表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

ep.1

 親戚関係に有るグラズス家とレストレア家の子が、同日同刻に生まれてから、実に六年の時が流れていた。

 そして物語は、グラズス邸の裏庭から始まる。

「アイリ、アイリ~!」

 幼い男の子の声が、綺麗に手入れされた裏庭に響く。

 そこに植えられた、ひときわ高い樹木の枝に、長い金髪の後ろ姿を認め、男の子はそちらへ駆け寄った。

「アイリ!」

 下から掛けられた声に、長い金髪を揺らして、女の子が振り返って男の子に笑い掛けた。

「ホーク! 上がってらっしゃいよ。風が気持ち良いわよ?」

 数クルン(一クルン=約二メートル)の高さだと言うのに、女の子……アイリーシャ・レストレアは怖がるそぶりも見せずに男の子へ声を掛けた。男の子……レイホーク・グラズスは、幼さにそぐわない渋面を作り、アイリを見上げた。

「アイリ、そんな所に登ってるのを見つかると、またリーザ母さんに怒られるよ?」

 呆れたように言うホークへ、アイリは得意そうに鼻を鳴らす。

「ふふん♪ 大丈夫よ? リーザ母さんならママに買い物を頼まれて出掛けたのを確認してるから!」

 なんとも抜け目無い従姉に、ホークはため息を吐くと、自分も木を登り始めた。

 ちなみリーザ母さんとは、ふたりの母親ではなく、この二人を取り上げた乳母である。

 さて、六歳頃と言えば、物心が付きわずかながらに大人しくなる子供も居るものだが、このふたりは輪を掛けて大人しい……いや、落ち着いていた。

 やがて登りきったホークは危なげなくアイリの隣に腰かけた。アイリはそんなホークに視線を走らせてから微笑み、彼に寄り添うように移動してから、ふたたび眼前の光景に見いった。

「……やっぱり異世界だね」

「……そうだね」

 呟くアイリに、ホークが答えた。目の前に広がるのは緑に彩られた大地、白く輝く山々、蒼い鏡のような湖。彼らが知っていた世界の光景とはまるで自然の規模が違う。さらに天に輝く太陽に寄り添う蒼い太陽や、遠くの空に浮かぶ島の存在が、この世界が異質であると、ふたりの頭の中にある常識が訴えていた。


 ホークとアイリは転生者だ。


 同日同刻に同じ病院で従姉弟同士として生まれたふたりは、比較的近所に住んでいて、特に仲が良い親戚だったため、双子のようにして育った。そして十九才まで生きてきた彼らは、ある日揃ってよそ見運転していたトラックに轢かれて死んだ。

 そして、破壊の神を名乗る女の子により、この世界に産声をあげることになった。

 奇しくも、再び同日同刻、同じ家で、従姉弟として生まれたのだ。

 はじめは互いに気づいていなかった。

 赤子としての生活は目まぐるしく、羞恥など感じる暇は無い。何より赤ん坊の学習能力を甘く見てい事を後悔したほどだ。

 赤ん坊は、外界からの刺激をすべて余すこと無く情報として集積し、シナプスを繋いで自我を形成していく。

 しかしふたりはすでに明確な自我を持っていた。その為、赤子ながらに受けとる情報の山をチョイスして効率良く脳に焼き付けていった。

 結果、一才を越える頃にはハッキリ喋り、二本の足で歩いた。

 それからも、この世界の事をまるでスポンジが水を吸収するかのように学習し続け……揃って熱を出した。


 知恵熱である。


 脳を使いすぎて発熱したのだ。

 ふたりで並んで寝かされたベッドの上で、互いにぼんやり呟いた前世の記憶に、お互い驚き、熱が冷めない内からお互いの記憶を話し合い、確信を持った。こうしてふたりは、もう二度と会えぬと諦めていた相手に再会したのだ。

 それ以降ふたりは、寄り添うように一緒に居ることが多くなった。失った時間を取り戻すように仲睦まじく。

 軍人の家系である両家は、そうしておとなしく手の掛からないふたりを微笑ましく見ていた。宮廷魔術師であるアイリの父は、かなり嫉妬していたが。

 しかし、互いの存在は強く前世を思い起こさせた。

 思い出された前世の家族とのおもいでは、ふたりに強い悲しみを与えた。そんな彼らに今世の家族達は理解しきれないながらも、惜しみ無く愛情を注いでくれた。

 そんな家族達だからこそ、ふたりは改めてこの世界で、この家族と生きていくと決意して、前世の家族の記憶を心の奥底に沈め、家族の愛に応えていった。

 それでもふたりはこの世界の知識を吸収し続けることを辞めなかった。

 そして。

「……この世界で分かった事は、剣と魔法の世界だってことと……」

「……なぜかロボがあるんですよね。この世界」

 苦笑気味にホークが言うと、アイリも苦笑した。

 そう、典型的な中世代のファンタジーっぽい世界だったが、なぜか人型兵器がある。

 これは、この世界に居る強力な怪物などに対抗すべく作られた、鎧甲機アムルドギアと呼ばれる兵器だ。

 より一般的にはアムルドと呼ばれる。

 錬金術と魔法によって造られた、鋼の巨人である。

 初めてそれを目にしたときは揃って仰天してしまった。なにせ二クルン(約四メートル)ほどのブリキのカゴのようなボディに、鳥の足のような逆関節のロボが、馬車を牽いていたのだ。

 ホークの父を迎えに来たそれに、ホークとアイリは目を輝かせて両親を質問攻めにしたのだ。

 そしてついこの間、ふたりはアムルド部隊を率いる将軍職に有るホークの父、ガルド・グラズスと約束していた訓練場見学をしてきたのだ。

 全高は四クルン(約八メートル)。全身鎧を纏った騎士のようなそれが二体、巨大な剣と盾を手に打ち合っていた。

 腹に響く重低音と甲高い金属音。

 人間同士のそれとは違う大迫力の剣戟に、ふたりは揃って口を開けたまま見入った。

 生前、一緒に遊ぶことが多かったせいか、ふたりの趣味は似通っていた。

 体を動かすことも好きだったが、ゲームも好んだ。

 特に、メカのカスタマイズ系シミュレートアクションは、大いに填まり込んだゲームだ。

 そんなふたりが揃って本物のロボを見たのだから、その興奮たるや凄まじいものだった。

 なにしろ見学に連れていったホークの父が引くほどだ。

 彼にして見れば、六歳児のふたりが意味不明の単語を交えてすさまじい勢いで話続けている光景である。無理も無いだろう。


 それから家に帰り着いたふたりは、興奮冷めやらぬままに、アムルド関連の本を読み漁った。

 いまだ柔軟かつ学習能力の高いうちに、転生者ならではの理解力の高さを持つふたりは、話し合いながらの勉強していった。これは、かなり効率良く進んだ。

 もし、ふたりの両親がその場を目撃していたら、驚くでは済まなかったかもしれない。

 ガルドが関係者だったこともあり、その書斎には専門書もあったため、ふたりは瞬く間にアムルドの基礎知識を習得し、それを操るのにどんな能力や技術が必要になるのかまで知り得た。

「基本的には魔力で動くんですよね」

「うん。後は精霊機関との相性か大きいね。それから操縦と魔法の技術。機体へのフィードバック効果を考えれば、最終的には生身での戦闘技術も必要になるね」

「クリアするべき課題は多いですね~」

 挙げられた課題は多い。しかし、アイリもホークも楽しげである。

「……後の問題は兵器である点かなあ」

「突き詰めれば人を殺すための道具。ですからね」

 そう、建前上はこの世界に多く生息する巨大魔獣に対抗するための兵器だが、実際国家間の戦争にも使われている。


 アムルドは殺戮兵器でもあるのだ。


 しかしそれでも、だ。


 巨大な人型を、自在に操る魅力は大きい。


 だからふたりは、準備を開始し始めた。

 今だ六歳児であるということを考慮した場合、無理な修練は体を壊すだけだ。となれば主たるものは勉強。そして、将来を見越した身体作りである。

 まず、ふたりは転生前に身に付けていたいくつかの技術を書き出した。

 組み打ちを主とした古武術を源流とする護身術。

 転生前の祖父が古武術の達人で、護身術としてアレンジしたもので、孫達が身を守れるようにと厳しく指導された。そのときの修行も今と同じくらいの歳からやらされたが、あの頃は修行内容の意味が分からず泣いたりサボったりしていた。今ではそれも良い思い出でどんな効果があるのかが良く分かっているため、ふたりともそれを黙々とこなせる。また、技の大半や修練方法などは覚えている限り書き出していった。

 次に書き出したのは祖父の伝で冗談半分で受けた自衛隊のサバイバル訓練の知識と技術。

 この世界の動植物は、転生前に近いものと、この世界独自ものが入り混じっていてその辺りは覚え直しが必要ではあるが、技術は有用だと判断したからだ。

 さらには、ゲームなどのロボ知識。

 どこまで役に立つかわからないが、とっかかりになればと書き出した。

 書き出しが終わればふたりで修行を組み立てる。

 鎧甲機の操士は、花形職業だ。これを育成する学校もあり、ホークもアイリも躊躇無くその道を選んだ。とはいえ、入学は三年後である。修行する時間には事欠かない。

 魔法もそうだ。こちらは転生前の記憶には無い技術。

 ゼロから覚える必要がある。

 この世界では魔法は軍事方面を主に割と浸透しているため、ふたりがこれを覚えたいと両親達に願い出たところ、大喜びで許可をくれた。

 そちらはアイリの父とホークの母が担当してくれることになった。

 アイリの父、カルナード・レストレアは宮廷魔術師で、その知識と技術は国内一と言っても良い。仕事が忙しくたまにしか教えてもらえないのが難点だが、それを差し引いても最高の教師だろう。

 また、ホークの母、ミスティカ・グラズスも結婚前は一流の魔法騎士だったらしい。おっとりとした女性だが、その流麗な剣技と魔術の技は、見るものを魅了したと言う。

 それを知ったホークとアイリは、これ幸いと、剣の手解きもねだってみた。

 ミスティカは少々困りつつも、幼くして様々な知識を習得した我が子と姪がどこまでやれるのかを知りたいと言う誘惑に駆られた。そして最後には折れたのである。

 こうして、まだ幼いふたりの慌ただしい生活が、幕を開けたのだ。




「……つまり、魔力の総量は基本的には本人の精神力と魔術制御技術によって増大していくものなのよ」

 ミスティカの説明を受け、ホークとアイリはうなずいた。

「基本的にということは、例外があるんですか? 母様」

「ええ、それ以外にも精神の集中方法やイメージの持ち方で消耗の軽減をしたり、魔力を直接制御する技術もあるのだけど、でも、やはり基本は制御技術の向上ね。ここを疎かにしては魔術の使い手として三流以下になってしまうから、決して忘れないように」

『ハイ!』

 元気の良いふたりの生徒の返事にミスティカは笑みを浮かべた。

 ふたりとも、年齢にそぐわない理解力を示している。

 態度も真面目で真摯であり、良き生徒であることは明白だった。

 だからこそ、様々なことを教えたくなる。

「後はそうね。あなた達の精霊との相性や自分にあった焦点具の作成も重要ね」

「焦点具?」

 アイリが首を傾げる。それを見てミスティカはアッとなる。

 子供達が優秀な為、説明を先走ってしまった。

「ごめんなさい、説明してなかったわね。焦点具というのは、意識の集中を助けるための道具よ。発動したい場所へ焦点を合わせやすくするための道具で、一般的には杖を焦点具にする人が多いわね。それだけでは無く、その人にとって扱いやすければ剣や指輪を焦点具にする人も居るわ。それは人それぞれね。ちなみに私はこのレイピアね」

「狙いを付けるために必要? 銃みたい……」

「……じゅう?」

 腰に下げた突剣を軽く叩いたミスティカは息子が漏らした単語に、不思議そうな顔になった。

 それに気づいてホークが慌て始めた。

「あっ?! な、何でもないです母様」

「そうですミスティカおば様。それより、焦点具には狙いを付けるしか意味が無いんですか?」

「え? い、いいえマジッククリスタルを追加したり、触媒を充填して魔法の強度を高めたり出来るわね」

 慌てるホークをフォローするように質問してきたアイリに,ミスティカは戸惑いながらも答えていった。

 そんな風に魔術の基礎知識の授業は進んでいった。




「うん、アイリちゃんは光と風、レイホークは光と闇以外との相性が良さそうね。見てご覧なさい? 精霊が強く反応しているでしょう?」

 ふたりの周りでそれぞれ踊る六種の精霊の様子を見て、ミスティカがうなずいた。

 ふたりは言われるままに周りを見る。と、アイリの側では光の玉と小さなつむじ風が、ホークの側では小さなつむじ風と火の玉と、砂礫、水球が楽しげに踊る。

「反対に大人しすぎて消えそうなのは相性が良くない精霊ね。制御技術が上がれば、それらの精霊を扱えるけど、まずは相性の良い精霊で制御を覚えるのが良いわね」

「わかりました」

 声を揃えて返事をするふたりにミスティカは微笑んだ。が、内心では驚愕を禁じ得ないでいた。

 なぜなら息子は稀少なカルテットエレメンタル……つまり四大精霊使い、アイリはこれまた稀少な光の精霊使いになれる。

 しかも今の精霊達の反応からすれば、その力は十全に発揮されそうである。

「……これは教え甲斐があるわね」

 ふたりが集中して精霊達を制御しようと悪戦苦闘しているのを見て、ミスティカの口元に笑みが浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ