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黒烏盗賊団  作者: 朝霧 知乃
=ルギ編=
13/14

日常編№4 ―薬草の秘密―

冬の寒さがまだ身に染みる季節。

雪深い黒烏盗賊団のアジトでは、朝から団員達が大忙しと駆け回っていた。


今日はネオスが、長期遠征から帰ってくるため、団員で慰労会を開催することになったのだ。

そのため、買い出し班のルギは、ラシェルを誘った。

街に着くと、ルギはラシェルにメモを渡す。


「これは食材屋で、こっちは薬草屋で頼む。あとの買い物は、あんたの料理のセンスに任せる。荷物が多くなるだろうから、買い終わったら、そこのカフェにいてくれ」

「はーい」

「俺は酒樽を買ってくるから、酒屋あたりにいる…何かあったら、呼んでくれ」

「うん、わかった」

「じゃ、あとでな」


そうラシェルに言うと、ルギは酒屋へ向かった。

ラシェルも、渡されたメモを確認しながら、どのルートで買い物をするか、考えながら歩きだした。

そして、メモを手にしながら、ふと思い付く。


(そうだ! 今日は、ルークさんのためだけの料理、別に何か作っちゃおかな? そしたら、あの鈍いルークさんでも、いくらなんでも気づいてくれるはず…!)


そしたら、そしたらもしかして…!

なんて妄想しながら、ラシェルの頬はつい緩くなっていた。



一方ルギは、酒屋で酒樽を買い、荷馬車に積んだ。

山道が急なため、沢山買い込めるわけではない。


(とりあえず、四樽あれば、今日くらいはもつだろ…)


荷台に重い樽を積み込みながら、腕でぐいっと汗を拭った。

さらに、荷台の空いているスペースに、ワインやシャンパン、果実酒等のアルコールの類の瓶を詰め込む。


(おっ…と、そうだ)


ふと気づき、慌てて荷台のスペースを確保し、そこに、蒸留水やサイダー等を詰め込んだ。


(酔っ払われたら、敵わないからな…)


酒に弱い団員達の姿を思い出し、渋面になる。

あとは、押しの強いダインが、無理矢理飲ませないことを祈るだけだ。

ルギの買い物は、重量はあるものの、品種は少ないので、割と早く終わってしまう。

逆に、ラシェルの買い物は、軽量だが種類が多いので、時間がかかる。


(適当に、つまみの材料を買ったら、合流するか)


ルギは厩舎に荷馬車を預け、乾物屋へ向かった。



…その頃、ラシェルは一通りの食材を買い、薬草屋に来ていた。

大量の食材を持って歩くのは難儀なため、店の隅に置かせて貰っている。

ラシェルは、メモに書いてある薬草や香料を、手早くカゴに入れていった。


(見たことない薬草の名前とかあるけど、何に使うんだろ…?)


そんなことを、頭の片隅で思い付つ、それでも早く帰るために、急ぎ足で店内を回る。

しかし、一つの棚の前で足を止めた。


『媚薬』


(わぁ~~! 本当にあるんだ…っ)


なんだか、無性に気になってしまい、恐る恐る、棚に手を伸ばす。


「………ふーん」

「わっ!!」


後ろから不意に聞こえた声に驚き、ラシェルは、数十センチ跳びはねた。

慌てて後ろを振り返ると、ルギが立っていた。


「べっ、別に使う気なんかないんだからねっ?! どんなのか見てみたかっただけ!」


顔を真っ赤にしながら、ラシェルが言うと、ルギはため息をつきながら言った。


「…別に、使いたきゃ、使えば? 効いたら良いだろうけどな。…ばれたら、余計避けられそうな気がするが」

「うっっっΣ」


痛いとこをつかれる。

確かに、使ったとしても、ばれた後が怖い。


それに、薬物や毒薬はルークの専門分野。ばれないわけがないのだ。

ルギは、しょげるラシェルを見て肩をすくめた後、少しの間をおいて言った。


「……ブラッドベリー、食ったか?」

「えっ?」


そういえば、さっき食材屋で、美味しそうな、小さな深紅の実を試食してきた。


「ついてる」


不意に、ルギはラシェルの唇の縁を自分の親指で拭い、ペロッと拭った指を舐めた。


「~~~~~!」


思わず、ラシェルは口元を抑える。


「…甘いな」

「あっ、甘いよ!」


突然の出来事に、あたりまえなことしか返せない真っ赤な顔のラシェルに、ルギはフッと笑った。


「…まぁ、頑張れ」


ポンポンと、頭に手を乗せるルギに、ラシェルはイィ~っと歯を剥いた。


「…じゃ、お前の買い物が終わったら、帰るか」


そう言って、ルギは店の隅の食材の山を、荷馬車に運びはじめた。

ラシェルは、納得しないまま、とにかく急いで、買い物を済ますのだった。



その夜は、大宴会だった。

ルギとラシェルが用意した料理が、大量に振る舞われた。

特にルギは料理が得意だったので、つまみや魚の香草焼きを作り、酒好きの団員から歓声が上がった。

ラシェルは、こっそりとルークの側に座り、せっせとみんなのために料理を取り分けた。

ルークに渡した皿は他の団員より多めに料理が乗っている。


「すみませんラシェル…こんなには私はいりません」

「そんなこと言わず、一生懸命作ったんですから、いっぱい食べてください♪」


ニコニコ嬉しそうなラシェルに反論できず、ルークは黙ってワインを口にした。

ルギは、あまり食も進まないので、給仕に徹していたが、ふと、買い出しで頼んだ薬草を思い出す。


(あれ…そういえば…?)


サラダの隠し味に使おうと思っていた薬草が、1品、足りなかったことを思い出した。

そして、ふと気づくと、ダインが大きな口で、サラダを掻き込んでいる姿が見えた。

その手元の皿には…


「あっ! ダイン、駄目だ!」

「んがっ?」


大量のサラダを頬張りながら、巨漢の髭戦士ダインが、素っ頓狂な声を上げる。

時すでに遅し。

ダインのサラダ皿は、すでに半分なくなっていた。


「あぁ…食っちまったか…」


ルギが肩を落とす。


「…まぁ、死にはしないし、…残りも食べちまってくれ」

「ん、なんだぁ?」


そう言いつつも、ダインは皿を空にした。

そのダインに向かって、ルギは冷めた顔で言う。


「あんた、今『ミヤマシノブ』っていう薬草を食べた。…薬草っていっても、効果は…」


ルギがそう言った時、ダインの目頭が、強烈に熱くなった。


「うぉっ! なんだぁ!?」


ダインが叫びつつ、目を抑えた瞬間。

ポンッ!という軽快な音とともに。

ダインの眉毛が、玉簾の様に伸びた。


「…眉毛が伸びる薬草だ…。しかも量が多いから、柳の様に生えるだろうな…。まぁ、明日には効果が切れるし、剃れば治るから、いいだろ…」

「そういう問題か~~~!っ!」


青い顔で叫ぶダインの指の間からは、相変わらず、眉毛がにょきにょきと生えつづけた。

それを見た、アジト内の団員は、一瞬の沈黙の後、大爆笑の渦に包まれた。


「なんとかしてくれ~~~!!!」


ダインの、天を裂く切ない悲鳴と、アジト内の朗らかな笑い声は、翌朝近くまで続いたという…。


……予断であるが、ルギが欲しかった薬草は、ミヤマシノブの一つ隣の棚にあったため、ラシェルが買い物を焦ったときに、間違ってしまったものであった…。


=FIN=

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