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彼と彼女の迷宮えれじい  作者: 三澤いづみ
第四部 『背中合わせのわたしたち、あるいは塞神迷宮に糾える愛』

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『お久しぶりです!』 ~プロローグに代えて~



 初見の場所、しかも周囲の様子が変わったこともあり、注意深く進んでいる最中だった。

 入口からここまでずっと自然の洞窟めいていた道のりが、ある地点を境に、整然とした通路に変わった。


 突然、天然から人工の迷宮にすり替わった印象だ。

 手にしたランタンの明るさとは違う種類の、たとえばヒカリゴケに似たぼんやりとした柔らかな光、壁や天井から眩しくない程度の光がうっすらと放射していて、完全な暗闇から脱せたことは素直に喜ばしい。

 視界が急に開けたものの、警戒するに越したことはない。


 発光する通路は遺跡型のダンジョンに稀に見られる仕掛けだ。特定の構造を持つ迷宮でのみ報告されている珍しい特徴でもある。

 些細と呼ぶには見逃せない変化に周辺の観察を続ける。気を引き締めておく。

 そこからはなだらかな下り坂になる。ここもひたすらまっすぐな道が続いた。


 ゴブリンを筆頭に雑魚ばかりではあったが、洞窟部分では散発的にモンスターと遭遇、戦闘してきていた。

 それが、この通路に入ってからは一切出現していない。これも不穏さを覚える理由のひとつだ。


 普段と違って、敵の不在が嬉しくない。

 考えられる理由は主に三つ。一つ、この通路が特殊で一切モンスターが立ち入れない。二つ、今のところ長い一本道だけれど、たまたま遭遇していない。

 三つ目の可能性を考えたところで、長らく直線だった通路の正面に壁が見えた。すわ行き止まりかと目を凝らせば、直角の曲がり角になっていた。死角があるため、進む前に一応立ち止まって気配を窺う。


 この状況で不意打ちはないだろうが、慎重に先の様子を確かめておくことにしたのだ。

 わずかに顔だけ出すにとどめたのは、この瞬間、何かの違和感を覚えたからかもしれない。


 自分たちの今いる薄明かりに包まれた通路と違って、曲がり角の先は暗かった。

 明暗の差のせいもあってか、深い暗闇の向こう側は何一つ見通せない。


「あーっ! そこにいるのはルビー先生じゃないですか! お久しぶりですっ!」


 聞こえてきたのは若い女性の声だ。場所に似合わず明るい響きだった。

 周囲に満ちた沈んだ空気を吹き飛ばすような大声でもあった。


「先生! わたしのこと覚えてますよね!?」


 声よりも口調に覚えがあった。半年ほど前、アーシャは学園長に請われて講師をつとめた。迷宮都市が誇る学び舎のひとつアフラバーン学園。そこで教えた生徒の一人だろう。


 ルビー先生。

 アーシャが名乗った偽名で呼ぶのだから、相手は知った顔のはずである。

 特徴のある元気いっぱいの少女めいた声だが、記憶を辿るに、ほとんど同年代か、もしかしたら年上だったかもしれない。


 冒険者学園は名前こそ学校だが、実態としては職業訓練所に近い。

 よほど幼かったり、あるいは年老いていないかぎりは入学できるのが特徴で、だから生徒の年齢に幅があった。

 入学時に届け出はしているだろうが、一講師がいちいちすべての生徒の年齢を聞いたりはしない。

 わずか一ヶ月間ほどの講義だったが、先生と生徒の関係だったことも間違いない。


 とはいえ、声はすれども姿は見えず。

 はっきりと顔が見えたなら、名前を思い出せるかもしれない。あるいは最近良く似た声を聞いたせいで、他の誰かと混同している可能性もある。

 背後に控えたソエモンに声も視線も送らず、後ろ手にランタンを受け取ってもらう。


「久しぶりね。ああ、それ以上近づかないように」


 さらにアーシャは遺物のナイフをさりげなく取り出し、声の方角に言葉を返した。


「ええっ、どうしてですか!?」


 その年若い女の声は、曲がり角の先、光など一切ない道の奥から響いてきたのである。

 声のやり取りを経てなお、アーシャからはまったく見通せない闇の中だ。

 もちろん、明るい場所にいる人間からは、暗い場所にある姿は視認しづらいものだ。


 向こうからはアーシャの顔が見えて、だから声をかけてきただけかもしれない。

 体質的に、夜目が効くから問題なく動けるのかもしれない。

 あるいは何らかの特異な遺物を手にしていて、その効果によって暗闇のなかにあってすら普通に振る舞える可能性だってある。


 それでも異常ではあった。なにせ、ここはダンジョンの中なのだ。しかも冒険者ギルドに報告されてすらいない、未踏破、未管理の迷宮での遭遇だった。

 もうひとつ付け加えるのであれば、現在二人が行なっているのは探索でも調査でもなく、人探しの最中だった。


 捜索している相手は未だ見つからないのに、想定外の人物が現れる。これを単なる偶然として片付けるには、あまりにもタイミングがおかしかった。

 疑うには、怪しむには十分すぎたのだ。


 タイトルにある通り、「お久しぶり」です。

 こちら、迷宮えれじいの新作となります。

 まさか第三部から十年も空くことになるとは思いませんでした。待っていてくれた読者の方も驚くでしょうが、それだけ昔の話の続きを書けた作者も驚いています。

 めっちゃ頑張って書いたので、楽しんでいただければ幸いです。

 あ、感想とか点数とかは応援の気持ちでジャンジャン出してくれると嬉しいです。 三澤いづみ

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