ジャーマンスープレックスをするだけの簡単なお仕事です。1
SFプロレスコメディもの(?)ですね(笑)
百聞は一見に如かずです。冒頭部分をどうぞ。
突然だが、俺には『悪魔』が見える。
悪魔と言っても、全身が黒で尻尾が尖っている一般的な物ではなく、ただ人間の後ろに憑いている小さい生命体で、背後霊とは言い難いビジュアルだったので、形式上『悪魔』と呼んでいる。
『悪魔』はどんな人間にでも憑いているわけではなく、色々観察したところ、ある一定以上の不幸が3日以内に降りかかる人間に取り付くらしく、不幸が降り注いだ後に自然消滅する事が確認されている。
あ、中二病じゃないからね。ココ重要。テストに出るよ。
それに気付いた俺は、『悪魔』が憑いている人間に積極的に話しかけて、事情を説明しようと何回も試みたが、信じてもらえるわけもなく、かと言って相手が事故に巻き込まれでもしたら後味が悪いので、後を付いて行って、不幸を見届ける事にしている。
断じてストーカーといった下劣な物ではない。絶対にだ。
現在もその最中で、深夜の公園をウロウロしている標的を改めて見つめる。
彼女の名は根尾かがみ。俺のクラスメートで、クラス1の問題児。別称、ミラーNEO。何をシデカすかは誰にも分からず、行動の理由も全く理解出来ない。勿論、今コイツが何をしようとしているかも、俺自身まだ分かっていない。
根尾の背中に憑いている『悪魔』は、俺が確認したところ一昨日から存在していたので、多分そろそろ不幸が降り注ぐだろう。通り魔だとか、そういうので無ければ良いのだが。
一瞬目を離したら、根尾の姿を目視出来なくなっていた。どこに行ったかと思えば、そこら辺りの壁に手を付いて、何やら呪文を唱えていた。つくづく人騒がせなヤツだ。
ホッと胸をなで下ろしたその時、根尾ではない別のシルエットが目に映った。しかも根尾一直線に突っ込んでいくじゃないか。コレは危ないと思い、急いで駆け寄るも、時既に遅し。
そのシルエットは根尾の背後に回り込み、腰を掴んで――――
「★▽■△●◎◆!?」
ブリッジをして根尾の頭を地面に叩きつけた。断末魔が辺りに木霊する。逆さまになっているせいか、スカートが捲れ、下着が見えてしまっているのは気にしてはならない。たとえ、そのパンツが無地にクマさんが描いてあったとしても気にしてはならないのだ。気にしたらそこで試合終了なのですよ。
さて、俺はこの技を知っている。テレビで何度か、ではあるが、確かに知っている。あまりにもダイナミックな技なので、忘れるはずがない。
ジャーマンスープレックス。
何がジャーマンなのかスープレックスなのかは分からないが、名称はそうだったはずである。プロレスの大技で、見た目のインパクトは群を抜いている。プロレスラーの技量はこの技の質によると言っても過言ではない。異論は認めるが。
しかし、目の前で繰り出されたソレは、文句の付け所がないほど鮮やかで、繊細で、そして豪快であった。根尾を助けるのを忘れて見とれてしまったのはココだけの話だ。
それじゃあ駄目じゃん、と思い直して犯人を取り押さえようと更に根尾の方へと近付く。
犯人も俺の気配を察知したのか、ブリッジの姿勢からそのまま立ってみせ、俺の方を向いた。公園の灯りが、シルエットの正体を照らし出す。
意外にも犯人は女の子だったらしい。少し困惑してしまうではないか。
ソイツは俺と同じ、または少し小さいくらいの身長で、黒色の髪を腰まで伸ばしていた。
服装は黒のゴシックロリータ、所謂ゴスロリといったヤツで、良くそんな格好でジャーマンスープレックスが出来たな、と不思議に思う。
「あなた、何か言いたそうね」
件の少女が俺に話しかけてきた。
まー、言いたい事は山ほどあるんだけどな。
「ちょうど良かったわ。私はあなたに聞きたい事があったんだもの」
「なんだ?」
その少女は俺を指差し、こう言った。
「私の仲間になって下さらないかしら?」
「断る」
「そうよね、運命的な出会いだもの、オーケーよね……って、え?」
了承してもらえると踏んでいたのか、少女が戸惑いの色を見せる。
「運命的で衝撃的な出会いだというのに、どうして仲間になって下さらないのかしら?」
「誰が、いきなり街中でジャーマンスープレックスを決めるゴスロリ少女の仲間になるんだよ!?」
「おかしいわね……この前読んだ少年漫画ではそうだったのだけど」
「その漫画は本当に商業誌か!?」
「月刊少年トレジャーっていう雑誌よ」
いや、冒険と言うよりかは迷走と銘打った方が正しいと思う。
「だから、仲間になってもらえないかしら」
「だから、じゃないから!! どこら辺に俺が仲間になる要素があったわけ!?」
「それは……」
空中で頬杖を突いたまま、挙動を止めるゴスロリ少女。
ったく、今日は良く分からん根尾の心配もせにゃならなかったし、変なゴスロリ少女に絡まれるわ、とんだ厄日だよ。まるで……俺に『悪魔』が取り憑いているかのような。
いや、そんなはずはない。
というのも、俺は『悪魔』に一回取り憑かれた経験があるからだ。
確かその頃だったか、『悪魔』が見えるようになったのは。あの3日間は俺の一生の中で最も忘却したいモノとなったのだが……とにかく!!
『悪魔』が二度も俺に憑く事は無いはずだと、恐る恐る後ろを振り向くと。
『悪魔』。
まごうことなき『悪魔』が、今まさに俺に取り憑こうとしていた。あっちょんぷりけぇ。
何で俺が『悪魔』に!? と戸惑っていると、ゴスロリ少女が腕に着けている腕時計のようなモノからブザー音が聞こえた。
「緊急事態よ、あなた。私に背中を向けなさい」
「言ってる意味が良く分からないのだが」
コッチはコッチで忙しいのに、なんだってんだよ。
「意味なんて些細な事はどうでもいいの。ただ、あなたという人材を失いたくないだけ」
本当に何が言いたいのか、サッパリ分からん。
『悪魔』は俺にしか見えないから、俺が今陥っている状況なんて分かるはずが無いしな。
いちいちコイツに付き合うのも馬鹿らしくなってきた。
「じゃあな。そこの女子高生はベンチにでも寝かせとくから。警察には突き出さないだけでも、ありがたいと思うんだな」
と別れの挨拶をして、根尾を肩に担ごうとしたその時。
後ろからしがみつかれた。
多分犯人はあのゴスロリ少女だろう、俺の腰に回している腕にはフリルがこれでもかと付いているから。
しかも、その手はガッチリとホールドされ、男の俺でも逃れるのは困難だった。
……まさか。
「ちょっと待て、ゴスロリ少女」
「柏原黒羽、クロハで良いわ。後に仲間になる女の名前よ」
「勝手に決めてるんじゃねえよ……で、これから何をするつもりだ、クロハ」
「体で分からせれば楽かなと思ってね。説明するのは無理そうですし」
やっぱり……じゃあ、もしかして。
「ジャーマンスープレックスを俺にキメるつもりか!?」
「あら、知ってたの? プロレスの大技で、見た目のインパクトは群を抜いており、プロレスラーの技量はこの技の質によると言っても過言ではないというあのジャーマンスープレックスを」
「説明ご苦労様。しかし聞きたいのはそこじゃない。GO or NOTって事だ」
「この状況からNOTを選ぶ人が居るとでも?」
ですよねー。
「じゃあ行くわよ」
そうして俺の腰に回していた腕に更に力が入ったかと思うと。
抵抗する事も出来ずに体が宙に浮き、気が付いた時には後頭部が地面に迫っていた。
「ちょ」
もう手遅れだった。後頭部と肩を強打し、その部分に激痛が走る。
そうして、視界が揺らいだかと思うと、黒く染まっていった。
ε=ε=┏( ・_・)┛
目を覚ますと、鉄骨が剥き出しになっている天井が俺を出迎えた。多分廃工場か廃ビルか何かなのだろう。
「痛てて……」
まだ引いていない後頭部の痛みが、先ほどの物事を現実だったと知らせる。
このままココに居ても意味がないと感じ、その場で立ち上がり、根尾を探すがてら出口を目指す。
出口と言っても、小さいドアが一つあるだけなのだが。
そのドアノブを捻り、外に出て――――
「肉は私が頂きますわ」
「クソッ、もっと俺に肉をクレー!!」
「……遅いゎ」
「えとえと、ちょっと皆さん落ち着いて」
焼き肉をしている若者集団4人に出会ったのだった。
どうだったでしょうか。
ココからキャラが自己紹介しつつの、『悪魔』に関して一頓着ありーのって物語です。
言ってみたら『悪魔』を倒す組織の一員になるってことですな。
しかし、実は主人公は……おっと、これ以上言うとネタバレが(笑)
☆感想宜しくお願いします☆