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黒烏盗賊団  作者: 朝霧 知乃
=ルギ編=
12/14

日常編№3 ―四葉の秘密―

アルスが、黒烏団に復帰してから1週間後。

ルギは、休日に再び街に来た。


仕事中は、ひたすら訓練や仕事に集中し、妹のことも、ラシェルのことも、なるべく早く忘れることが出来るよう、何も考えないようにしていた。

食事の時間は、ラシェルと否応なしに顔を合わせてしまうので、出来るだけ早く退席した。

自由な時間は、なるべくアジトにいないよう、散歩かトレーニング、休息に当てていたし、休日も、アジトにいない方が気分転換になる。

ルギは、旅人で賑う街中を、あてもなくブラブラと歩いた。



*********************************


街は、先日来たときと同じように、相変わらず冒険者で賑わっていた。

人の多いところがあまり好きではないルギは、極力、人気のない場所を歩く。

剣の仕込み用の革を買ったり、砥石を買ったりと、装備の手入れ道具を買うのが、街での決まった行動だった。


(休日も、お決まりのパターンだな…)


買い物を終えて、ルギはため息をつく。


(このまま帰ってもすることがないし…コーヒーでも飲むか)


ルギは、通りに面したオープンカフェに向かった。

―――日差しが暖かく包みこむ、白の装飾が優雅なテーブルにコーヒーを置き、備えつけのラックから、冒険者用の情報誌を取る。

ちびちびとコーヒーをすすりながら眺めていると、ふと、斜め向かいの椅子を引く存在がいた。


「相席いいですかぁ?」


ニッコリと笑いルギに問うのは、真っ赤なふわふわウェーブの髪が可愛い、黒縁眼鏡をかけた、見たことのない女だった。

ルギは、眉間にシワを寄せながら、呟いた。


「…ああ」


女は「やったぁ♪」と椅子に元気よく座り、ミニスカートで隠しきれない脚線美を出しながら、足を組む。

花柄ネイルの綺麗な指で、軽くレモネードのストローを摘むと、綺麗に整ったシェルピンクの唇でくわえて、一口飲んだ。

まるで、女がいる場所だけ、季節が違うようだった。


「寒いのに、よくそんなのが飲めるな」


とルギが言うと、


「美容と健康にいいんですよぉ~♪」


と、女はウィンクする。


ルギは、黙って雑誌に視線を戻し、コーヒーを飲んだ。

そんなルギに、女は椅子を近づける。


「何をしてるんですかぁ?」

「別に。買い物だ」

「そうですかぁ…。このあと、一緒にランチ食べません?」

「結構だ」

「えぇ~…ざんねぇん」


残念そうに言う女に、ルギはさらに言う。


「…大体、あんた仕事中なのに、そんな暇あるのか?」


女の動きが止まる。


「…勤務中に、お茶だのお食事だのナンパだの、いいご身分だな、アルス」

「…げっ」


とたん、女は野太い声を上げる。

アルスと呼ばれた女は、顔をしかめた。


「まさかお前にばれるとは…。この俺一生の不覚!」

「見ればわかるだろ?」


ルギが簡単に言う言葉に、アルスはカチンときた。


「…お前な! 変装が見てわかるようじゃ、仕事になんねぇだろ? 大体、俺の変装を見破るのなんか、頭領、ルークとお前くらいだわ」

「3人もいたら、駄目なんじゃないのか?」

「あの二人が別次元なんだよ!」


と、アルスがヒソヒソ怒鳴りながら、眉をしかめる。


「…おっと、お前も外では、俺のこと本名で呼ばないでくれよ。素性がばれたら困るからな」

「…ああ」


ルギは興味なさそうに言った。

ルドベキアの盗賊ギルドで、散々変装の名人を見てきた。

アルスは、本当に普段とは別人のようだったが、ルギがアジトで嗅いだことのある香水をつけてたのだ。

アルス-女装中はリナと呼ぶらしい-は、赤毛の髪をふわっとかきあげ、再び女言葉になる。


「…それで、その後は何かあったのぉ?」

「…?」


訝しげな顔をするルギの鼻に、リナは人差し指を突き付ける。


「…押しが弱いわね~! そんなんじゃ振り向いてくれないわよ!」

「…だから何のことだ」

「なんのって…ラシェルのことでしょ」

「何で、ラシェルの話になるんだ」


突然出てきた名前に、ルギは困惑した。


「…あんた、遺跡で、命はってラシェルを助けようとしたらしいじゃない。意識してるんじゃないの?」

「たまたまだ」


そうルギが言ったとき、ふと、リナが視線をあげる。


「…あ、ラシェルだ」


その名前に、ルギの胸がドキッと高鳴った。

振られたとは言え、諦めるにはまだ時間がかかる。

意識しないようにするのは、もう少し時間が必要だった。


(たしか、あいつも休日か… )


ルギは早まる鼓動を落ち着かせながら、冷静にスケジュールを思い出していた。

ラシェルは、通りの向こうで、買い物袋を腕に下げながら、ポテポテと歩いていた。

チラッと、ルギが見ると、ラシェルもこっちに気づいたようだ。

その途端、リナが、ルギの手を両手でギュッと握り、愛おしそうに、指を絡めてきた。

しかし、ラシェルは見なかったようにプイと目を逸らし、何事もなかったように、通りの向こうに消えて行った。


「…ありゃー、脈無しじゃん」


リナが呟く。


「…離せ、気色悪い」


ルギが、バッと手を払う。

そんなルギに、リナが身体を近づけて囁く。


「ルギさぁ~、もうちょっと頑張ったほうがいいよ? いつまでも、ラシェルに振り向いて貰えないよ?」

「なんで俺が?」


別にいまさら、振り向いて貰う気などない。

彼女が幸せなら、それでいい。

しかし、リナは、再びコーヒーを口にふくむルギの耳元に唇を寄せ…囁いた。


「………プロポーズ、したんでしょ?」


ゴバァっ! っと勢いよく、ルギの口からコーヒーが出た。


「き、汚ねぇっ!」


思わず素になるリナに、ルギが真っ赤な顔で怒鳴る。


「な、な、な、なんの話だ!」


焦りまくりで、動揺するルギを面白がり、リナは立ち上がりながら、ハンカチで服を払った。


「…四つ葉のブレスレット、買ったんだって~?」

「………!」


ルギは耳まで真っ赤になりながら、絶句した。

この街の近辺、すべての情報網を持っているリナに、隠し通すことは出来ない。


(…あのジジィ…)


ルギは、先日行ったアンティーク屋の店主を思い出しながら、あとで首をシメてやる、と心に誓った。

ハァ、と小さく息を吐きながら、呼吸を整える。


「…しかし、それは…あいつへの詫びで、他に他意は…」


ルギが言うと、リナは楽しそうに、クスクスと言った。


「あんた、四つ葉の意味しらないの? それぞれの葉の意味が、『名誉』『富』『健康』『愛』。これらが全部そろって…『真実の愛』=プロポーズになるのよ」

「………!」


顔が真っ赤になり、思わず、


「そういう意味じゃない!」


とルギは叫ぶ。

しかし、さらに面白がり、アルスは続けた。


「大体、あんた、女の子にアクセサリーって、どんな意味であげるか知ってるの?」


もちろん、ルギが知るはずもない。


「ブレスレットは-、『手錠』の意味。『束縛したい』『俺のものでいろ』ていうときに送るのよ♪」

「嘘だろ…」


ルギは、頭上に隕石が落ちてきたような衝撃を受けた。

今さら、返してくれなんて言えない。

くすくす笑うリナ――アルスの声も、ルギの耳には届かない。

どうか、ラシェルがそれらの意味に気づかぬよう、ルギは願うしかなかった―


* fin *

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