九、迷宮の奥にて君を待つ
九、
「――とまあ、こういうわけよ。だから、あたしは最下層に行かないといけないわ」
秘宝『炎の卵』が失われたこと。魔術師集団たる赤の門からの追放。
起きた悲劇――二十名余りが死亡した、アーシャは事故であると思っていたそれが本当は違うかも知れないこと――と、遺体すら残さず消し飛んだと思われたアーシャの伯母、イシュテリア・テセラ・フェルマータがあの地下迷宮に現れたことについて。
伝わった情報は、アーシャを呼び寄せるために広められたのではないか。
そう推測したこと。
現にイシュテリアがここにいて、姿を現したこと。
それらを掻い摘んでソエモンに話した。時系列順に、なるべく感情を交えずに説明したつもりだった。冒険者として生きてきた日々は長くなるから適度に省いた。
だが大事な部分は語ったとアーシャは考える。これまで誰に対しても、こんな風に自分語りなどしたことがないから、なんだか妙な気分だった。
過去を克明に話すと、自分をさらけ出した気分になる。裸身を見せたわけでも、心を見透かされたわけでもないのに。己を知られるのは、こんなにも気恥ずかしいものだったのか。
起きた出来事と、自分の考えとを、ひたすら客観的に話しただけだ。
ソエモンはほとんど口を挟まなかった。かなりの部分を簡潔にまとめたから、語っていた時間は全部合わせても一時間弱くらいだ。
途中、何度もお茶で喉を潤した。こんなに一方的に語り続けたことなどない。黙って聞いてもらうだけで、どういうわけか少し満たされた気分にもなった。
ふう、と小さく息を吐き出して、アーシャはカップを傾けた。
「で、アーシャはどうしたいんだ」
「どう、って」
「真実を知る。それは良いさ。あのイシュテリアと対峙する。これも悪くない。だが、その真実が自分の思うようなもんじゃなかったら、どうする」
「……どういう意味」
「自分でも分かってるんだろう?」
じっと、目を見てきた。ソエモンは、真剣な表情だった。
アーシャはその透徹した視線に、少し黙った。ただ、目は逸らさなかった。
防音がしっかりとしているために、他の部屋の音も全く聞こえてこない。
深夜に近い。聞こえてくるのはソエモンの息づかいと、自分の鼓動くらいだ。
見通すような視線に耐えられなくなって、身動ぎすると、わずかに衣擦れの音がする。
「そう、ね」
認めると、素直に言葉が出てくるものだった。
「出てくる真実が、あたしに都合の良い内容であって欲しい。それは思ってたかも」
「あのイシュテリアって女が、実はアーシャのために動いてた、とかか」
「そうだったら嬉しいわね。ありえないと思うけど」
「そうか?」
長々とため息を吐き出してから、アーシャは自説を披露した。
ずっと考えていた。
ありえざる筋書きを排除した先に残った、輪郭だけの真相を。
「あたしの仮説としては、あの悲劇――秘宝『炎の卵』の暴走がリア伯母さんによって仕組まれたもので、秘宝を盗んで自分は身を隠し、ほとぼりが冷めた今になって力を使おうと思ったら、秘宝を使うためにはあたしが必要だったことが分かって、仕方なく生きたままあの地下迷宮の最下層に呼び寄せることになった……みたいな」
「それは、なんというか」
「ありがちでしょ? でも、あたしの知識と、今まで得た情報を全部まとめると、そんな流れとしか思えないのよ」
「否定する材料は無い、んだよな」
「無いわ。多少矛盾するのは、地上で襲ってきた影があたしを殺そうとしたことくらいだけど……ソエモンが言った通り、勝てない相手じゃなかったもの。ま、いくらリア伯母さんでも、モンスター相手に細かい指示を与えられなかったって可能性はあるけど」
ここまでアーシャが口にしたところで、そういえば、とソエモンが首を捻った。
「モンスターを呼び寄せるとか、作るとか、操ることって、出来るのか」
「誘導なら、腕の良い魔術師なら出来るわ。魔力の供給さえなんとかなれば、ほとんど魔力のない場所、たとえば地上に呼び寄せることはできる。あたしを襲った影の魔物みたいにね」
魔術師の専門分野となると、つい口が軽くなる。
饒舌になったアーシャに、ソエモンが疑問顔でさらに尋ねてきた。
「じゃあ、あの天使や鬼もどきは、あの女が作ったと思うか?」
アーシャは考える。無関係であると考えるのは楽観に過ぎる。しかし、だからといってイシュテリアがすべてを制御していると考えるのもあまり現実的ではない。
どんな魔術師にも限界がある。どれほど現実離れした業を用いようと、所詮は人間でしかない。特に魔術師なんて人種は自分の力量の限界を見極めるのが上手な部類だ。
出来もしないことに手を出した瞬間に、死ぬ可能性が跳ね上がる種類の存在なのだ。
「空間転移なんてトンデモ魔術まで使う以上、可能と考えても構わない……かしら」
「あの手品か?」
あまりにあっさりと言われて、何のことなのか一瞬分からなかった。
アーシャがもの問いたげに顔を見ると、ソエモンは適当な口調で説明した。
「……気づいてなかったのか。あれ、実体が無かっただろ」
「うそ」
気配があった。だからこそ、アーシャは空間を渡ったのだと思い込んでいた。
「そこにあるだけで、いなかった。気配が生き物のそれとは微妙に違っただろうに」
分かる人間がどれだけいるというのか。アーシャですら、気づかなかった。
「映像と、音だけを飛ばしてた、ってこと?」
「魔術師ってのは器用なんだろ。魔力でガワだけ作った感じだな。張りぼてみたいなもんで、何かの衝撃ですぐに消え失せるってとこか」
難しい顔のアーシャに対し、補足するように続けられた。
「動き方やら何やらは本人そのままなんだろう。そうでなければアーシャもすぐに気づいたはずだ。戦うとなれば危険であることに否やはない」
考え込んだのは一瞬だ。アーシャの口を突いて出たのは、それを用いた仕掛け。
「秘宝の暴走に巻き込まれても問題なかった……本人はその場にいなかったから」
「そうなるな」
「本人が何らかの仕掛けをした。あるいは暴走するか、その可能性が高いことを知っていた。何が起きるか最初から予想していたなら、ことが起きた瞬間に即座に現場に向かうことも出来る。儀式の場にいて生き残ったのはあたしだけ。他の全員は死体も残さず消し飛んでしまったから、リア伯母さんも同じように死んだと、誰もが思う」
推測の傍証がいきなり出てきてしまった。
「ん? もしかしてソエモン、本物じゃないって最初から気づいてたってこと?」
「薄々とは」
「ああ……だからリア伯母さんが出てきて、待望のカタナが目の前にあるのに、あんまり本気で気にした感じじゃなかったわけか。そうよね。いざ本物だと思ったら、あたしたちの会話に無理矢理割り込んで、あのカタナについて聞きだそうとするわよね」
「見た目はよく出来てたがな」
「なんだかなぁ」
アーシャは遠い目をした。
「まあ、いいわ。そうよね。リア伯母さんが使ったのは空間転移じゃない。それが分かっただけでも前進だもの」
「そんなに危険か?」
どうしてこれだけ危惧していたのか、分かっていないソエモンから問われた。
「敵対した相手が空間転移を自由に扱える場合、まず勝ち目が無くなるからよ」
「ふむ」
「そうね。たとえば……空中に転送されて転落死するなり、狙って壁の中の隙間に転移させられて窒息死するなり。壁の中にいる、なんて背筋の寒くなる話よね。頭上に刃物なりメイスなり、岩や鉄塊などの重量物を転送したり、敵の足下の床などを転移させて落とし穴に転落させたり。他にもいくらでも応用が利いてしまう。もしそういった小回りが利かなくても、ごく単純に、敵の背後に転移して不意打ちというのも可能でしょ」
「後ろにいきなり出てきたら、振り返って斬ればいいんじゃないか?」
「……あんたはそうでしょうけど」
ソエモンからすると大した問題ではないようだ。
「そこまで問答無用で相手に影響を及ぼせるか? アーシャだって炎の矢を狙って打ち出してるよな。それを最初からモンスターの体内に出現させるようなもんだろ」
「それは、そうだけど」
モンスターも人間も、身体中に自身の魔力が巡っている。
だからこそ炎の矢や風を撃ち込むなり、雷撃を発射するなりして、攻撃力のある物理現象として落とし込まなければ魔力はその効果を十全に発揮出来ない。
空間転移が本当にあっても同じだと、そう言っているのだ。
「まあ、あんまり考えても意味がないってことは分かったわ。ありがとう」
「礼を言われることじゃないと思うが」
「感謝くらいさせてよ」
「分かった。どういたしまして」
色気も何にも無い話題だ。アーシャは自分のことを棚に上げて、苦笑した。
最後にイシュテリアの実力、主に以前好んで使っていた魔術の種類や、近接戦闘の腕前、どういった戦術展開を好むかなどを、思い出せる限り伝えた。
実感の籠もったものだが、数年以上前の情報でもあるので、あまり過信しないように言い含めた。
ソエモンは適当に頷いている。と、いきなり話を変えられた。
「炎の卵って、どういうもんなんだ」
アーシャは答えあぐねた。じっくり観察したわけではない。あの悲劇は、初めて見たその日に起きたことだった。手に触れた直後に何もかもが消し飛んでいたのだ。それでも全く情報が無いよりはマシか、と言葉を探りながら口を開いた。
「形状は名前通りの卵よ。普通の卵よりかなり大きいわね。だいたい、……あたしの両手で包みきれないくらい。見た目は巨大な宝石。真っ赤で、表面近くはルビーみたいに透き通っているのに、やっぱり卵のように中は見通せない。まるで炎に包まれた卵のよう。だから炎の卵って名付けられた遺物。安易というか、安直というか」
すべすべとしていた。炎の卵という名称から常に熱いのかもと想像していたが、そんなことはなく、つるりとした石を撫でたときのように冷たかった。
「赤の門の秘宝にして儀式の要となる遺物。赤の門における最高位の魔術師として幹部全員に認められた者だけが、あの炎の卵に触れることで秘術を継承する……らしいわ」
「らしい、って」
「本当の意味で秘術を受け継いだ魔術師なんていないもの。たまにあるのよね。ちゃんとした使い方も分からない遺物を、昔から伝わってるだけで有り難がることが。幹部認定ための儀礼よ。あたしが失望しないように、他の幹部から先に聞かされたってだけ」
「その秘術ってのは」
「知らないわ。途中で失伝したのか、それとも誰かが吹聴しただけか。どっちにしても百年単位でその秘術を受け継いだ人間なんて存在しないし、眉唾ものだと思うけど」
「ふむ」
ソエモンは怪訝そうに眉をひそめた。
「秘宝って呼ばれているわりには、そんなに大事な遺物じゃなかったってことか」
「大事は大事よ。『赤の門』の最初期は、あの炎の卵を中心に形成された組織だったらしいから。今となっては使い方が分からないから、新幹部の箔を付けるためにしか用いられてなかったわけで。無くなったら誰もが怒るけど、本気で困るかっていうと疑問ね」
「じゃあ、なんで追放されたんだ?」
「本拠地が壊滅して、死者があれだけ出たら……誰かが責任を負う必要があるでしょ。儀式の責任者はみんな死体も残さず消し飛んで、残ったのはあたし一人。色々の思惑の結果として、あたしの追放に落ち着いたのよ。かなり温情のある結果じゃないかしら」
「そうか?」
「秘宝に触れたら暴走した。誰にも予期できない事故だったけど、犠牲者や被害が大きすぎた。兼ね合いを考えたら、まあ妥当か、面子を考えたら甘いくらいでしょうに」
自分が原因だとすれば受け入れるべき内容だ。しかし、それが他者の手によって仕組まれたものであれば話は変わる。
アーシャも今更赤の門に戻ろうだなどとは考えていないが、事実の内容如何では少なくとも気は晴れる。ソエモンはしかつめらしい顔を崩さなかった。
ただ、これだけ聞いてきた。
「イシュテリアはどうして炎の卵を持ち去ったんだ。使い方すら分からないものを」
「考えられるのは二つね。リア伯母さんには秘宝の使い方が分かる。もしくは、使い方が分からなくても持ち去る必要があった。そして、どちらの場合でも……今は、あたしの存在が必要である。何にしても最下層まで辿り着かないとね」
地下迷宮の最下層で待っているイシュテリア。過去の真実も、現在の実情も、彼女から話を聞き出さなければ分からない。
「話はここまでだな」
「ええ」
なんだか殺伐とした雰囲気が部屋を満たしている。
「俺は宿に戻るが」
腰を上げ、ソエモンが部屋を出て行く。見送ろうとすると、振り返って言われた。
「それ、可愛らしい寝間着だな。まあ、少女趣味に過ぎる気はするが」
「……えと」
言葉に詰まる。不意打ち過ぎる。
「男を誘うには向いてないと思うぞ」
「別に、そういうつもりじゃないし」
「知ってる」
「……っ」
一瞬怒鳴りかけて、夜中であること、ドアを開けっ放しであること、ソエモンに良いように遊ばれている感が凄まじかったことなど、いくつもの要因がアーシャに声を飲み込ませた。
ソエモンが苦笑だけ残して、足早に廊下の向こう、出口のある方へと去った。
すっかり姿が見えなくなって、足音も聞こえなくなってから、静かにドアを閉めた。
アーシャは部屋の中に戻り、うつぶせにベッドに倒れ込んだ。
「あれで気を遣ったつもりなのかしら。まったく」
枕に顔を埋めて、吐きにくい息を漏らして、小声で呟く。
「なによ、もうっ……」
それから眠りに就くまで、長い時間はかからなかった。
二人は冒険者のたまり場となっている酒場、ラスティネイルへと足を踏み入れた。
まだ朝だが、まばらに客が入っている。小さな黒板には本日のランチメニューとお品書きもある。ツマミ以外はあまり種類はないが、食事も取れる店であった。
奥の席で手を振る男がいた。マイセンだ。時間帯は取り決めていなかったが、朝からいるところを見ると、けっこう辛抱強い性格かもしれない。
「ヘェ、ちゃんと生きて帰ってきやがったか」
「良かったわね、恩を売った情報源が生きてて」
マイセンの隣に腰を下ろして、アーシャが微笑む。
「で、真っ赤っかな魔術師どのは、オレに何を話してくれるんだ?」
「何が聞きたい? ある程度のことなら話してあげる」
マイセンは色々と聞き出そうとしている。アーシャもいくつか広めたい情報がある。微妙な駆け引きを尻目に、ソエモンは少し離れた場所に座って水を注文していた。
「そうだな。じゃあ、オレが一番損しない方法は」
「今日を含めて三日間、迷宮には潜らない方がいいわよ」
「具体的には」
「天使もどきに殺されたら、天国もどきに連れて行かれるんじゃないかしら」
アーシャは自分で口にしておきながら、すごい響きであると感心した。
「確認したわけじゃないけど、天使もどきか、もっとヤバイのが出るかもね。あたしとソエモンがこれから潜って、最下層まで一気に突っ込むわ。で、あたしたちが帰ってくるまでは普段の迷宮と思わないほうが良いわよ」
「おいおい。そりゃあ」
「出来るから言ってるのよ」
マイセンは黙った。信憑性を感じ取ったのだろう。素直さに免じて、天使もどきの危険性と、ついでに鬼もどきの情報も教えてあげた。
主観と付け加えた上で、その強さについても誇張せず語った。トロルよりも腕力が強く、シルバーウルフよりも素早く、一部屋丸ごと焼き尽くす黒い雷の魔術を使い、口からは溶解液を吐き出し、肌は岩のような硬さで、悪知恵も回る、悪魔のようなモンスター。
トロルやシルバーウルフですら強敵として扱われている。それらを兼ね備えた化け物が地下三階の段階で出てくるとなれば、こんな迷宮に潜るのは命知らずのみである。
魔術師イシュテリアについても簡単に紹介しておいた。あまり旨味のない迷宮であると情報が広まれば御の字だった。無駄に犠牲を増やす必要はあるまい。
聞いたマイセンは顔が引きつらせた。
「……へへへ。聞いておいて良かったぜ。この情報はオレが売ってもいいのか」
「好きにしなさい。でも、証拠は無いわよ」
後から気づいたが、鬼もどきの魔石を横取りされた。入手出来ていれば、かなり巨大で質の良い魔石が得られたはずだから、それを証拠として提示出来たはずだった。
「証言だけで十分だ。天使もどきを見て生き延びたヤツがいるんだ。あいつ、知る人ぞ知るパーティーの一員だぜ。ぶっちゃけ最下層到達レースの最有力だったしな」
そういえば名前も知らない。天使もどきから逃げ切った生き残りの男。
「クラウスって名前らしい。聞き出すのがけっこう大変だったけどよ」
「ふうん」
「聞かない方がいいんだろうけどよ。やっぱり聞いておくぜ。ダメだったのか」
「分かってるのにどうして聞くのよ」
「オレだって色々考えるんだよ。そいつは、もう戻って来ないんだな?」
「灰にしたわ」
「……チッ。やっぱり聞かなきゃよかったぜ」
マイセンは顔をしかめた。アーシャは、ため息を吐いた。
「どいつもこいつも。冒険者ってヤツはみんなすぐ死にやがる。オレみたいに小銭を稼いでちまちま生きるって考え方が、どうしてできねーんだろうなァ」
「あんたがどう考えてても、それも冒険者の生き方よ」
「クソ、魔術師どのの言い方は、上から目線でありがたいこった」
笑顔を向けてやった。
「あたしの方が冒険者としては長いわよ。だから忠告してあげてるの。あんたなら言葉だけでも十分でしょ」
「オレも偉そうにしたかったら、もっと長く生き延びろってことかよ」
「ちなみに何年目?」
「ようやく一年目だ」
「なら、かなり見込みあるわよ。少なくとも一年目のあたしよりは上手」
「……そっちは」
「ざっと四年くらいね。ま、せいぜい頑張って生き残りなさい」
「これだから魔術師ってヤツは嫌いなんだ! そっちも死ぬんじゃねえぞ」
席を立つ。懐から取り出した紙幣を置いた。マイセンが頼んでいた料理の支払いと、ソエモンが頼んだ水の代金。出したのは、その額の十倍くらいだ。
「おいおい、ちっとばかし多すぎねえかコレ」
「正当な対価よ」
「……さっきの話、広めろってことかよ。安くしたって聞かないヤツはいるぜ」
アーシャは静かに続けた。
「安くする必要は無いわよ。むしろ高くつり上げなさい」
「はァ?」
「命より高いものなんて存在しないわ。だったら、それに見合った情報が安かったら疑うでしょ。嗅覚のある連中ならそれだけで分かるわよ」
「……ああそうかい。せいぜい儲けさせてもらうぜ、魔術師どの」
「死ななかったらまた会いましょ。期待のルーキー」
マイセンを残し店から出ると、ソエモンも席を立って出てきた。
「期待のルーキーなのか?」
「運はあるわね。ま、誰もが最初はそこからよ。……あんたは例外だからね?」
「アーシャもだろ」
「かもね」
食料をいくらか買い込む。荷物をまとめる余裕がない可能性もあり、使い捨ての寝袋も持ち込むことにした。道具を背負い袋に入れて、おおよその準備を終わらせた。三日という期限は切られたが、遅くなって状況が改善するとも思えない。
アーシャはその旨を伝え、ソエモンは快諾した。
あとは迷宮に潜るだけだった。
「もう一カ所、寄ってもいいか」
くすりと笑って、ソエモンの顔を見上げた。
「はいはい。武器屋ね」