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暴力女、華麗に舞う。

久しぶりの投稿です。暴力について、人のコミュニケーションについて書いて行くにあたり、どう始めればいいかなあと模索した結果がこれです。


ではどうぞ。

 暴力は弱さの1つの形である、なんて言葉がある。


 どんだけ面倒くさいことも、たった拳を1つ上げるだけで、結果の良し悪しはともかく、片が付いてしまう。創作の世界では右手1本ですべてを解決するような主人公がいるくらい、暴力ってのは簡単に事を終わらす。話し合うこともろくにせずに暴力に頼るのは、忍耐力の欠如、それこそ1つの弱さの形なのだろう。


 俺、芥川健一はそんな、暴力を振るうヤツを怖いとは思えない。むしろ口で攻撃してくるほうがよっぽど怖い。男女問わずネチネチと因縁をつけてくる輩とはお友達になりたくない。出来れば同じ空気も吸いたくない。世の中でからんで、利益を生まない交流はできるだけ避けたい。





 では、俺の目の前にいる女はどっちなのだろうか?



「殴るぞ」


 そう言って、いきなり俺に宣戦布告してきた女は、右手の拳を固めて殴る準備を整えた。

 因縁をつけるといっても、殴ると最初に言ってくれる分、ただ殴るやつよりは親切な気もするし、タチが悪いような気もする。


 ことは数分前にさかのぼる。

 何をしたわけではないのだが、廊下を歩いていたところをいきなり声をかけられたにもかかわらず何も話さないので、少し小粋なアメリカンジョークを語ったところで脅し文句が飛んできたのだ。

 ジェニファーがチョウザメをフカヒレにした話はウケが悪かったのかもしれないが、さすがに殴られるほど出来は悪くないとは自負している。


 確かに初対面の人がアメリカンジョークを話し出したら困惑するだろうが、一応話を聞いて一区切りしてから行動を起こすのが普通だろう。それなのに「殴るぞ」ときた。論理性のかけらもない、急に話の間にぶち込まれた一声。


 さあて、どうしたものか。


 いったん殴れるかどうかを試してみるってのはどうだろう。殴り方1つで人間性を見ることもできるし、殴られなければ殴られなければで内心ビクビクしながら脅しているのも分かる。断じて俺はMではないとだけ追記しておく。

 そうと決まれば、と俺はテンプレの言葉を発した。


「殴れるものなら殴ってみろよ」


 その刹那。俺の腹部めがけてストレートに右手が飛んできたことを確認すると、腹筋に力を入れてダメージを極限まで減らす。

 鈍い音を立てながら、お腹に重い振動が伝わった。

 途中で減速することなく貫かれた拳は内臓を響かせ、それなりのダメージを腹部に与える。


 どうやら殴るというのに慣れているらしい女は、手加減というものを知らないらしい。

 だがそれでいい。ねちっこく、「芥川君ってしょうもないよねー」と陰口を叩かれる方が10倍内臓に負担をかける。断じて俺はMではないのだ。


「良いボディーだが、ボクシングジムにでも通っているのか?」

「…………」


 女は無言で俺の腹をサンドバックのように殴り続ける。

 殴られるのは慣れているから、いくら殴られようがKOされることなどないが、ずっと殴られっぱなしというのも生きた心地がしないので飛んできた拳を受け止めた。


「……っ!!」

「なんなんだ一体、いつから廊下はジムになったんだよ?」

「殴るぞっ」

「それ殴ってから言うセリフかよ? ったく……」


 そうして俺の顔を睨みつけてくる女の顔を見て、その女がちょっとした有名人であることに気付く。


 出灰七奈。

 腰の高さまで伸ばしたボサボサの茶髪に女性的なプロポーションを持っているが、常に威嚇しているような鋭い眼とその狂暴性から暴力女の烙印を押されている同じクラスの要注意人物。

 ときどきケンカになりそうな場面を教室で見たことがあるが、実際に人を殴るのを見たのは初めてだ。まあ俺自身が殴られているのだが。


「んで、何の用だ? 別に殴るために引き留めたわけじゃないだろう?」

「だからその……えと、殴るぞぉ」

「出来れば質問に答えを返してほしいのだが」

「殴り返すぞ」

「俺は殴ってねえよ!!」


 論理性のかけらもない受け答えから察するに、よほど人が殴りたいのか、殴るぞという言葉に何か深い意味が隠されているかのどちらかだろう。ということで、この女の言語でしゃべってみることにした。


「殴るぅ~ぞ?」

「……殴るぞ」


 どうやら通じないらしい。しかし、この一線を越えると殴る以上のことをしてくるような気がしたのだが、それは杞憂に終わったようだ。本当に何が俺の目の前で起こっているのか、説明を至急求めたいが、今は場を和ませるのが先決だろう。


「あるところにゴールドマンっていうお金に目のない奴がいてさ。一攫千金を狙おうとトリュフを探す豚を購入したらしいんだ。その豚と一緒にトリュフを探すんだが、それが一向に見つからなくてね。豚を買っては捨て買っては捨てを繰り返してたんだ。最終的には食うもんがなくなっちまったから、今度は鹿猟を始めたらしいよ?」

「な、殴るぅぞ?」

「殴る要素がどこにあったよ!?」


 せっかくアメリカンジョークを披露しているのに、まったく状況は進展しない。キャビアにトリュフに、あとフォアグラで三大珍味制覇してしまうのだが、この責任はどう取ってくれるのだろうか。

 それともあれか? アメリカンジョークが通じない人間なのか? 世の中にはアメリカンジョークが通じないヤツもいるしな。


 そうこう模索しているうちに始業のブザーが廊下に鳴り響いた。


「やっべ、次って体育だったよな。早く出灰も行けよ。じゃあな」

「……っ」


 こうして逃げるきっかけを掴んだ俺は、女の右手を離してそそくさとその場を立ち去るのだった。


 ※


「出灰さんが殴ったとこ? 僕は見たことないなあ」

「そうかぁっ、ふっ、ふっ、ふっ」


 体育の時間、俺は柔軟運動の際に友人である八田玲人に出灰のことを聞いてみたのだが、別にこれといって情報は得られなかった。


「でもなんで出灰さん? まさか好きになっちゃったとか? まーあの人は美人だからな~」

「そんなわけっ、ふっ、ふっ、ないだろっ、ふっ、ふっ」


 俺の否定の言葉を気にすることなく、「またまた~」などと言って肘で俺の背中をグリグリと押し込んでくる八田。そのたびに息が肺から押し出され、口から情けない音が出る。

 コイツは色恋沙汰には何かと敏感で、誰かと誰かが付き合い始めたなどという情報を、どこから嗅ぎつけたのかいち早くゲットし、あろうことか俺だけに伝えてくるのだ。伝えられるこっちの身にもなってほしい。


 しかし八田はフィクション小説を多く読む傾向にあり、何でも好意にこじつけるのが悪い癖なのだ。

 女子が男子に怒ってるのを見て「ツンデレキターーっ!!」などと言い放ったり、少し女子が振り返るだけで「あの子、あいつに気があるんじゃね?」と決めつけたり。

 そして今回のように名前を出すだけで好きなのかと勘違いしたりと、八田の妄想癖は修正すべきレベルにまで来ている。


「よし、俺の番は終わりだ。八田、そこに座れ」

「分かってるって、芥川が出灰さんを好きなのは墓場まで持って行くよ」

「そうか、なら今からすぐに墓場まで送ってやるからしっかり持っておけ」

「痛い痛い痛い痛い!! その関節はそっちの方には曲がらなっ!!」


 しっかりと関節を決めてやり、柔軟運動という名のお仕置きはこうして着々と進んだのだった。


 ※


「出灰さんって、あの出灰七奈さんのことを言っているの?」

「そ、そうだけど、何か問題でもあるのか? 三島江生徒会長」


 本当なら自分で解決しないといけない問題なのだが、たまたま信頼できる相談相手と廊下で鉢合わせたので事の顛末を話してみた。すると廊下で立ち話もなんだからと生徒会室まで呼ばれた次第だ。


 三島江ゆかり。

 この学園の生徒会長で、この人とは昔から家族ぐるみで付き合いがあり、今でもときどき相談に乗ってもらっている。昔から可愛いことで評判の彼女がスゴイところは何といってもその社交性で、誰とでもわけへだてなく接し、その事もあってか生徒の話を聞くなら生徒会長、とまで言われるほど個人情報に精通している。


「確かに色んな悪い噂は聞くけど、一方的に殴るなんてのは聞いたことがないわね」

「そうなのか? てっきり常習犯だと思ったのだが……」

「案外悪い子じゃないわよ、あの子は。ちょっと性格に難があるだけで」


 あれでちょっとだと言うなら、お酢一本をまるごと料理にぶっかけてもちょっとの範囲内を出ないだろう。


「それで殴ってきたのはどんな意味があると思う? 三島江生徒会長」

「……ねえ、その三島江生徒会長っていうの止めない? ちょっと他人行儀すぎる気がするわよ。昔みたいにさ、ゆかり姉って呼んで? ね?」

「昔と今じゃ違うんだ。子供の頃に母親をママと呼んでいたからって、今もそう呼んでいるとは限らんだろ?」

「まーた論点をずらす。私と健一の仲じゃない、そう呼んでくれたっていいでしょ?」


 確かにゆかり姉とは昔から何をするにも一緒にいた。用事が全くなかったとしても俺の家でゆかり姉はテレビを見ながらゴロゴロしていて、よく夕飯なんかはこちらで食べていたものだ。幼少時なんかは一緒に居なかった時間なんて数えるほどしかなかったと記憶している。


「仲が良かろうがなんだろうが、ここは学校だ。ましてや生徒会長と話すならそれ相応の礼儀ってものが必要だろう」

「同じ生徒なんだから、無礼講で良いのよ? 生徒会長ってのもお飾りみたいなものだし」


 立候補したのもクラスメイトからの他薦で、そして生徒から公正な審査で選ばれた長というのに、お飾りだなんてとんでもない。

 そして泣き言も言わずに生徒会長の責務を十分以上にこなしている辺りはさすがは責任感の強いゆかり姉と言ったところか。


「まあ、呼び名のことはこの際に諦めてあげても良いけど、その代わり健一に頼みたいことがあります」

「なんだ?」

「出灰さんと仲良くなりなさい」

「はい?」


 ゆかり姉の意図が分からない。なんでいきなり殴ってきた相手と仲良くせにゃならんのだ。あれか? 拳を交わして仲を深める的な、青春ごっこをしろとでも言うのか? そんなことしてるよりかは本を読んでいるほうが将来の糧になるもんだ。


「私ね、キッカケがあれば出灰さんは変われると思ってるの。ささいなキッカケがあれば、健一みたいに」

「……それは昔の話だろ」

「昔も今も関係ないでしょ。生きていく方向なんてねいくらでも変えることはできるの。前にだって、それこそ後ろにだって。でも一人で走り続けると間違った方向でもまっすぐ進んじゃうから、人が正しい道を指し示してあげるの。ターニングポイントってこういう風に生まれるものじゃない?」

「まったく、臭いセリフだな」

「臭ければ臭くて結構。でも臭いものに蓋をかぶせるのは、もうちょっと後でもいいんじゃないかしら」


 それが臭いって言ってんのに、もうねえ。


 でも。

 俺のターニングポイントにゆかり姉が居たように。

 誰かのターニングポイントに俺も居られるのなら、そうでありたいものだ。

 ……俺も人のこと言えないな。


「分かったよ、でもなんで俺? 女子のほうが話しやすいんじゃないか?」

「あの子、弟がいるらしいから、男の子としゃべる方が幾分かマシだと思うのよね」


 殴るぞしか発さなかったあの状態がマシなのか? 増し増しの間違いじゃなかろうか。


「つーか、よくもそこまで知ってるよなあ……生徒のこと」

「生徒会長たるもの、生徒の氏名や住所に誕生日、家庭環境や家の電話番号ぐらいは知っていないとね」


 生徒会長の権限強すぎだろ。っていうかそれ全部を暗記してるのかよ、無駄にスペック高すぎだろ。


「まあ健一に限ってはどのアダルトサイトを使ってるかとかも分かってるわよ」

「なんだと!? 見終わったら履歴をすべて消去してるというのに、なんで知っている!?」


 しかもスマホにもパソコンにも4桁のパスワードでロックしているはずなのに……まさか1万通りすべて試したわけじゃあるまいな!?


「健一がパスワードにする数字は分かりやすいのよ、履歴も消すところ消さないと残ったままになるし」

「…………」

「でもね、健一もそういうのに興味があるんだーって思うと、ちょっとホッとしたわよ」

「俺はホッと出来ないんだが……」


 ってか、さっきからプライバシーが守られてる気配をまったく感じないのだが……これは自分の気のせいだろうか? むしろそれがゆかり姉が社交性や行動力を持ち合わせている要因なのかもしれない。とにかくパスワードは帰ってからすぐに変更しておこう。


「興味がない可能性も無きにしも非ずだったから怖かったのよね、いつも一緒にいるのに体を舐めまわすようなエロい目で見られたことないし」

「それは姉として認識してるから、どうしてもそういう風には見ることができないんだよ」

「じゃあなんで姉モノが多いの? 画面上のお姉ちゃんは良くて私だけダメなんて、傷ついちゃうなー」


 ……この女、俺の家、出入り禁止にしてやろうか。


「えーと、だから出灰と仲良くなればいいのな? 分かった分かった」

「うん、そうね。そういうことよ。それでさ、なんで私に対して」

「でもなんで俺? 女子のほうが良いんじゃないのか?」

「無視なのね……」


 なんのことだがさっぱりわからないな。


「それで? なんで俺にやらせる? 理由は?」

「健一ってすぐ理由を求めたがるよねえ……」

「もしかして、まったく理由がないというのか?」

「まあ理由もなくはなくないのかな?」

「どっちだ!?」


 疑問を疑問で返してはいけないって、確かどこかの漫画で読んだ。


「出灰さんって弟がいるのよ。それも2子下」

「中3か」

「ええ、だから男の子のほうが接し慣れてるんじゃないかしら?」


 確かに一理ある。あるクラスメイトの八田なんて、姉がいるから女子の裸なんて見飽きたなんてふざけたことを平気で抜かしやがるしな。だから本に没頭して妄想癖が付いたなんて可能性もある。

 それだけ、兄弟や姉妹であればこそお互いがお互いに慣れているだろう。


「でも俺はあいつに殴られた身だぞ? 正直、関係の修復は不可能だと思うが」

「諦めちゃだめっ、諦めたらそこで人生終了よ?」

「ずいぶんとハードな人生だな……」


 そうなれば今にでも死体の山が形成されそうだ。


「まあいいや、ゆかり姉の頼みなら断れねえしな」

「健一、ついにその呼び名で……」

「あ、ゴメン。素で出てしまった、三島江生徒会長」

「…………じとぉ」


 ゆかり姉は効果音付きでジト目を向けてくるが、別にいつものことなので気にしてはいけない。


「オーケー、じゃあフォアグラの話をしようか」

「どうでもいいわよ、そんなこと!! 私はこれでも忙しいんだから、帰った帰った!!」

「自分で連れ込んだ癖に何を言い出すんだか……」

「…………」


 その後、無言で生徒会室を無理やり追い出されたのは言うまでもないことだ。

どうだったでしょうか。


ここからの展開もいろいろと何となくは決めているのですが、なにぶん時間とか実力とかその他もろもろが足りないので、とりあえずここで一度区切っておきます。


暴力女と風紀委員の対決って鉄板だよね!

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