを鳴らしたのは絶対に彼だと思っていた。いつもと変わらずカラカラと笑う彼は、私の好きな人で、大切な人で。最後に、彼にかけることにした。ああ、お願いだ。頼むから。

「なあ夕、今日って何日?」

そして彼は笑っていうのだ。

「九月三十日やで?」

その、彼を。

懐かしいと思わなかったのは、なぜ?

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